アイドル歌手デビューから45年 女優・伊藤つかさ、東日本大震災の炊き出しで感じた葛藤「どう接したらいいか…」
俳優の伊藤つかさが、前川泰之主演の映画『宣誓』(公開中、柿崎ゆうじ監督)に出演している。本作は東日本大震災での“喪失”と“再生”の物語。伊藤は震災の混乱のなか、行方不明となった両親の代わりに親戚の子供を一時的に面倒見る被災者の女性を演じた。震災では炊き出しにも参加した伊藤が込めた思いとは――。

映画『宣誓』で被災者の女性役
俳優の伊藤つかさが、前川泰之主演の映画『宣誓』(公開中、柿崎ゆうじ監督)に出演している。本作は東日本大震災での“喪失”と“再生”の物語。伊藤は震災の混乱のなか、行方不明となった両親の代わりに親戚の子供を一時的に面倒見る被災者の女性を演じた。震災では炊き出しにも参加した伊藤が込めた思いとは――。(取材・文=平辻哲也)
本作は津波で妻と幼い娘を失いながらもそれを隠して任務に身を捧げる自衛隊員・春日三尉(前川泰之)と、両親を失い心を閉ざした少年・吉村和樹の交流を軸に、過酷な現実の中にある希望を描き出す。震災15年を機に公開されることになる。
伊藤は、柿崎監督の脚本を読んだ際の衝撃を「すごく感動しました。監督ご自身が現地や被災地に足を運ばれ、見たまま、思われたまま、感じたままを書かれていると強く思いました」と熱を込めて語る。
演じた女性には特定のモデルが存在するわけではないが、伊藤自身の胸の奥には、確かな記憶が刻まれていた。それは東日本大震災の発生当時、宮城県・東松島での炊き出しに参加した際の実体験だ。
「最初に行く時は、被災された皆さまにどう接したらいいのか、少し不安だったんです。『頑張って』と声をかけるにしても、すでにみなさまは十分すぎるほど頑張っていらっしゃることは分かっていましたから。最初はなかなかお声がけすることもできず、ひたすら皆さまにお出しするラーメンを作るために、食材を切るなどの裏方作業をさせていただいていました」と振り返る。
しかし、出来上がったラーメンを受け取るために並ぶ被災者たちの顔に、ほんの少し明るい表情が浮かんだのを見た時、「少しはお役に立てているのかな」と感じることができたという。直接深く言葉を交わすことは難しかったものの、その時に肌で感じた被災地の空気や、人々の静かな強さへの思いを、今回の役に全て注ぎ込んだ。
撮影は一昨年、山梨県にある廃校を貸し切って行われた。建物全体が巨大な避難所のセットとして作り込まれ、校庭には本物の自衛隊車両がずらりときれいに列をなしていた。陸上自衛隊の全面協力のもと、現場には現役の自衛官たちも参加しており、その光景は「壮観だった」と語る。
劇中の春日三尉のように、自身の家族の安否すら分からない極限状態の中で、感情を押し殺して任務にあたる自衛隊員たちの胸中に思いをはせると、「本当に言葉にならない。どういう思いなのか想像もつかない」と言葉を詰まらせた。しかし、撮影現場の空気は決して暗いものではなく、他とは違う「凛とした緊張感」に包まれていたという。
「役者として自衛官を演じている方たちも、撮影が終盤になるにつれてたくましさが増し、本物の自衛官なのか役者なのか、一瞬見間違えてしまうほどでした。皆さんが緊張感を持ち、『使命』という2文字を背負ったたくましい姿になっていくのを感じました」と、現場の熱量を明かした。

東日本大震災から「もう15年もたつのか」
伊藤自身は2011年3月11日、仕事で訪れていた大阪で震災を経験した。休憩中にテレビの津波映像を見て大きな衝撃を受け、マネジャーと共に東京の事務所や舞台稽古中のメンバーへ必死に安否確認の電話をかけ続けたという。
翌日には東京の自宅に戻れたが、「家の中がどうなっているか、東京がどんな状況なのかドキドキしていました。幸い大事には至りませんでしたが、それからは皆さんと同じように、また大きな地震が来るかもしれないという不安な日々を過ごしました」と当時の恐怖を振り返る。
あの震災から15年。「日々の生活を送っていると、記憶はどうしても薄らいでいくもの。もう15年もたつのかと驚きます」と時の流れの早さを噛み締める。これまでも社会的な意義を持つ作品に数多く出演してきた伊藤だが、本作『宣誓』への参加には特別な思いがある。
当時、テレビの画面を通してしか自衛隊の活躍を知らなかったという伊藤は、「この作品を通して、『こういう過酷な状況下で、こういうお仕事をされていた人たちがいたんだ』と改めて知らされました。だからこそ、私たちと同じ一般の方々にも、その事実をぜひ知っていただきたいと強く思っています」と願った。
□伊藤つかさ(いとう・つかさ)1967年2月21日、東京都生まれ。幼少期に「劇団いろは」に入団し、子役として活動を開始。1980年、TBS系ドラマ『3年B組金八先生』に赤上近子役で出演しブレイクを果たす。81年に楽曲『少女人形』でアイドル歌手としてデビュー。翌82年にはテレビドラマ『アイコ16歳』で初主演を飾った。以降、現代劇をはじめ『暴れん坊将軍』などの時代劇にもレギュラー出演。84年からは声優としての活動もスタートさせるなど、女優・歌手・声優として多岐にわたって活躍を続けている。身長155センチ、血液型O。
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