試合直前まで嘔吐と下痢「10回はトイレに」 岡美紀、壮絶な減量で挑んだデビュー戦と地獄の1か月間

勝利後の笑顔はフェイクだった。デビュー戦で白星を挙げ、金網の中で見せた安どの表情の裏で、体は限界を超えていた。RIZIN女王・伊澤星花とCOROが率いる「伊澤星花チャレンジ」生の岡美紀。元ランドローバーの営業職という経歴を持つ彼女は、昨年11月のデビュー戦で判定勝利を収めた。しかし、その実態は壮絶な減量失敗による「地獄」。笑顔の裏に隠された、知られざる苦悩を聞いた。

インタビューで笑顔を見せた岡美紀【写真:増田美咲】
インタビューで笑顔を見せた岡美紀【写真:増田美咲】

デビュー戦後に体調不良で1か月休養

 勝利後の笑顔はフェイクだった。デビュー戦で白星を挙げ、金網の中で見せた安どの表情の裏で、体は限界を超えていた。RIZIN女王・伊澤星花とCOROが率いる「伊澤星花チャレンジ」生の岡美紀。元ランドローバーの営業職という経歴を持つ彼女は、昨年11月のデビュー戦で判定勝利を収めた。しかし、その実態は壮絶な減量失敗による「地獄」。笑顔の裏に隠された、知られざる苦悩を聞いた。(取材・文=島田将斗)

 昨年11月の堀井かりん戦。相手にほぼ何もさせず勝利したように見えた岡だったが、その裏では体調不良と戦っていた。

「計量の朝、歩くのもしんどくて、エルちゃん(同門の竹林エル)につかまりながら移動していました。計量パス後にリカバリー食を食べたんですが、すぐに気分が悪くなって全部吐いてしまって……。そこから美容室へコーンロウを編みに行ったんですが、終わって立とうとしたら歩けない。タクシーと電車を乗り継いで、地をはうように帰宅しました」

 試合前のYouTube撮影ではニコニコの笑顔を見せていたが、「3分動画撮るのに起きてニコニコして喋ってまた倒れる」という状態だった。

 事態は好転しないまま試合当日を迎えた。早朝に少し水を飲めたかと思えば、また嘔吐。会場のニューピアホールに入ってからも、実はトイレから出られない状態が続いていた。

「試合直前まで吐いたり下痢したりが止まらなくて。自分の試合の2試合前にグローブをテープで固定するんですが、その時間ですらトイレに行けないのが辛かった。アップでミットを打ってはトイレに駆け込んで……少なくとも10回は行きましたね」

 試合では打撃の展開でも引かずに得意の柔道でテイクダウン。トップポジションをキープし、少しは余裕があるはずだが、それが全くない。負けることよりも、その場で“崩壊”してしまうことへの不安が大きかった。

 初のMMA戦。インターバル中にも「なんでこんなしんどいんやろ」と心が折れかけていたが、試合は止まってくれない。そのまま2R目に向かい、なんとか相手を押さえつけて勝利を飾った。しかし、岡の姿はその後の閉会式、そして囲み取材にもなかった。

「そのまま病院へ直行して点滴を打ちました『脱水ですね』て言われて一瞬楽になったんですけど、翌日からも起き上がれず、10分に1回はトイレに行く生活が続いて……」

 完全回復までには1か月以上を要した。1週間ほどで下痢や嘔吐はなくなったが、微熱が続いた。血液検査など精密検査を行ったが原因は分からず。「早く復帰しないと」と焦る気持ちからメンタル面でも落ち込み、1度地元に帰った。

 なぜ、そこまで追い込まれてしまったのか。原因は「自己流の減量」にあった。高校、大学時代は柔道エリートとして活躍してきたが、当時の階級は70キロ級。ナチュラル体重だったため、減量経験が皆無だったのだ。

「52キロって体重を見たのが小学生以来です。初めての減量だったので、『ほんまに落とせるんか』っていう不安で2か月前から落とし始めて。練習はきついので、ガンガン落ちていくんですよね。そうすると落とすペース早いから『まだ食べられる』って食べる。食べては落としてを繰り返しになって、結局直前にサウナで落としてみたいな」

 その反省を活かし、試合に向けては食事管理を徹底。1か月前からカロリー計算を行い、計画的に体重を調整しているという。

ともに生活を送る竹林エルと仲睦まじい姿を見せた岡美紀(右)【写真:増田美咲】
ともに生活を送る竹林エルと仲睦まじい姿を見せた岡美紀(右)【写真:増田美咲】

「伊澤星花チャレンジ」後への不安も「自分の力で何とかしないと」

 衣食住のサポートを受け、現役王者と一緒に練習に打ち込む日々。恵まれた環境だが、岡は正直な胸の内を明かす。

「今はまだ、練習が『きつい、しんどい』のほうが多くて。自分の中で『楽しい』と思える余裕がないんです。だから今年の目標はMMAの『楽しさを見つける』こと。もっと好きになれば、もっと強くなれると思うので」

 格闘家に挑戦する前は、高級車・レンジローバーの営業職や飲食店の正社員として安定した収入を得ていた。頭の片隅には常に将来への不安がある。

「今は衣食住が保証されていますが、この期間(チャレンジ生期間)が終われば、自分で働いて稼がないといけない。そうなれば今のように練習はできないでしょうし、練習量は減ってしまう。不安定になるとは思うので、自分の力で何とかしないと。その覚悟はしています」

 不安や葛藤を抱えながらも、リングに向かう。地元・和歌山からの反響は大きく、疎遠になっていた友人から連絡が来ることも。「名前が売れていくプレッシャーはありますが、ありがたいこと」と照れくさそうに笑う。

 目指しているのは「強くて美しい選手」だ。試合前にはマツエクをして、髪の毛を染めてスイッチを入れる。

「昔はスキンケアとかめっちゃしていました。でも格闘技をやっていると顔にアザができるし傷だらけになる。保湿さえしとけばいいやってなってはいるんですけど、表舞台に立つ以上はかわいくなりたくて。だから試合前にはマツエクして髪を染め直します。ポスターや写真も残るし」

 そう語る表情には、プロとしての決意が宿っている。

「強くて、美しい女性。そこを頑張って目指します」

 地獄を見たデビュー戦から3か月。失敗を糧に、岡が2月23日の「DEEP JEWELS 52」の舞台に上がる。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください