「まさか自分の車が」愛車GT-R盗難から再起したトランスジェンダー女性、サーキットと美容の共通点
25年以上、ITエンジニアとして「男性」の姿で働き続けてきたトランスジェンダー女性のまやさん(@maya_seekers)。40代後半で性別移行を決意し、一歩ずつ「自分らしさ」を取り戻してきた傍らには、スポーツカーの存在があった。4回にわたったインタビュー最終回は、愛車との突然の別れと再起に迫る。

3年前にまさかの悲劇
25年以上、ITエンジニアとして「男性」の姿で働き続けてきたトランスジェンダー女性のまやさん(@maya_seekers)。40代後半で性別移行を決意し、一歩ずつ「自分らしさ」を取り戻してきた傍らには、スポーツカーの存在があった。4回にわたったインタビュー最終回は、愛車との突然の別れと再起に迫る。(取材・文=幸田彩華)
まやさんが性別移行の前から楽しんでいる趣味は、車の運転だ。その魅力について、こう語る。
「車の運転そのものが好きであり、普段の何気ない街乗りが、ただひたすら楽しかったりします。趣味に没頭してる時は嫌なことも全部忘れられると思いますが、そんな感覚です。車が自分の身体となって意のままに操っていく楽しさ、それを最大限に楽しむことが出来る車としてBRZに乗っています。自分をあらゆるストレスから解放してくれる、それがドライブの魅力ではないかと思います。もちろん、マナーを守り、安全運転、無事故があった上でのことですが」
ところが、3年前に突然の悲劇に襲われる。まやさんは日産自動車の1997年式スカイラインGT-R(R33型)を所有していた。近年は価格が高騰し、世界中のファンが垂涎する日本を代表するスポーツカーだ。発売時の新車価格はグレードによって異なるが、約480万円~600万円前後とされる。
11月のある朝だった。仕事に行こうと自宅アパートの駐車場に向かうと、目を疑った。昨日までそこにあったはずの愛車が、跡形もなく消えていた。
「頭が真っ白になりました。鍵もちゃんとかけていたし、まさか自分の車が盗まれるなんて。しばらくは現実を受け入れられませんでした」
すぐに警察へ被害届を出した。のちに犯人は逮捕されたが、肝心の車は見つからなかった。犯人は薬物購入の資金を作るために窃盗を繰り返していた日本人の男性だったという。
「犯人は、盗んだ車をどこにやったか最後まで話さなかったそうです。おそらく、すぐに解体されて海外へ流れたか、闇のルートで売られたのでしょう。愛情を注いでいた車がそんなふうに扱われたことが、何より悔しかったです」
車のない生活が1年ほど続いた。それでも「走ることへの情熱」は消えなかった。性別移行という人生の大きな転換期を過ごす中で、改めて「自分を表現する趣味」の大切さを実感した。そうして手に入れた新しい相棒が、スバルの「BRZ」だ。
「スカイラインを失った悲しみは消えませんが、新しい車でまた走り始めようと思えたんです。今は車両保険もしっかりかけて、対策を万全にしています」
週末になると横浜の「大黒パーキングエリア」など、車好きが集まる場所に顔を出す。そこは、車種や性別の垣根を超えて、「車が好き」という一点でつながれる交流の場になっている。
「スキンケアも車の手入れと同じ」エンジニアとしての視点
情熱はドライブにとどまらず、かつてはサーキット走行も楽しんでいた。
当初は不安もあったが、「実際に行ってみると、そこには偏見なんてありませんでした。サーキットは全員が『速く走る』という共通の目的を持ち、ルールとマナーを守る場所。女性の先輩ドライバーたちから『どんどんやりなよ!』と背中を押してもらったくらいです」。
歩行者も対向車もいないサーキットは、ドライバーとしての技術とプライドが試される。性別を移行してから、美容にも力を入れているまやさん。月の美容代は8万円を超えることもあるが、そこにはエンジニアらしい視点がある。
「スキンケアもメイクも、車の手入れと同じなんです。手をかければかけるほど、応えてくれます」
40代後半というタイミングで、車、そして自分自身の生き方も新しく塗り替えた。そこには、紆余曲折の末、手にした「自分らしさ」という確かな輝きがあった。
最後に、かつての自分と同じように性別で悩んでいる人や、一歩踏み出すことを迷っている人たちへ、まやさんはこうメッセージを贈る。
「諦めないでほしいです。もう20代だから、30代だから、40代だから手遅れ、ということは無いので。トランスジェンダーだけでなく全ての人に言えることだと思いますが。何歳からでも自分らしく輝いていけるというメッセージを全ての人に送りたいです」
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