77歳・柄本明、世界が称賛しても揺るがない信念 「呼んでくれなきゃ…」需要と供給の俳優論
日米合作映画『レンタル・ファミリー』(公開中、HIKARI監督)で、ブレンダン・フレイザー演じる主人公と対峙する国宝級の老俳優を演じた名優・柄本明(77)。自身の役柄と俳優人生が重なる部分があるのではと問うと、返ってきたのは、あまりにドライで、かつ本質を突いた言葉だった。

映画『レンタル・ファミリー』で主人公と対峙する老俳優役
日米合作映画『レンタル・ファミリー』(公開中、HIKARI監督)で、ブレンダン・フレイザー演じる主人公と対峙する国宝級の老俳優を演じた名優・柄本明(77)。自身の役柄と俳優人生が重なる部分があるのではと問うと、返ってきたのは、あまりにドライで、かつ本質を突いた言葉だった。(取材・文=平辻哲也)
本作は、孤独なアメリカ人俳優(フレイザー)が、日本で「レンタル家族」の会社に雇われ、日本の家族や人間関係の機微に触れていく物語。柄本は、かつての名声を失いつつある老俳優・長谷川喜久雄を演じている。柄本がこうした俳優を演じるのは初めてではないか、と聞くと、大した感慨も見せない。
「(役者というのは)ある時は病院の院長、ある時は片目の運転手、ある時は悪徳弁護士、ある時は殺されるジジイ……。そんなことですからね。常日頃、与えられたものをやるだけ。それは並列に並ぶもので、そちら(見る側)としては『特別なものに』という欲求は感じますけど、こちら側としてはもう長年こういう仕事ですから」
本作のワールドプレミアでロンドン、ロサンゼルスを訪れ、現地の熱狂的な反応を肌で感じた。77歳にして、米アカデミー賞俳優と互角に渡り合い、世界にその名を知らしめたが、本人はいたって冷静だ。さらなる海外進出への意欲を問われると、柄本は笑って首を横に振るわけでもなく、かといって野心をたぎらせるわけでもなく、淡々と「経済の原則」を口にした。
「そりゃ、アル・パチーノはいいなあ、とか思いますけど、『出てみたい』と言ったって、向こうが出してくれなきゃしょうがない(笑)。呼んでくれなきゃね。もう『需要と供給』なんだから。これ経済社会の基盤だからね。だからこっちは、お座敷かかったら行く芸者なんだから。そこで踊るわけだから」
“求められなければ存在しない”という俳優の宿命を「需要と供給」という言葉で表現する。どんなに自分が良いと思っても、決定権は作品にあり、監督にある。
その象徴的なエピソードとして、本作でカットされたシーンについて明かした。劇中、柄本演じる長谷川喜久雄が、故郷・天草で自身の記憶にある「村芝居」の一節をブレンダンに見せる場面があったという。
「自分としては『いいんじゃないかな』なんて生意気に思ったんだけど、そこがカットになってるのが非常に残念でした(笑)」
自らの名演がスクリーンから消えても、「まあそれはしょうがない、映画ですからね」と受け入れる。
「また長くヒットすれば『なんとかバージョン』みたいなのもあろうかな、なんて見せてもらいたいなと思ってますけど」

佑に時生…家族の出演作は「見たり見なかったり」
本作のメガホンを取ったのは、Netflixシリーズ『BEEF/ビーフ』などで世界的な評価を受けるHIKARI監督だ。柄本は、ハリウッドという巨大なシステムの中で奮闘する日本人監督の姿を、頼もしく見つめていた。
「向こうのシステムの中で、ものすごく揉まれたなっていう。それをバイタリティーで、がむしゃらに作っていく。大変なド根性じゃないかな。だけど明るいですよ。『大阪のお姉さん』って感じでね」
根っからの映画好き。出演作も試写ではなく、映画館で見ている。湯布院映画祭にも欠かさず足を運んでいる。そんな柄本の姿を見て、2人の息子、柄本佑、柄本時生も俳優の道へ進んだ。こうした家族の出演作は見ることはあるのか。「見たり見なかったりですよ。でも、(佑が藤原道長役を演じたNHK大河ドラマ)『光る君へ』はほとんど見ていましたよ」。
近年は劇団東京乾電池の企画として、朗読劇『今は昔、栄養映画館』を上演するため、全国のミニシアターを行脚した。「北は新潟から南は高知まで、ハイエースに乗って3800キロ回ったんですよ」。華やかなハリウッドのパーティーも、地方の小さな映写室も、柄本にとっては等しく「映画の現場」なのだ。
「おかげさまでそうやって続けていられることに幸せを感じてます。だから身も蓋もないんだよね、ごめんなさい」。そう言って笑う柄本の表情には、数多の「お座敷」を務め上げ、スクリーンに生き続けてきた“活動屋”だけが持つ、凄みと愛嬌が同居していた。
□柄本明(えもと・あきら)1948年11月3日生まれ、東京都出身。日本映画・演劇界を代表する名優。1976年に劇団「東京乾電池」を結成し座長を務める。98年、今村昌平監督『カンゾー先生』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞ほか主要映画賞を多数受賞。2010年には『悪人』で同最優秀助演男優賞を受賞した。11年に紫綬褒章、19年に旭日小綬章を受章。近作は『ある男』(22年)、『ロストケア』(23年)など。3月には記録映画『今は昔、栄養映画館の旅』の公開とイベントも控えている。
あなたの“気になる”を教えてください