アニメ業界のビジネスモデルは変化するのか MAPPA×Netflixの戦略的パートナーシップ締結から考察

NetflixとMAPPAは1月下旬、戦略的パートナーシップの締結を発表した。今後開発が進むMAPPA制作の新作アニメを、世界190以上の国と地域で同時に届けていくという内容だ。ポイントは、単なる配信契約にとどまらない点にある。企画段階からグッズ展開まで、最初から世界市場を見据えて共同で進めていく枠組みが示された。発表文には「スタジオの主体性を核にした、新しい制作・ビジネスモデル」を目指すとも記されている。

大ヒットとなった『チェンソーマン レゼ篇』【画像:(C) 2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト (C)藤本タツキ/集英社】
大ヒットとなった『チェンソーマン レゼ篇』【画像:(C) 2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト (C)藤本タツキ/集英社】

スタジオの主体性を核とした、新しいビジネスモデルを標榜

 NetflixとMAPPAは1月下旬、戦略的パートナーシップの締結を発表した。今後開発が進むMAPPA制作の新作アニメを、世界190以上の国と地域で同時に届けていくという内容だ。ポイントは、単なる配信契約にとどまらない点にある。企画段階からグッズ展開まで、最初から世界市場を見据えて共同で進めていく枠組みが示された。発表文には「スタジオの主体性を核にした、新しい制作・ビジネスモデル」を目指すとも記されている。

 この提携が何を意味するのかを考えるうえでは、日本のテレビアニメがどのような仕組みで作られてきたのかを、最低限押さえておくと見え方が変わってくる。

 国内では長らく「製作委員会方式」が主流だった。テレビ局、出版社、音楽会社、玩具メーカーなど複数の会社が資金を出し合い、制作にかかるリスクを分散する。その代わり、出資比率などに応じて、作品に関わる権利や収益の配分を各社が持つという仕組みだ。この方式が背景となり、日本では年間多数のアニメが制作され、幅広いジャンルの作品が視聴者に届けられてきた。

 一方で、この仕組みのもとでは、実際にアニメを作る制作会社は、委員会から制作費を受け取って作品を納品する立場になりやすい。作品がヒットしてグッズが売れても、その利益の多くは権利を持つ側に集まり、制作会社が収益の上振れを取りにくい構造になりがちだ。

 Netflixは、この委員会方式とは異なる回路を少しずつ太くしてきた。2018年にProduction I.Gやボンズと包括的業務提携を結び、2019年にはデイヴィッドプロダクションとも提携を発表している。さらに2020年には、MAPPAやサイエンスSARUを含む複数スタジオとの提携を打ち出した。作品ごとの設計は一様ではないにせよ、製作委員会に依らない形も含め、スタジオと直接連携して作品を作り、世界の視聴者に届けるラインを強化してきたことは確かだ。その流れの中に、今回の発表がある。

 Netflixは今回の発表で、自社プラットフォームにおけるアニメ視聴の拡大についても言及している。全世界の会員の50%以上がアニメを視聴しており、過去5年間で視聴は3倍に増えたという。

 この数字の背景には、配信サービスの普及が視聴のきっかけそのものを変えてきたことがあるだろう。かつてアニメは「もともとアニメが好きな人が観るもの」という面が強かった。放送時間を把握し、録画を設定し、あるいは深夜に起きてリアルタイムで観る。ある程度の能動性がなければ、作品にたどり着くことが難しかった。

 しかし配信サービスが広まったことで、この構図は変わりつつある。ドラマや実写映画を観ていた人が、ランキングやレコメンドを通じてアニメ作品に出会う。会社や友人間で話題になっている作品を「とりあえず1話だけ」と再生してみる。そうした偶発的な接触が生まれやすくなり、実写コンテンツを中心に観ていた層がアニメに触れる導線ができたとも言える。Netflixがアニメを「配信だけでなく企画段階から関わる領域」として位置づけているのは、この需要の拡大を自社のビジネスに取り込もうとしているからだろう。

 一方のMAPPAも、制作会社が関与範囲を広げ得る座組を早くから試みてきたスタジオだ。その代表例が、2022年に放送された『チェンソーマン』である。同作では製作委員会を組まず、MAPPAが製作費を100%負担する単独出資の形式が取られた。制作会社が出資者として権利を持つ側にも立った事例として当時多くのメディアで取り上げられ、その後に続く劇場版『チェンソーマン レゼ篇』も作品としての勢いを示したことは記憶に新しい。

“スタジオ主導”はどこまで実態を伴うことができるのか

 もちろん、100%出資だけが正解というわけではない。製作委員会方式には、リスクを複数社で分け合えるという強みがあるし、作品の性質によって最適な座組は異なる。ただ、『チェンソーマン』が示したのは「制作会社が制作業務を請け負う立場にとどまらず、権利や収益の設計にも踏み込む」という選択肢が、少なくとも現実の運用として成立し得る、という点だろう。

 その意味で、今回のNetflixとの戦略的パートナーシップは、この流れと地続きに捉えられる。配信契約に限らず、企画段階からグッズ展開までを見据えて共同で進める枠組みが示されたのは、制作そのものだけでなく、作品をどう育て、どこで回収し、どこまで展開するかという設計に、スタジオが関与し得る余地を広げるからだ。MAPPAが「スタジオの主体性」を掲げつつ、プラットフォームとの直接連携をさらに進める判断をした、と言い換えてもいい。

 では、この動きをどう捉えればいいのか。スタジオが関与範囲を広げる案件が増えれば、作品づくりの判断や、二次利用を含めた収益設計において、制作側が関与できる余地は広がる。ただし、製作委員会方式のもとで分担されてきた宣伝、商品化、国内での販売や流通といった機能を、誰がどのように担い、回していくのかは別の問いとして残る。スタジオの裁量が増えるほど、その裏返しとして、体制づくりやオペレーションの難度も上がりやすいからだ。

 Netflixとのパートナーシップは、ある意味では作品の立ち上げから届け方までを、委員会方式とは異なる設計で動かせる“選択肢”ともとれる。「スタジオ主導の新しいビジネスモデル」という言葉が、どこまで実態を伴うものになるのか。それは今後の作品群と、その裏側で権利や収益、展開の役割分担がどう設計されるかによって見えてくる。実際にどんな作品が生まれ、どんな形で世界に届けられていくのかを楽しみに待ちたい。

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