「トイレ貸したらウエディングドレスに着替え」外国人殺到の『スラダン』聖地の異変 地域住民から切実な声「正直、あまり来てほしくない」

アニメ『スラムダンク』の“聖地”として世界中からファンが訪れる、江ノ島電鉄・鎌倉高校前駅横の踏切。連日、スマートフォンを構える観光客であふれ返るこの場所で、地元住民から悲鳴が上がっている。住宅への無断侵入、路地裏での路上駐車、さらには「善意で貸した自宅トイレが着替え室に使われた」という信じがたいマナー違反まで発生。自治体や警察だけでは対応しきれない“警備の隙間”を埋めているのが、平均年齢50代の市民ボランティア団体「鎌倉ガーディアンズ」だ。その現場を追った。

声をかけながら誘導を行う鎌倉ガーディアンズのメンバー【写真:ENCOUNT編集部】
声をかけながら誘導を行う鎌倉ガーディアンズのメンバー【写真:ENCOUNT編集部】

住宅への無断侵入、路地裏での路上駐車が問題視されている

 アニメ『スラムダンク』の“聖地”として世界中からファンが訪れる、江ノ島電鉄・鎌倉高校前駅横の踏切。連日、スマートフォンを構える観光客であふれ返るこの場所で、地元住民から悲鳴が上がっている。住宅への無断侵入、路地裏での路上駐車、さらには「善意で貸した自宅トイレが着替え室に使われた」という信じがたいマナー違反まで発生。自治体や警察だけでは対応しきれない“警備の隙間”を埋めているのが、平均年齢50代の市民ボランティア団体「鎌倉ガーディアンズ」だ。その現場を追った。

 2月の旧正月(春節)シーズン。寒風が吹き付ける中、鎌倉高校前駅近くの踏切付近には、言葉の壁を超えて集まった外国人観光客たちの熱気があふれていた。

 鎌倉ガーディアンズのメンバーは踏切横の公園付近で、観光客に笑顔で「こんにちは」と声をかけながら誘導を行う。約14分おきに通過する江ノ電の安全を確保するため、鎌倉市観光課が作成した「撮影は公園内で」と書かれたボードを掲げ、車道への飛び出しを制止。鎌倉駅までの道案内や周辺ルートの説明も行っている。

 華やかな聖地の裏側で深刻化しているのが、インフラ不足。昨秋には踏切横に撮影スポット「腰越ラッコ公園」が整備されたが、公衆トイレは設置されていない。

 現場では信じがたいエピソードも耳にする。メンバーの一人は、「善意で自宅のお手洗いを貸した住民の方がいたのですが、なかなか出てこない。ようやく出てきたと思ったら、中でウエディングドレスに着替えていたということがあったそうです」と明かす。

 こうしたマナー違反や住宅への無断侵入、路地裏での路上駐車が後を絶たず、地元住民からは「正直、あまり来てほしくない」という切実な声も上がる。

 鎌倉ガーディアンズは2009年に設立され、現在は100人以上のメンバーが所属する。踏切での誘導にとどまらず、流鏑馬や花火大会など、地域行事の警備も担っている。活動の原点には、かつて関西で発生した歩道橋での群衆事故がある。警察や警備会社だけでは対応しきれない部分を、市民自らが補おうという思いが根底にあるようだ。

『スラムダンク』に加え、近年は小泉今日子と中井貴一が主演を務めたドラマ『最後から二番目の恋』の影響で、単身で訪れる女性観光客や移住者も増えているという。

「有名な場所だけど、入場料とか何もないからお金を落とさない。お土産屋さんも何もないから……」と、付近の住民が語った。

鎌倉ガーディアンズはパイロットなど多様な経歴を持つメンバーが集結

 市民ボランティア団体・鎌倉ガーディアンズの代表を務めるのは大津定博氏(鎌倉市観光協会の専務理事)。元銀行員やパイロットなど、多様な経歴を持つ市民約100人が、なぜ自発的に街の警備に立つのか。大津氏にその歩みと、急増する「オーバーツーリズム」への思いを聞いた。

 活動の原点は、2000年頃に遡る。当時は神奈川県暴走族対策指導員として、少年たちの更生を支援するボランティアに心血を注いでいた。

「メガバンクに勤務しながら警察と一緒に暴走族の子どもたちを立ち直らせるボランティアをやっていました。そこから徐々に鎌倉の安心安全にも関わるようになり、空き巣のパトロールや、子どもを性犯罪から守るための防犯教室を幼稚園や小学校で開くようになったんです」

 そんな草の根の活動が当時の市長の目に留まり、「警察や警備会社任せではなく、市民の手で街を守る組織を作れないか」と打診を受けたのが17年前のこと。わずか15人でスタートした「鎌倉ガーディアンズ」は、今や100人を超える組織へと成長した。

 ガーディアンズが大切にしている思いは、鎌倉が掲げる「住んでよし、訪れてよし」という言葉だ。「住んでいる人の犠牲の上に、観光は成り立たない」と断言する。近年、SNSの影響で住宅地が突然観光スポット化し、住民が騒音やマナー違反に悩まされるケースが急増している。

「地域の方が困っているなら、放っておけない。青臭い正義感で行った感じです。観光に来た人も、迷惑をしたくて来てるわけじゃない。一方で、高いお金を払って鎌倉に来てくれた外国人観光客の方々も、決して迷惑をかけたくて来ているわけではない。だからこそ、私たちは『冷たく怒る』のではなく、『明るく優しく、おもてなしの心で誘導する』ことを方針にしています」

 メンバーは50代から60代が中心だが、その活動は極めて真剣。年に2回の勉強会では防犯や治安、子どもの安全について学び、最新の情報を取り入れている。その質の高さは国からも評価され、東京オリンピックの際には、独自の活動マニュアルを「参考にさせてほしい」と内閣府から要請があったほど。

 コロナ禍が明け、鎌倉はかつてのにぎわいを取り戻した。しかし、大津氏は現状を冷静に見つめている。

「今は中国からの観光客が少ないですが、いつ急増するかわかりません。その時に備えて、警備員の数を増やしたり、体制を柔軟に考えていく必要があります」

 大津氏は最後に、街を訪れる人々、そして活動への思いをこう語った。

「鎌倉は本当にすてきな街で、四季折々。海もきれいだし、食べ物もおいしいから、海外からも日本からも来てもらいたいなと思ってます。来ていただいた時は、いわゆる観光ルールを守っていただければうれしい。私たちの目標は、地域の生活を守ることと、観光がうまく調和すること。その手助けをすることが、鎌倉への恩返しだと思っています」

 市民の力で、街の日常と観光の活気を守り続ける。鎌倉ガーディアンズの挑戦は、これからの日本の観光地が歩むべき一つのモデルケースとなるかもしれない。

次のページへ (2/2) 【写真】外国人観光客たちの熱気があふれる鎌倉高校前駅近くの撮影スポット
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