60歳・津田寛治、年齢と共に変化した“評価”への考え方「自分の思いが大事になってきた」

映画、ドラマで第一線を走り続ける名バイプレーヤー・津田寛治(60)。最新主演映画『津田寛治に撮休はない』(3月28日公開、萱野孝幸監督)では、多忙を極める本人役を演じ、劇中には「忙しいほど調子いいんですよ」というせりふが登場する。しかし、現実の津田の考えは少し違うようだ。30代でのブレイク秘話から、長年のキャリアでたどり着いた深い境地を明かした。

ブレイク秘話を明かした津田寛治【写真:増田美咲】
ブレイク秘話を明かした津田寛治【写真:増田美咲】

映画『津田寛治に撮休はない』で本人役

 映画、ドラマで第一線を走り続ける名バイプレーヤー・津田寛治(60)。最新主演映画『津田寛治に撮休はない』(3月28日公開、萱野孝幸監督)では、多忙を極める本人役を演じ、劇中には「忙しいほど調子いいんですよ」というせりふが登場する。しかし、現実の津田の考えは少し違うようだ。30代でのブレイク秘話から、長年のキャリアでたどり着いた深い境地を明かした。(取材・文=平辻哲也)

「昔は、(劇中の“津田寛治”のように)若干、仕事をはしごすることがありましたけどね。今振り返るとやっぱりあまり良くないなと思うんですよね。どうしてもがさつになってしまうので」

 劇中のせりふとは裏腹に、自身の多忙な時期を冷静に振り返る津田。「忙しいほど調子いい」というのは「本人がそう思うだけで、また違うのではないかな」と語る。

「若いころはやはり忙しければ忙しいほど感覚が研ぎ澄まされて、瞬時にすごいことがどんどんできる時期、人って、神がかっている時期ってあると思うんです。でも、長い人生を考えると、その忙しくない時間に何を考えているかが人生にとってすごく大事。そこから生まれることというのが、本当の意味でのその人なのではないかなと思っています」

「どれだけ出たから日本一みたいなのとは全然違う」と断言する津田の理想は、「年に1本ないし2本ぐらいしっかり関わったものをやって、それで生活できたらそんなに幸せなことはない」というものだ。

 そんな津田自身が「神がかった」と感じた時期は、30代のころだったという。

「30代になったらびっくりするぐらいモテ始めたんですよ。それまで役者として食えなくて、バイトをばりばりしていたのに、30歳になった途端、なぜこんなにモテるんだ、みたいな(笑)。それから仕事が結構来るようになり、『模倣犯』でブルーリボン賞をいただいた後から、全局からオファーが来るぐらいになりました」

 小説家・宮部みゆき氏のベストセラーを映画化した大ヒット作『模倣犯』(02年、森田芳光監督)で津田が演じたのは、連続殺人犯の一人である栗橋浩美。周囲からは神がかった芝居と評価された『模倣犯』だが、自身の中では「いまだに力不足だったという思いがある」と明かす。一方で、超低予算の現場で突き抜けた芝居をしたのがバイオレンスアクション『ラブキルキル』(04年、西村晋也監督)だった。

「超低予算でハードだったのですが、自分の中にある癖などをうまく使ってばーっとやって。上がりを見て『なかなかうまくいったな』とそのとき思いました。光石研さんから電話がかかってきて、『お前すごいところに行っちゃったな』みたいに言ってくれてすごくうれしかったです。今振り返って思うと、あのときの芝居は少し突き抜けていたのかな、というのもあったりしますね」

“評価”への考え方を語った【写真:増田美咲】
“評価”への考え方を語った【写真:増田美咲】

“見る”ことで生まれる化学反応

 役者の面白いところは、自身が「だめだった」と思った演技が、意外にも高く評価されることがある点だ。津田自身、評価に対する考え方は年齢とともに変化してきたという。

「昔はそれが楽しい仕事だと思っていたんですよね。自分がだめだと思ったものが意外と評価される、みたいな。でも最近は、そこは別に楽しむところではないなと。今、自分と仕事とこの二者で向かい合ったときに、そこにオーディエンス的な第三者の意見というのを入れ込んでしまうと、ぶれてしまう。お客さんが入らなくても『自分が今いい仕事ができた』という思いを積み重ねていくことがすごく大事だと思っています。映画は残っていくものだから、10年20年してひょっとしたら認められることもあるかもしれない。そこに価値観を置いてしまうと、少し狂ってしまう」

 かつては「俺が思ったことは神様が全部分かっているから余計な説明は一切いらないんだ」という理想論を持っていたが、今は量子力学のパラドックス「シュレディンガーの猫」(※箱の中の猫の生死は、観測者がふたを開けて見るまで確定しないとする思考実験)のように、作品と観客の関係を捉えている。

「見たことで化学反応が起きる。出来上がった作品を自分で見て『うまくいったな』とか思うだけなのが、別の観察者の目に入ることで名作になったりするわけじゃないですか。『俺が今だめだなと思ったのが名作になる』というのは、やはり観察者の影響があって反応が起きている。それが昔は楽しいと思っていたけれど、この年齢になってくると違ってくるな、と。評価よりやはり自分の思いが大事になってきていますよね」

 この「観察者」という視点は、自身の演技にも大きな影響を与えた。末期がん患者(中村梅雀)の穏やかな最期を描き、医師役の自身も高く評価された2020年の映画『山中静夫氏の尊厳死』での経験が、一つの転機になったという。

「僕自身が観察者としてずっと(中村)梅雀さんを見ていたということが、功を奏したなという気がしていて。あのときは本当に、自分がどう見られるかより『自分がどう見ているか』ということがすごく重要でした。素晴らしい芝居をしている梅雀さんを観客に見てもらって、感動してくれたら成功だから、僕自身も梅雀さんの芝居を見る。そうしたら僕の方も見てくれていたという不思議な経験をして。それを見たときに『あ、これなのかも』と、一つ方向性が見えた作品でした」

 しかし、その後、小野田寛郎の過酷な日々を描いた国際共同制作映画『ONODA 一万夜を越えて』(21年、アルチュール・アラリ監督)では「うまくそれを生かせなかった」とも語る。

「方向性が見えたからといって、それで全てOKというわけではなく、それがうまく体現できるかは作品によって変わってくるので。結局、正解みたいなものは絶対ないな、という気がしますよね」

 真摯(しんし)に役と向き合い、決して正解に縛られない。その柔軟で深い思考こそが、津田寛治が長年第一線で求められ続ける理由なのだろう。

□津田寛治(つだ・かんじ)1965年8月27日、福井県生まれ。93年、北野武監督『ソナチネ』で映画デビュー。2002年『模倣犯』でブルーリボン賞助演男優賞、08年『トウキョウソナタ』で高崎映画祭最優秀助演男優賞、20年『山中静夫氏の尊厳死』で日本映画批評家大賞主演男優賞を受賞。ジャンルを問わず数々の作品で存在感を放つ日本映画界に欠かせない名バイプレイヤー。25年11月には主演映画『The Frog and the Water』で、世界15大映画祭の一つであるタリン・ブラックナイト映画祭にて日本人俳優初となる最優秀男優賞の快挙を成し遂げた。22年には自叙伝『悪役』を刊行している。

ヘアメイク:馬場エミリ
スタイリスト:三原千春

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