戸﨑圭太騎手、YouTube開設も「これはまずい」 人生変えた“ベリベリホース”と妻の後押し

中央競馬の戸﨑圭太騎手が今月26日、初の著書『やり抜く力 天才じゃなくてもトップになれた「ベリベリ」シンプルな理由』(Gakken)を発売する。地方競馬から中央へ移籍し、数々のGIレースを制してきたトップジョッキー。その一方で近年は、YouTube開設やドラマ出演など競馬場の外でも活動の幅を広げている。だが本人は、その変化に不安も感じていたという。

インタビューに応じた戸﨑圭太騎手【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた戸﨑圭太騎手【写真:ENCOUNT編集部】

感謝する周囲の支え「妻には以前から言われていて」

 中央競馬の戸﨑圭太騎手が今月26日、初の著書『やり抜く力 天才じゃなくてもトップになれた「ベリベリ」シンプルな理由』(Gakken)を発売する。地方競馬から中央へ移籍し、数々のGIレースを制してきたトップジョッキー。その一方で近年は、YouTube開設やドラマ出演など競馬場の外でも活動の幅を広げている。だが本人は、その変化に不安も感じていたという。(取材・文=猪俣創平)

 インタビュー当日。この日の予定を聞いた戸﨑は「すごいことになっていませんか?」と想像以上の取材数に驚きつつも、記者の質問にテンポ良く答えていった。

 今回の出版オファーを受けた心境を聞くと、「『えっ、僕で本当にいいのかな?』というのが正直な感想でした」と驚きを口にした。

 1998年に南関東・大井競馬で騎手デビューし、頭角を現した後、2013年から中央に参戦し、数々のビッグレースで結果を残してきた戸﨑。本書では、勝てない若手時代、落馬による大けがと長期離脱、中央移籍の壁、スランプなどトップジョッキーの知られざる真実が赤裸々につづられている。

「今まで自分のキャリアを振り返ってこなかったので、この機会にいろいろと見つめ直しました。本の担当の方と話をしていく中で、『こういうことがあったな』とすごく思い出させてもらって、新鮮な体験だったと思います」

 戸﨑といえば、昨年3月にドバイ・シーマクラシック(GI)をダノンデサイルで制し、馬上での英語インタビューで飛び出した「ベリベリホース」(とてもとても馬)が話題をさらった。「最高の馬」と伝えようとしたと思われるが、とっさに出た言葉が、のちにファンらの間で定着するなど、“迷言”から“名言”に。それをきっかけに、同年5月20日に公式YouTubeチャンネル「戸崎圭太のベリベリチャンネル」を開設し、活動に大きな変化をもたらした。

 YouTuberデビューを決意した動機は、自らが総代表を務める剣道道場「神奈川県川崎真道館道場」にもあった。これまでSNSの発信を控えてきたが、「保護者の方から『YouTubeとかSNSをやった方がいいんじゃない?』と言われて、剣道の魅力を広められるかもと考えて、なんとなく始めてみました」。

 初回動画から競馬ファンの間で注目を集めると、昨年12月頃には“銀の盾”獲得となる登録者10万人を超えた。しかし、YouTube挑戦にあたって「これはまずいぞ」と危機感を抱きながらの滑り出しだったという。

「実はYouTubeを見たことがあまりなくて、細かいことを知らなかったんです。もともとがデジタルにも疎い人間ですし、いざ始めてみたら『やばい、俺やっていけないんじゃない?』というのが正直な感想でした」と苦笑した。

 日頃から取材に答えるのは慣れている。しかし、カメラを前に一人で話すことは全くの別物だった。「いまも恥ずかしいのと緊張で……もっと柔らかくやっていきたいんですけど、まだ硬いかな(笑)」と試行錯誤を続けている。

 そんな戸﨑にとって、もう一つの“競馬外”の挑戦が、昨年10月期のTBS系日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』への出演だ。第2話で、主人公たちが応援する競走馬・ロイヤルイザーニャの鞍上として本人役で登場。レースで勝利する“おいしい”役どころでもあった。

