「絵を描くのが天職」俳優・津田寛治の密かな野望 還暦を迎え語った理想の“引き際”

昨年、還暦という大きな節目を迎えた俳優・津田寛治。しかし、そのたたずまいに「老い」を感じさせる要素はみじんもない。最新主演映画『津田寛治に撮休はない』(3月28日公開、萱野孝幸監督)でも、出ずっぱりで現実と虚構が交錯する難役を見事に演じ切り、そのバイタリティーには驚かされるばかりだ。60代を迎えた現在のリアルな人生観、俳優観を聞いた。

インタビューに応じた津田寛治【写真:増田美咲】
インタビューに応じた津田寛治【写真:増田美咲】

還暦も特別な感慨なし「人生の折り返し地点ぐらいのこと」

 昨年、還暦という大きな節目を迎えた俳優・津田寛治。しかし、そのたたずまいに「老い」を感じさせる要素はみじんもない。最新主演映画『津田寛治に撮休はない』(3月28日公開、萱野孝幸監督)でも、出ずっぱりで現実と虚構が交錯する難役を見事に演じ切り、そのバイタリティーには驚かされるばかりだ。60代を迎えた現在のリアルな人生観、俳優観を聞いた。(取材・文=平辻哲也)

「還暦はもうやはり、今の時代と全くマッチしていないのだろうなと思いますよね」。還暦を迎えた心境を尋ねると、津田はあっけらかんとそう答えた。

「昔はちゃんちゃんこを着せて、おじいちゃん扱いでしたが、今の60代はおじいちゃんというわけではないですから。おそらく、還暦のニュアンスを昔と同じように考えるのは少し違うのでしょう。やはり人生の折り返し地点ぐらいのことになっているのだろうと思うし、そこで立ち止まるポイントでもないかなと、実際に(還暦に)なった時に思いました」

 なる前は「さすがに区切りになるよな」と思っていたそうだが、いざ迎えてみると特別な感慨はなかったという。ただ一つ、「映画がシニア料金で安く見られるのはお得だなと思います。こんなに安く見せてもらえるんだ、みたいな(笑)」とおちゃめな笑顔を見せた。

 一方で、定年後の老後を見据えた同世代のリアルな悩みには、深い洞察を持っている。

「老後を生き延びるためにどうしなければいけないかを考えるのは、本当にサバイバルですよ。定年になった後の仕事で、褒められたからといって目いっぱいそこで頑張ってしまうと危ないことになる。だからそこで頑張りすぎずに『このぐらいでいいです』と言ってやめておいて、その代わりちゃんと筋トレをやるのだ、と。筋肉はつけておかないと本当に生き延びられないですから」

 自身の地元の同級生たちを思い浮かべながら、若々しさと人生の充実度についても独自の視点を語る。

「昔から思いますが、やはり時間は人によって流れ方が違うのだろうなと。(故郷の)福井の同級生でも、若々しい人はやはり若々しい。でも、若くいるからといってその人が良い人生を送っているかというと、また違っている。70歳ぐらいに老け込んでいる人の方が、実はものすごく充実した人生を送っているケースもあります。『この1週間で10年分ぐらいの出来事があった』みたいな、顔に出ているその1週間が、ということもあるでしょうし。そう考えると、若々しくいることだけが全てでもないのだろうなという気がします」

 俳優業という引退のない世界に身を置く津田。自身の引き際については「決めていないですね。やはり、本当にもうできなくなるまでやりたいなと」と生涯現役を誓う。

「せりふが入らなくなったら、おそらく仕事が来なくなるだろうなという気がするので、なるべくずっとせりふが覚えられる俳優でいたいなという気はしていますね」

ひそかな野望についても明かした【写真:増田美咲】
ひそかな野望についても明かした【写真:増田美咲】

衝撃を受けた西田敏行さんの芝居「ものすごくリアル」

 そんな津田にとって、圧倒的な存在として記憶に刻まれている先輩俳優がいる。24年10月に亡くなった西田敏行さんだ。

「ロールモデルと言えるほど身近な人は思いつきませんが、例えば西田敏行さんなどはすごかったです。何度かご一緒した中で、最後にご一緒したドラマ『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(24年)の時は、ずっと車いすに座っていらして、お芝居も座ったままだったのですが、いや、もうきらきら芝居が輝いているというか。見たことのないようなお芝居をやはりされるので」

 そのすごみは、現場で生み出される圧倒的な「リアル」にあったという。

「大きな液晶テレビのカンペを見ながらやっているのですが、全然読んでいるようではないんです。新たに出す言葉がどんどん良くなっていくし、声のトーンも、ものすごくリアル。それで全く台本と変わっていくのだけれど、でも、西田さんの言葉の方がリアルだな、と。あんな風に俳優人生を終えられたら、本当に幸せだろうなと思います」

 名優の背中を追い続けながら、津田自身にはまだ実現していないひそかな野望がある。それは「画家の役を真正面からトライしてみたい」ということだ。

「小さいころから、映画を見ることよりも、絵が好きだという思いがあります。おそらく、本当に絵を描くことが本来の自分なのだろうなという気は、何となく今でもしています。人の成り立ちを考えた時に、原始人のころに最初に始めることって、絵を描くか踊り狂うかだと思うんです。踊り狂う方はポジティブにみんなで音楽を作ったりする方向へ行くのでしょうけれど、もう少しおたくっぽく、せかせかと何かを作るような人は絵を描くことから始めたのかなと思っていて。僕は明らかに後者なんです」

「裏で僕の役の絵を描く人がいるのではなく、自分自身が描いて。例えばクランクインするまでに10作、20作ぐらい仕上げておいて、それも劇中で使うし、撮影中も実際に描きながら仕上げるようなこともやりたい。うまい下手は別として、絵を描くというのは本当に自分の中で天職な気はしています」

 還暦を超えてなお、新たな表現への渇望を失わない津田。そのまなざしは、静かに、そして力強く未来を見据えていた。

□津田寛治(つだ・かんじ)1965年8月27日、福井県生まれ。93年、北野武監督『ソナチネ』で映画デビュー。2002年『模倣犯』でブルーリボン賞助演男優賞、08年『トウキョウソナタ』で高崎映画祭最優秀助演男優賞、20年『山中静夫氏の尊厳死』で日本映画批評家大賞主演男優賞を受賞。ジャンルを問わず数々の作品で存在感を放つ日本映画界に欠かせない名バイプレイヤー。2025年11月には主演映画『The Frog and the Water』で、世界15大映画祭の一つであるタリン・ブラックナイト映画祭にて日本人俳優初となる最優秀男優賞の快挙を成し遂げた。22年には自叙伝『悪役』を刊行している。

ヘアメイク:馬場エミリ
スタイリスト:三原千春

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください