「バカ」「ただで済むと思うな」暴言、乗り込まれ罵倒…除雪業者の壮絶現場「やり場のないストレスのはけ口に」

午前3時、通勤・通学が始まる前に終わらせようと懸命に働く除雪車。人影を見たかと思ったら、どんどん近付いてくる。そのまま乗り込まれて罵倒され……。クレームや暴言に悩む除雪業者のSNS投稿が反響を呼んだ。近隣住民から感謝やねぎらいを多く受ける中で、動きが遅いとあおられ、罵声を浴びることもしばしば。今年は各地で大雪被害が相次ぐ中で、ひっきりなしの除雪出動が続き、従事者の体力も限界に。「私たちは、やり場のない雪に対するストレスのはけ口になっています」。リアルな実態に迫った。

クレームに悩まされる除雪業者の悲痛な訴えが話題に【写真:本人提供】
クレームに悩まされる除雪業者の悲痛な訴えが話題に【写真:本人提供】

ねぎらいの言葉に感謝「今年は大変だったねと笑いながら言える春にしましょう」

 午前3時、通勤・通学が始まる前に終わらせようと懸命に働く除雪車。人影を見たかと思ったら、どんどん近付いてくる。そのまま乗り込まれて罵倒され……。クレームや暴言に悩む除雪業者のSNS投稿が反響を呼んだ。近隣住民から感謝やねぎらいを多く受ける中で、動きが遅いとあおられ、罵声を浴びることもしばしば。今年は各地で大雪被害が相次ぐ中で、ひっきりなしの除雪出動が続き、従事者の体力も限界に。「私たちは、やり場のない雪に対するストレスのはけ口になっています」。リアルな実態に迫った。

「除雪業者からのお願い。急ぐのはわかりますが、安全に通行できるように道を作ってます。煽らないでください。やり場のない怒りから文句を言いたいのはわかりますが、生身で近寄らないでください。マジで危ないです」

 新潟県内で、祖父から継いだ造園業の傍ら冬は除雪作業に出動している長橋正宇(まさたか)さん。X(@niwamasa_)を通して悲痛な訴えを発信した。

 切実な言葉の背景には、壮絶な現場がある。自治体の要請を受けて、弟とペアを組んで除雪車で出動。普段であれば朝5時ごろまでには完了するが、今年は大雪によって作業が遅れることが多く、許可を得ている雪捨て場まで行くのも苦労する状況。雪で隠れたマンホールやガードレールを傷付けないよう、細心の注意を払いながらの作業だ。通勤・通学ラッシュが始まる7時から8時まで時間がかかってしまうこともある。そうなってしまうと、道行く車からクラクションを鳴らされ、近隣住民から怒りをぶつけられてしまう。「もっときれいにしろ!」「家の前に雪を置いていくな!」「下手くそ! バカ!」「うちの周りの雪は他所へ持って行け!」。きつい言葉ばかりだ。

「この地域はお子さんを学校まで車で送迎する方が多く、急いでいらっしゃるのは分かるので、心苦しいです。できる限りきれいにするよう心がけておりますが、どうしてもバケットから雪がこぼれてしまいます。これに一個ずつ対応すると除雪が間に合わず交通のまひをきたしてしまいます。こぼした時は『ごめんなさい』と思っています」と現状を説明する。

 そのうえで、「私たちの不手際もあるのですが、縁石など自治体の構造物を破損してしまったこともあります。ご年配の方から『謝って済む問題じゃねぇぞ! ただで済むと思うな!』と言われてしまいました。除雪車に乗り込んできた方は『去年ここを壊したのはお前らか?』『壊したら承知しない』と。私たちは今年から担当なので、何があったのか分かりません。ただ、本当に危ないのと恐怖感もあり、困惑してしまいました」と振り返る。

 除雪車は時速10キロぐらいのスピードで、1回の出動で約6キロの範囲を5、6時間かけて回る。1軒1軒対応していては間に合わない。一度除雪したが、また積もってしまうこともある。それでも、「なんでやってないんだ」とクレームが届く。理解を得るのが難しい歯がゆさ。ひどいことに、除雪した道路に自宅の雪を投げ出し、追いかけてきて、「きれいにしろ」と命じられたことも……。「住民の皆さんは行き場のないストレスの当たりどころを探している印象です」とため息をつく。

 もう一つ、心苦しいことが。差し入れだ。長橋さんは善意への感謝を述べると共に、除雪車に近寄ることは危険だと呼びかける。「除雪車は視点が高く見晴らしがいい設計になっていますが、『灯台下暗し』と言われるように下部や後方の視界はあまりよくありません。サイズの割には機敏に動くので、人間がぶつかると万が一の場合は即死を免れないほどです」。除雪車が通った後のアスファルトは滑りやすくなる。長橋さん自身も転んでしまうことがあり、「近付くと危ないです。こちらとしてはありがたい限りなのですが、差し入れはお気持ちだけちょうだいすることでご理解いただければと思います」。複雑な心境を明かす。

ひっきりなしの除雪出動が続いている【写真:本人提供】
ひっきりなしの除雪出動が続いている【写真:本人提供】

差し入れで近付くのも「危険」

 今シーズンは元日から出動。1月下旬から、特に2月の豪雪対応で出ずっぱりの状態に。丸2日間ぶっ通しで働いてわずかな仮眠の後に出動を繰り返すこともある。「『空から金が降ってきていいだろう』と言われることもありますが、そんなことはないです。ここまで削った寿命の方が大きいんじゃないかな」

 実は長橋さんはかつて別のエリアで除雪作業に従事していたことがあった。2018年の大雪への出動で、体調を崩してしまい、24年に復帰するまで一時期離れていた過去がある。「その時もいろいろと厳しいことを言われ、中には空き缶を投げつけてくる人もいました。当時は未熟で、感情的になってイライラしながら任務に取り組んで。そのストレスが大きく、体を悪くしてしまいました。だからこそ、現場でもめるようなことを避けて、みんなが理解し合っていくことが大事だと思っています」と実感を込める。

 今月2日に本音をぶつけるようにつづった投稿は1.6万件の“いいね”を集める反響を呼び、「毎日作業ありがとうございます」「配送業やってます。感謝しかないです」「皆さまが除雪をして下さらなければ、私達は日常生活もままなりません」「除雪しなかったら困るのに。何様なんだろうね」「どうぞご安全に」「真夜中に、朝になる前に除雪してくださってるのに『うるさい』とか『早く除雪してくれ』なんて心ない言葉を発してる人がいますが、こちらは出勤・通学しやすいようにやってくれてることを知ってます!」など、感謝や共感の声が数多く届いた。

 長橋さんはXの投稿で、こんな思いをつづった。「大雪によるストレスはみんな一緒ですから、耐えるところは一緒に耐えましょう。いつまでも続きません。春になれば消えて無くなるものです。暖かくなった時に『今年は大変だったね』と笑いながら言える春にしましょう」。

 心のない言葉を投げかけられたが、総じて感謝の言葉が多く、雪害に立ち向かう大きな糧になっている。「皆様からの『寝ずに作業してくれてありがとう』『今日も安全に通れました』という言葉が私たちの心を救ってくださっています。こちらこそ『ありがとう』と伝えたいです」。心の底からのメッセージを寄せる。

 地域の安心安全のために身を削る除雪作業。「必ず春が来ますので『今年は大変だったね』と笑い合える春を一緒に迎えられたらうれしいです。しんどい思いをした冬の後に、例年より春を幸福に感じることができますように」と結んだ。

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