漫画の実写映画化で「めちゃくちゃ文句を言った」 原作者・押切蓮介氏が痛感した“自分の手を離れる難しさ”

『でろでろ』『ハイスコアガール』など、数々のヒット作を世に送り出してきた漫画家・押切蓮介(46)。その作品群は漫画という枠を飛び越え、アニメや実写映画としても多くのファンを魅了してきた。自作が別のクリエイターの手によって新たな命を吹き込まれることについて、押切先生は「うれしいですよ。自分の作品が成長していくみたいで」と語る。しかし、その道のりは常に平坦だったわけではない。特に、2024年に公開されたホラー映画『サユリ』では、原作者として、そして出資者として製作に関わるという稀有な経験をした。そこには、クリエイターとしての矜持と、理想と現実の狭間で揺れ動く複雑な葛藤がある。

インタビューに応じた押切蓮介先生【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた押切蓮介先生【写真:ENCOUNT編集部】

自ら出資で製作委員会に参加も…「ほぼ反映されず」

『でろでろ』『ハイスコアガール』など、数々のヒット作を世に送り出してきた漫画家・押切蓮介(46)。その作品群は漫画という枠を飛び越え、アニメや実写映画としても多くのファンを魅了してきた。自作が別のクリエイターの手によって新たな命を吹き込まれることについて、押切先生は「うれしいですよ。自分の作品が成長していくみたいで」と語る。しかし、その道のりは常に平坦だったわけではない。特に、2024年に公開されたホラー映画『サユリ』では、原作者として、そして出資者として製作に関わるという稀有な経験をした。そこには、クリエイターとしての矜持と、理想と現実の狭間で揺れ動く複雑な葛藤がある。(取材・文=関口大起)

 自身の作品が漫画というメディアを飛び出し、アニメや実写映画として展開されていくこと。多くの漫画家にとって、それは大きな喜びであり、自身の創作活動が認められた証でもあるだろう。押切先生もまた、その一人だ。

「うれしいですよ。自分の作品がまた成長していくみたいな感じにもなるし、ほかの人の手に渡って味付けされていくっていうのは喜ばしいことだと思います。だいたいはうまくいっていますしね」

 これまで『ミスミソウ』や『ハイスコアガール』など、数々の作品が実写化・アニメ化されてきた。そして、その仕上がりには概ね満足しているという。しかし一つだけ「めちゃめちゃ文句を言った」と苦笑しながら振り返る作品がある。それが、24年に実写映画化された『サユリ』だ。

 押切先生にとって、映像作品は常にリスペクトの対象だった。だからこそ、原作者という立場に甘んじることに、ある種の物足りなさを感じていたという。

「映画における原作者って、実は一番仕事をしていないんですよ。ただ原作を提供しただけだし、そもそも映像作品にしようと思って描いたわけじゃないですしね。だから、映像作品を作ることに貢献したいという気持ちが強くて」

 その強い思いが、押切先生を前代未聞の行動へと駆り立てる。映画『サユリ』の製作において自ら製作費の一部を出資し、「製作委員会」に参加するという道を選んだのだ。

「僕がいくらか出しますよ、みたいな話をしたら『マジですか!』と。ただ、『それなら製作委員会に入らせてください』という条件を出しました。会議に参加できれば、原作者であり出資者として発言権が得られて、映画づくりに貢献できるぞ、って」

 漫画家が自作の実写化映画の製作委員会に入るのは極めて珍しい。しかし、出資者と原作者という二つの立場を手にすれば、作品に対してより深くコミットできるはずだ。押切先生の期待は大きかった。だが、現実はそう甘くはなかった。

映画公開時は仲間内で「悪口大会」も…興行的には成功で「これもこれでありか」

 押切先生が描いた『サユリ』は、「身勝手な悪霊をぶちのめす」という単純明快なエンターテインメントだ。しかし、映画版では登場人物の背景に幼児虐待といった要素が加えられ、物語の主軸が「悪霊そのもの」から「悪事を働く人間」へとシフトしているように感じられたという。

「僕は悪霊そのものが嫌いだからこの漫画を描いたんです。ネグレクトとか児童虐待をテーマに描いたわけじゃない。だから『さゆりがかわいそう』みたいな要素はいらないと思うんです。でも僕のその声はほぼ反映されず、映画は完成しました」

 映画が公開されると、押切先生の元には複雑な感想が寄せられることになる。ある夜、映画を観たばかりの知人たちと合流すると、そこはさながら「悪口大会」と化していた。

「『なんで止めなかったの?』って皆が怒り狂っていて。そりゃ僕も悔しい思いがあったので、『だよな、だよな』って悲しい盛り上がり方をしてしまいました」

 しかし、先生や周囲の知人の思いとは裏腹に、映画は興行的に成功を収める。つまり、多くの観客に受け入れられたのだ。さらに押切先生を混乱させたのは、「原作より良かった」という声が少なからずあったことだった。

「ヒットしたらだんだん『これもこれでありか』とは思えてきました(笑)。今でも思うところはあれど、監督に感謝すらしています。あの作品で多くの人が幸せになったのなら、それはそれで良かったのかもしれない。でも、『面白さってなんだろう』って、すごく考えるきっかけにはなりましたね」

『サユリ』での経験は、押切先生に新たな創作意欲を芽生えさせた。自ら監督を務め、オリジナルアニメ『ざしきわらしのタタミちゃん』を制作。さらに、26年には自主映画の監督に挑戦する計画も進行中だという。

「監督業、向いてる気がするんですよ。漫画のアシスタントさんとの関係性もそうですけど、人を束ねて働くことに対してアドレナリンがめちゃめちゃ出るんです。この人にはこれが向いている、この人にはこうしてもらおう、みたいに考えるのがとにかく楽しい」

 漫画家という枠にとどまらず、アニメ監督、自主映画監督、現在はYouTuberやバンド活動まで行っている。押切先生はなぜ、幅広いジャンルで表現を続けるのか。

「現代は、エンターテインメント、特に動画の存在が大きすぎます。だから仮に僕が新作を描いても、僕のファンだってすぐに読んでくれるかは分からない。たとえば日曜日の朝、ぱっと起きて漫画を読もう! って人がどれだけいますかね。一方で、起きてすぐとりあえず動画を再生する人はいると思うんです。そういう事実に、なんとなく漫画への意気込みが減ってしまっているというか。昔みたいに、死ぬほど描いて世に届けよう! とは思えないんです」

 時代の変化とともに、漫画を取り巻く環境も変わった。その中で、押切先生は漫画以外の表現への挑戦も続けている。映画監督も、競馬系YouTuberとしての活動も、音楽活動も、すべては尽きることのないクリエイティビティーの発露なのだ。

関口大起(https://x.com/t_sekiguchi_

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