本人役で出演した日曜劇場の裏側も語った【写真:ENCOUNT編集部】
本人役で出演した日曜劇場の裏側も語った【写真:ENCOUNT編集部】

番組Pも絶賛した演技…予想以上の反響も

 以前、番組プロデューサーを取材した際、戸﨑の自然な演技を絶賛していたと伝えると「マジですか?」と照れ笑い。「ドラマに出られるなんて普通はできることじゃないですから、ジョッキーをやっていて良かったですし、この時代に生まれて良かったです」と声を弾ませた。

 当時、千葉・中山競馬場での撮影は1日の予定だったが、雨の影響により2日間に及んだ。そして、撮影現場の規模にも驚いたといい、“俳優デビュー”の感想を語った。

「ドラマを作るのってこんなに大変なんだと感じましたし、スタッフの方もエキストラの方もすごく多くてびっくりしました。撮影はめちゃくちゃ緊張して、NGはなかったんですけど、もっとやりたかったなと……。慣れてくればできることもあると感じました。もし続編があって、また機会があればぜひ出たいです(笑)」

 また、ドラマ出演の反響も予想以上だった。

「ドラマを見て競馬を知った方もいると周りから聞きます。何より、『競馬=ギャンブル』というイメージから、いろんな人間ドラマがあって、感動するスポーツだと伝えられたならうれしいですよね。血統にもドラマや人とのつながりがあるんだと、競馬になじみのなかった方にも知ってもらえたのはすごくよかったと思います。それと、剣道の保護者の方から『戸﨑さんって結構すごい人なんだね』と言われましたし、そういう意味でも反響が大きかったです」

 YouTube、ドラマ出演、著書の出版――。昨年から現在まで、競馬以外での発信が急激に増えている。騎乗への影響を問いかけると、意外な答えが返ってきた。

「こんなにいろんなことをやって、悪い影響が出ないのか正直不安がありました。今までは競馬だけに集中して、そのために平日をどうやって過ごそうかと考えていましたから。それと、もともと出不精なんですよ。あまり外に出ることもなく、ずっと家にいる過ごし方が多かったんですけど、昨年からガラッと変わりました。競馬に影響しないかすごく心配ではありましたけど、特にそういうのはなかったです。ファンの方の僕に対する見方が変わって、反響も大きいなとすごく感じています」

 それでも前に出ようと思えたのは、勝負師らしい“勢い”と周囲の後押しがあったからだ。

「ドバイで勝たせてもらって『ベリベリホース』があって、流れがあると感じたんですよね。妻からは『もっとSNSとかやった方がいいんじゃない?』と以前から言われていて、背中を押してもらいました。YouTubeもそうですけど、周りの人に支えられていることが大きいですよね。自分が一人でやっているわけではなく、すごく助けてもらっていろんなことができています」

 今後のYouTubeについては「登録者数よりも、お世話になった地方競馬の魅力とか、剣道に関連する動画をいかに見てもらえるか」と目標を掲げ、本業では「GIを勝つことも大事ですけど、けがなく1年間やって、少しでもリーディングに近づけたら」と前を向いた。「出不精」と自らを称したが、多忙を極める現在は「逆に何かしていないと不安になるんですよ」とあっけらかんと笑った。その姿に、人生の充実ぶりがうかがえた。

□戸﨑圭太(とさき・けいた)1980年7月8日、栃木県生まれ。98年、南関東・大井競馬で騎手デビュー。2008年から12年まで5年連続で南関東リーディングジョッキーを獲得する。11年にはリアルインパクトで安田記念を制し、中央GI初制覇。13年に中央へ移籍すると、翌14年から3年連続でJRAリーディングジョッキーに輝いた。16年には特別模範騎手賞を受賞。25年4月、ドバイで行われたドバイシーマクラシックを制し、海外GI初勝利を達成。その際に放った“Very very horse!”(ベリベリホース)という言葉が話題に。160.8センチ、49.7キロ。

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猪俣創平

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