「受講生は全員外国人」日本のラーメン学校にインバウンド熱 43万円でも殺到する理由
「受講生は全員外国人だった」。香川県のラーメン学校が、いま海外から熱い視線を注がれている。受講料は1人43万円。それでも外国人が海を越えて集まり、わずか5日間の滞在で技術と経営を学び、母国での開業を目指す。その背景にあるのは、日本式ラーメンが持つ魅力と“ビジネスとしての強さ”だった。

「食べる」から「作る」へ 日本のラーメン学校が世界から選ばれる理由
「受講生は全員外国人だった」。香川県のラーメン学校が、いま海外から熱い視線を注がれている。受講料は1人43万円。それでも外国人が海を越えて集まり、わずか5日間の滞在で技術と経営を学び、母国での開業を目指す。その背景にあるのは、日本式ラーメンが持つ魅力と“ビジネスとしての強さ”だった。(取材・文=水沼一夫)
香川県にある大和麺学校は、いま世界各国から希望を抱いた受講生が集まる場所の一つだ。
取材に訪れた3月12日、キッチンをのぞくと、受講生は全員外国人だった。日本人の姿は一人もない。講師の話に熱心に耳を傾け、真剣な表情でラーメン作りに向き合っている。翌日には、それぞれが創意をこらしたラーメンを完成。卒業証書を受け取ると、間を置かず製麺機の商談が始まった。学びはそのまま“投資”へと直結していた。
学校は、ラーメンの作り方をゼロから習得できるとあって、起業を希望する外国人に人気だ。受講者はホテルに滞在しながら、5日間、毎日学校に通い、実技の授業や経営講義を受ける。2004年の設立当初は日本人の受講者が大半だったが、現在は逆転。外国人が半分以上を占めている。
オーストラリア・メルボルンから来日した49歳の男性は、夫婦で参加した。職業は税理士だ。15年以上にわたり来日を重ね、日本全国で食べ歩いた店は600軒以上。昨年だけでも8回来日し、九州から北海道まで足を運んだという。
その熱量が、今度は「母国でラーメン店開店」という挑戦を後押しした。
一方で、厨房に立つ予定はない。調理はシェフであるビジネスパートナーに任せ、自身は投資家兼経営者として店を動かす構想を持つ。そのうえで「現場を理解していないと成功しない」と考え、ラーメン作りや店舗運営の基礎を学びに来た。
「ビジネスを成功させるには、上から下まで理解する必要があります」
滞在は3週間。この学校への参加が、来日の主な目的だった。ビジネスパートナーもまた同じラーメン学校の出身だ。現地では、ラーメン店の出店契約を結んだばかりで、2週間後には改装を始め、初夏のオープンを見据える。1店舗にとどまらず、将来的にはオーストラリア国内での多店舗展開も視野に入れる。
オーストラリアでは、すでに日本発の有名ラーメンブランドが進出し、市場は競争が激化している。それでも、男性は「多民族国家で新しい食文化を受け入れやすい土壌がある」と可能性を見ている。特定の味が主流というより、「さまざまなラーメンを試したい」という消費者が多いのも特徴だという。
「すべてが興味深く、挑戦的です」
受講を通じて、製麺機などの設備や調理の工程を学び、「視野が広がった」と語る。「可能性にあふれた市場だと確信しています」と夢を膨らませた。

本場中国ではなく日本の学校を選んだワケ 高額な製麺機も「合理的な価格」
イタリア・ミラノから来た28歳男性は、現地で家族が営むコーヒーショップで働きながら、ラーメンを提供しているが、味は中国式が中心だという。
「ラーメンは素晴らしい料理で、大きなビジネスの可能性があります」
もともとソフトウェアエンジニアとして働いていた経験を持ち、「科学的に理解できる学校」を求めて来日した。情報収集にはインターネットだけでなく、生成AIも活用し、複数の学校を比較したうえで選んだ。
「すべてが理論的に説明されている。だから納得できる」
ミラノでもラーメン人気は高まり、本格的な専門店は15~20店ほどに増えている。ただ、表面的な模倣にとどまり、1~2年で閉店するケースも少なくないという。
そこで男性が目を向けたのが、日本の学校で修業することだった。
中国ではなく、日本を選んだのは、“再現性”の問題からだった。
中国語の「拉麺」は引っ張る・引き延ばす、という意味を持つ。職人の手作業に依存するため、技術習得や人材確保が難しい。一方、日本のラーメンは製麺機やセントラルキッチンの活用により、品質の標準化と多店舗展開が可能になる。
「日本式ならスケールアップできると思いました」
帰国後は、実家の店舗を改装し、本格的なラーメン店として再スタートさせる計画だ。将来的には製麺機の導入も検討している。
「ヨーロッパで本格的にやるなら、自前の設備が必要です」
機械は少なくとも230万円以上するが、「アフターサポートを含めれば合理的な価格」と評価する。
異なるバックグラウンドを持つ2人に共通しているのは、ラーメンを“ビジネス”として捉えている点だ。味だけでなく、再現性や拡張性まで含めて、日本式ラーメンの強みを見据えている。
教室で学ぶのは、スープの取り方や麺の作り方だけではない。店舗運営、設備投資、オペレーション。そのすべてが、世界で戦うための武器になる。

日本のラーメンの味が“本物”と認知 インバウンド増加で修業の重要性も増す
2人の話を裏付けるように、運営する大和製作所の担当者は、今や海外でも中途半端な知識では、ラーメン店で成功を収めることは難しくなっていると説明する。
「どんなラーメン店でも客が来た時代と違い、今は海外でも競争は高まってきている。ひと工夫加えないとやっていきにくい。ある意味、ハクがつく。日本も海外からの観光客が急増しているので、消費者も日本で食べたラーメンと比べてしまう。消費者自身も勉強して賢くなっている。まず知識を得て技能を得て自分で体験するために学校に来ている」
厨房の壁には、大きな世界地図が貼られ、学校を卒業した生徒の出身国に印がつけられている。印は、すでに数十か国に及んでいた。
日本のラーメンは、いまや一杯の麺料理を超え、世界を舞台にしたビジネスモデルになりつつある。香川のラーメン学校に集まる外国人起業家たちは、その最前線を走っていた。
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