仕事ゼロでも「幸せやった」 団長安田、コロナ禍で抱いた“不謹慎”な本音
自転車ロードレースやトライアスロン、そして100キロマラソン──。安田大サーカス・団長安田は、極限まで肉体を追い込む「ストイックな芸人」だが、素顔は驚くほど軽やかで、しなやかだ。阪神・淡路大震災での被災、コロナ禍での仕事消滅、そして過酷なレースへの挑戦。幾多の「ピンチ」を乗り越えてきた彼がたどり着いた境地は、「頑張りすぎない」という、意外なほどシンプルな哲学だった。

大切にする「ハードルを極限まで下げること」
自転車ロードレースやトライアスロン、そして100キロマラソン──。安田大サーカス・団長安田は、極限まで肉体を追い込む「ストイックな芸人」だが、素顔は驚くほど軽やかで、しなやかだ。阪神・淡路大震災での被災、コロナ禍での仕事消滅、そして過酷なレースへの挑戦。幾多の「ピンチ」を乗り越えてきた彼がたどり着いた境地は、「頑張りすぎない」という、意外なほどシンプルな哲学だった。(取材・文=平辻哲也)
団長安田はいま、防災士として全国で講演を行い、ケーブルテレビ・イッツコムチャンネルの防災番組『イッツコムおうち防災のすすめ』にも出演。そこで必ず伝えるのは、「ハードルを極限まで下げること」の重要性だ。
「いきなり『完璧な防災リュックを作ろう』なんて思うと、大変でお金もかかるし、続きません。だから僕は『サランラップを1本多めに買っておく』とか、それくらいでいいと言っています。『どうせ使うものやから』って」
この考え方は、彼がライフワークとするスポーツにも通底している。「トライアスロンも100キロマラソンもそう。いきなり『毎日10キロ走るぞ』と決めても、しんどくて続きません。最初は『ウォーキングから』とか、『次の電柱まで走ろう』とか。一つできたら、次を足していく。僕はこれを『コツコツが勝つコツ』って呼んでるんですけど(笑)」
大きな目標を掲げて圧倒されるのではなく、生活の延長線上にある小さな一歩を踏み出すこと。それが、団長安田流の物事の始め方であり、続け方だ。
かつては順位やタイムにこだわり、自身を追い込んでいた時期もあったという。しかし50代を迎えた今、トライアスロンとの向き合い方は「対・人」から「対・自分」へと大きく変化している。
「今はもう、楽しく、笑顔でゴールできたらそれでいい。ランの時も沿道の人とハイタッチしたり、写真撮ったりしながら、楽しくできたほうがいいなと思って。順位で競うと、抜かれたら落ち込むし、しんどくなる。でも『完走したらオッケー』にしていたら、ずっと楽しく続けられるんです」
競争から降りることで、逆に見えてくる景色がある。それはスポーツに限らず、人生そのものにおいても同様かもしれない。その「とらわれない生き方」が色濃く表れたのが、世界中が混乱に陥ったコロナ禍での過ごし方だった。

震災避難所で見た“善意の崩壊”
イベントやロケが軒並み中止になり、芸人の仕事はゼロに。収入への不安が頭をよぎってもおかしくない状況だが、安田は当時の心境を、少し申し訳なさそうに、しかし正直に明かしてくれた。
「今思えばですけど、あの時、割と楽しんでたなぁと……。毎日休みじゃないですか。周りもみんな休んでいるから、『自分だけ仕事がない』という焦りもない。堂々と休める。朝は決まった時間に起きなくていいし、家族とずっと一緒にいられるし、犬も飼い始めたりして。不謹慎で当時は言えませんでしたけど、実は結構、幸せな時間やったんです」
「ピンチ」と捉えれば恐怖だが、「堂々と休める休暇」と捉え直せば、それは豊かな時間になる。実はその後、団長安田自身もコロナに感染し、実名で報道されてしまうという“本当のピンチ”も経験した。「まるで犯罪者扱いでしたよ(笑)」と笑い飛ばすが、そんな逆風さえも、彼はどこか客観的に受け止めているように見える。
なぜ彼は、これほどまでに困難に対して軽やかでいられるのか。その原点は、30年前の阪神・淡路大震災にある。当時20歳だった安田は、避難所生活の中で「ある真実」を目の当たりにした。
「頑張りすぎたらダメなんです。避難所で『俺が全部やるわ!』って張り切っていた人が、だんだん疲弊して、結局周りと揉めてしまうのをたくさん見ました。『うちにおいでよ』と善意で人を招き入れた家が、共同生活のストレスで崩壊していくのも見た。まずは自分。そして家族。その順番を間違えると、だんだん潰れていくんです」
自己犠牲の上に成り立つ支援は続かない。「まずは自分が楽しむ」「無理をしない」。そのスタンスは、決して利己的なものではなく、長く走り続けるための知恵なのだ。小学時代の親友を亡くした経験から、「やりたいことはすぐやる。死ぬよりしんどいことはない」という行動力を得た。一方で、避難所生活からは「頑張りすぎない」ことの大切さを学んだ。
安田は自身の人生訓をこう締めくくった。「死ぬよりしんどいことなんてないですから、やりたいことはすぐやったほうがいい。でも、頑張りすぎたらあきません。頑張りすぎず、頑張る。それがコツです」。
未曾有の災害を生き延び、友の死を背負い、それでも笑顔で走り続ける男の言葉は、現代を生きる私たちの肩の荷を、ふっと軽くしてくれた。
□団長安田(だんちょうやすだ)1974年4月26日生まれ、兵庫・西宮市出身。2001年にHIRO、クロちゃんと共にお笑いトリオ・安田大サーカスを結成し、リーダーを務める。1995年の阪神・淡路大震災で被災し、友人を亡くした経験を持つ。トライアスロンやロードバイクなど、体力系・スポーツ芸人としても活躍。2024年12月に防災士の資格を取得した。
□『イッツコムおうち防災のすすめ』
東急線沿線のケーブルテレビ局「イッツコム」の地域情報チャンネル「イッツコムチャンネル」の番組。安田大サーカスの団長安田、防災アナウンサーの奥村奈津美が、家庭で実施できるさまざまな防災活動を紹介。なお、イッツコムでは3月4月に「イッツコム防災Action」と題し多彩な企画で防災の大切さを発信する。
https://youtube.com/playlist?list=PLdk6RavroSeglcjySxL2Wv1YvUCQQRwFr&si=L48mTlT9XMf-kKVs
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