2度の大病乗り越えた医師 多くのがん患者の最期と向き合い…闘病経験をオープンに “笑顔の診察”のワケ
32歳で精巣がん、37歳で原因不明の顎(がく)関節症。2度の大病から復活した医師がいる。草ヶ谷医院(静岡市)の草ヶ谷英樹院長だ。きつい抗がん剤治療を乗り越え、一時期は食事をうまく食べられなかったほど悪化した顎関節症の“再発”の不安を今も抱えながらも、地域医療を支えるべく、日々診療にあたっている。自らの闘病経験を患者に明かし、「上を向くこと」の大切さを伝え、呼吸器・アレルギーの専門医としての知見を生かしたYouTuberとしても活動。「患者に寄り添う医療」の信念について聞いた。

抗がん剤治療から復帰して医学博士号を取得 顎関節症のリハビリ経験も
32歳で精巣がん、37歳で原因不明の顎(がく)関節症。2度の大病から復活した医師がいる。草ヶ谷医院(静岡市)の草ヶ谷英樹院長だ。きつい抗がん剤治療を乗り越え、一時期は食事をうまく食べられなかったほど悪化した顎関節症の“再発”の不安を今も抱えながらも、地域医療を支えるべく、日々診療にあたっている。自らの闘病経験を患者に明かし、「上を向くこと」の大切さを伝え、呼吸器・アレルギーの専門医としての知見を生かしたYouTuberとしても活動。「患者に寄り添う医療」の信念について聞いた。(取材・文=吉原知也)
「僕は自分の病気のことをオープンにしています。よく患者さんに話すんですよ」
大学を卒業して内科医になり、医学博士号を目指して進学した大学院で「気道免疫」の研究に取り組んでいた32歳の時に、突然、精巣がんが発覚した。緊急手術を受け、右の精巣を取った。転移のリスクを減らすために強い副作用のある抗がん剤治療を決断。激しい嘔吐(おうと)、髪の毛もまゆ毛も抜け、体重は60キロから40キロにまで落ち込んだ。それでも、不屈の精神を貫いて復帰を果たし、医学博士号を取得した。「やろうと思ったことは絶対にやっていこう」という人生観を強く持つようになった。
患者への接し方。例えば、乳がんの手術経験があり、数年ぶりの全身検査を控えて不安を抱えている女性患者の診察を行った時のことだ。自らの過去の体験を包み隠さずに打ち明けた。「僕は精巣がんになって、抗がん剤治療もすごくつらかったですが、でも15年たってこうやって元気にやっています。『悪いことを考えてもしょうがないから、前向きにいいことを考えていきましょう』。そんな言葉をかけました」。自身の体験を踏まえたリアルな言葉で患者を励まし、背中を押してあげる。これがモットーだ。
病院の勤務医として腕前を磨き、2021年に祖父、父から受け継いだ医院を新装開院した。自身のがんは10年の経過観察を経て、現在は年1回の人間ドックでチェック。再発や転移はない。
勤務医時代、多くのがん患者を受け持ってきた。国民病とも言われるがん。命に関わる場面に何度も直面した。「たくさんの患者さんが亡くなりました。悔やんで泣いて亡くなっていった方もいます。ご家族とすてきな時間を過ごしながら最期を迎えた方もいます。病気との向き合い方について、その人の解釈と意味付け次第で、世界の見え方、人生の送り方が変わっていくものと考えています。僕自身、がんを経験したからこそ言えますが、がん患者は常に不安を抱えています。どうしても拭い切れません。でもその不安に心の全部がとらわれてしまうと、人生の景色が大きく変わってしまいます。『がんかもしれない』『再発するかも』という不安はずっとあります。その中でも、できるだけプラスの考え方とプラスの行動をしていきたい。患者さんにそう伝えるようにしています」と実直に話す。
また、勤務医時代に診たがん患者の家族が、医院を訪ねてきてくれることもある。「亡くなった肺がん患者の方のご家族から、『先生のところにきたくなった』と言っていただいて。何人かのご家族にきていただいています」。それは、患者や家族に寄り添い続けている証しだ。

「娘たちからは『パパ、空白恐怖症だね』と言われています(笑)」
草ヶ谷医師自身、今も心配事を抱えながら生きている。37歳の時に突然患った原因不明の顎関節症。顎のずれが少しずつ進行、3年かけて悪化した。いくつも病院を回ったがよくならず、最終的に専門医による「顎をはめ直す」顎関節形成術を実施、その後約半年にわたるリハビリを行った。かみ合わせは改善したが、実は完治はしていない。
「時々、下の歯が上の歯にかすったりすることがあるんです。そうすると『あれ?』となって、急に不安に陥ります。内科医は患者さんと話すことが仕事の中心なので、もししゃべれなくなったら、仕事になりません」。それでも、「にこっと笑顔を無理やりでも作ると、心は体に引っ張られるんですよ」。自らの笑顔を見せながら、患者に希望を与えている。
もともと若い頃から体作りを意識してきたが、がんを経験してから、健康維持に人一倍気を使っている。「7時間寝ることを心がけています。睡眠時間はやっぱり大事です」。とはいえ、1日のタイムスケジュールを聞くと驚いてしまう。院長としての激務をこなしながら、朝は5時~6時に起きて、夜は11時までには就寝する。週2回のジムでの有酸素運動と筋トレも欠かさない。
家族の存在も心強い。精巣がんを患った時に生まれたばかりだった2人の娘。「家族のために」と苦しい闘病を乗り越えた。長女は17歳、次女は15歳に成長した。せわしなく動くお父さんを見て、「娘たちからは『パパ、空白恐怖症だね』と言われています(笑)」。一家の大黒柱として、強い思いを持つ。「娘たちの将来のことを考えて、自分が動けなくなったり、老後に病気になって迷惑をかけることがないよう、健康でいることをとにかく大事にしていきたいです」。妻は看護師で、今、長女は看護師を目指しているという。医療の道を志す娘の姿に目を細める。
3年前に新たなチャレンジを敢行。YouTubeチャンネルを開設したのだ。総合内科専門医・呼吸器専門医・アレルギー専門医の経験と知識をフル活用。肺がんや肺の疾患、たばこ・禁煙、花粉症に加えて、生活習慣病まで、幅広いテーマについて専門的な知識を分かりやすく伝えている。医院のサイトでユニークな視点のコラムも執筆。インスタグラムも明るいポップな雰囲気で投稿。SNS時代に合わせた情報発信にも注力している。
自らの医院の理念に「医療を通じて関わる全ての方の笑顔と元気に貢献する」を掲げている。スタッフとのコミュニケーションを大事に、よりよい医療体制の構築にも余念がない。
「患者さんの中にはインスタグラムやYouTubeを喜んでくれる方もいらっしゃって、『あれ見て元気になったよ』『笑っちゃったよ』とおっしゃってくれる方もいます。もちろん時と場合を考えながら、僕自身が笑顔で患者さんに接することで、患者さんが笑顔になれる。医師としてそういう存在でありたいなと思っています。つらい状況に直面した時に、もし、下を向いて歩いても上を向いて歩いても結果は変わらないんだったら、『上を向いて歩きませんか?』。僕自身、これからもそうやって生きていこうと思っています」と結んだ。
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