かつては指導を避けるも…激変した青木真也「教えられるのはあと1、2年」 次世代担う秋元強真への“最後”の技術継承
日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。加齢と戦うレジェンドが今、意外な役割を担っている。格闘技イベント「RIZIN.52」(7日、東京・有明アリーナ)で大一番を迎える19歳の新星・秋元強真の練習パートナーだ。かつては指導役を引き受けることのなかった男が、「これは遺言」と語り、自身のコンディションを調整してまで裏方に回っている。次世代へバトンを託す青木の偽りのない本音を聞いた。

自身のコンディションを調整してまで裏方に
日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。加齢と戦うレジェンドが今、意外な役割を担っている。格闘技イベント「RIZIN.52」(7日、東京・有明アリーナ)で大一番を迎える19歳の新星・秋元強真の練習パートナーだ。かつては指導役を引き受けることのなかった男が、「これは遺言」と語り、自身のコンディションを調整してまで裏方に回っている。次世代へバトンを託す青木の偽りのない本音を聞いた。(取材・文=島田将斗)
アポイントの時間よりも早くジムに到着すると、何やら普段と違う空気が漂っていた。いつもなら青木がカウンターで食事をしている時間だが、この日は奥の部屋から荒い息遣いが聞こえてくる。
しばらく待っていると、「疲れたよ……」と音の聞こえた先から大量の汗をかいた青木が現れた。その場でシャツを脱ぐと、激しい練習を物語るかのように筋肉はパンッとしたハリがあり、組み合いの摩擦なのか、ところどころ赤みを帯びていた。
「練習を付き合うことになってさ、やっぱりそれがしんどくて。結局どうやってこの人を勝たせてって考えちゃうんだよね。対価が発生してないとあしらっちゃうんだけど、仕事として依頼されるとプロフェッショナリズムがあるわけじゃん」
一体誰の話をしているのだろうか。そう思っていると、奥から聞き覚えのある若い男性の声が聞こえてきた。その声の主こそが、青木が練習相手を務めているRIZINファイター・秋元だった。
秋元は2022年にプロデビューした19歳。24年から国内最大の格闘技プロモーション「RIZIN」に参戦している。これまでの戦績は12戦11勝(6KO、2一本)1敗、まさに将来を期待されている逸材だ。
今月7日の「RIZIN.52」(東京・有明アリーナ)で元Bellator王者のパッチー・ミックス(米国)と対戦する。間違いなくキャリア最大の壁だが、そんな強敵へ向けた練習相手として白羽の矢が立ったのが青木だった。
青木は世界の壁を知り、格闘技界を引っ張ってきた存在だが、42歳。決して若くはない。19歳の秋元と練習するためにはコンディションを作らなければならないと本音をこぼした。
「(練習のある)月曜日と水曜日に向けてコンディションを作るんだよね。プロレスもあって、自主興行もあって、YouTubeもあって、noteもあって、休まらない。もう大変ですよ」
自分主体の練習ではないからこそ、余計に疲れやすいという。
「相手の練習だから、相手の台となって、ずっと動いて動いて。ああして、こうしてって動きながら声かけ続ける。例えば、『どんどん(タックル)入るから、切って』とかをやり続ける。いやぁ、しんどいよねぇ。俺はそのぐらい頑張ってはいます」
そう口にしつつもどこか明るい。これまでは誰かに教えることを断ってきた。それは、その人の人生を真面目に考えすぎて、背負おうとしてしまうため。選手ひとりひとりの責任は取れないとジム運営もやる気はない。そんな青木にどんな心変わりがあったのか。
「一つ思うのは、もうこれ(技術継承)ができる時間は残されてないんですよ。ぶっちゃけね。組み技って体でドカンと、受けてやらないと伝わらないから。いい指導者じゃなくて、いい練習パートナーがいるから覚えるんですよ」

次世代へ託す技術「できるのはあと1年~2年」
「できるのはあと1年~2年」。秋元サイドからは今回の試合後の練習も頼まれているほど。いまは動けているが明確に自身の先が見えている。
「トップレベルのやつを教え続けんのはあやしいっしょ。最後に、最後か……最後とは言いたくないが、自分が生きていく中で日本を背負っていくようなメインイベンターとされる人に伝えられるのは光栄っていう気持ちがあってね。よくある『練習パートナーを務めてる』とか、そういう感じじゃないんだよね」
田原総一朗氏の言葉を使えば「遺言」だという。
「秋元さんへの思い入れっていうよりも、自分が伝えたあとに秋元さんもまた下の世代に伝えたりするわけだ。伝えられるんだったら伝えておきたい。余すことなく自分の技術を残していきたいです」
次世代へバトンを託し、教え導く。ギラついていた男が、今は肌を合わせる若き才能たちへ自身のDNAを伝えることに、確かな喜びを見出している。
「若い選手、この前試合をした高鹿(佑也)選手もそうなんだけど、自分と戦うことで気付いてくれたり、なにか発見を持ってくれたりするんですよ。それがすごいうれしいなって。すごく派手な試合じゃなかったんだけど『青木さんとやった試合がお客さんから良かったって言われる。次にタッグでやるときは自分が伝えたいものだけ凝縮して伝えたい』ってポロっと言ってくれて。種まきますねって思いながらも、伝わってて良かったなと思うんですよね」
「人生、いいプロレスができてるんじゃない?」。昨年11月のMMA戦後の会見で賛否を呼んだ言葉を重ねる。
「やっぱり強い人って相手を上げてあがっていくじゃん。俺も相手をあげてあがっていくし、これが強さだから。全く理解されてこなかったんだけど、これが俺の強さなんですよ」
この日は、大一番を控える秋元との試合前練習の最終日。インタビューの最中、帰り支度を終えた秋元がジムを後にする。
「おつかれした! 頑張って! 応援してます!」
42歳の青木が19歳の新星に向かって大きく手を振る。そこには、変化を受け入れる“真の強者”の晴れやかな笑顔があった。
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