話題のカーフキック禁止論争、青木真也が異議「格闘技って全部危ねぇ」 安易な切り取りに「弱いんですよ」
年間最大の格闘技イベントの閉幕から約2週間、格闘技界で一つの“技”を巡る議論が巻き起こった。カーフキック。近年、MMAやキックボクシングで猛威を振るうトレンド技だ。その有効性が証明される一方で、ダメージの深刻さから「禁止にすべきでは?」という声も定期的に上がる。カーフキックとは何なのか。プロキャリア20年以上、現役として格闘技の進化を見続けてきた青木真也に問いかけた。

卜部弘嵩のX投稿を機に議論
年間最大の格闘技イベントの閉幕から約2週間、格闘技界で一つの“技”を巡る議論が巻き起こった。カーフキック。近年、MMAやキックボクシングで猛威を振るうトレンド技だ。その有効性が証明される一方で、ダメージの深刻さから「禁止にすべきでは?」という声も定期的に上がる。カーフキックとは何なのか。プロキャリア20年以上、現役として格闘技の進化を見続けてきた青木真也に問いかけた。(取材・文=島田将斗)
火種となったのは元K-1ファイターの卜部弘嵩のX投稿だった。
「カーフキックは、禁止にしていい技だと思う。あれは人体を破壊する技で一度破壊された選手は、しばらく戦いに戻れない。戦闘不能にし、選手生命を奪う技。武道としては理解できる部分はあるが、競技としては疑問が残る」
カーフキックとは、相手のふくらはぎ付近を狙うローキックの一種。太股へのローキックと違い、筋肉の守りが薄く、神経に直接衝撃が伝わるため、真正面から受けると甚大なダメージを負うことで知られている。
日本では2020年大みそか、朝倉海と堀口恭司の2度目の対戦でたちまち話題になった。この試合では朝倉が堀口のカーフキックを被弾。思わず体勢を崩し、反撃の機会を奪われるほどのダメージを受け、試合後には筋断裂していたことが明らかになった。それ以降、YouTubeにはカーフキック関連のコンテンツが続々と投稿され、一種のトレンドとなった。
「技術体系としては前からあるんだけど、ジェレミー・スティーブンス(米国)とか高橋遼伍さんとかがずっと使ってたりした。もっと前で言えば和田竜光とか長倉立尚が使ってたけど、堀口(恭司)で流行ったっすよね。衝撃的ではあったし、あそこまでイージーに入ってたのもなかったし」
今回の件でネット上では「カーフキック=危険」という議論が主に展開されてきたが、青木は「MMA、ムエタイ、キックボクシングって全て同じものとしてしゃべってないですか?」と首をかしげる。
確かに3つは同じ格闘技だが競技特性は全くの別物。“カーフキック”という技は一緒でも、そこを一緒くたにして論じるのは、そもそも論として成立していない。

現代MMAでカーフキックは「ハメ技」
3つのジャンルでカーフキックはどのような役割を果たしているのか。
現代MMAはパンチのコンビネーション攻撃や相手のタックルを切ることを念頭に置いた「前足重心」になっている。これにより膝下部分ががら空きの状態となり、体重の乗った前足は蹴られた際になかなかカット(防御)できない。現在はパンチのジャブと同じようにカーフキックが蹴られている。蹴りのカットは“捨てている”という考え方もでき、青木はMMAでのこの技を“ハメ技”と表現した。
「MMAで蹴りをそもそもカットしない、スタンスが広いとなると相手はカーフを蹴りやすいんだよね。要はいまのスタイルにおける穴です。そこを突いた技だったと思うんですよ」
対照的なのはムエタイだ。ムエタイは基本的に後ろ足重心で、前足は相手の蹴りをいつでもカットできるようになっている。さらにエルボーや組み、膝蹴りなど、圧をかけて間合いをつぶすような動きもあり、カーフキックの出番は少ない。そもそも、近~中距離での派手な技が評価される競技において、離れた距離から蹴っていく戦いは「つまらない」という意見もある。
では、キックボクシングの場合はどうか。パンチを防ぐために顔面にガードを固めると視界が遮られ、両足に重心が乗る形になりやすい。そうなれば膝下は格好の餌食となる。MMAと同様にこれがフィニッシュ技のように使われることが増えている。
青木は「キックボクシングの中で禁止するという案が出てくるのは理解できる。面白いものを作るっていう観点でいったらアリだと思う」とうなずいた。
カーフキックと検索すると、被弾した選手が足を破壊されたかのように痛がる映像が多々出てくる。インパクトの強い映像のため「カーフキック=危険」という意見も多く出ているが、青木はその指摘が弱いとダメ出しした。
「危険っていう切り取りは弱いんですよ。だって頭殴る方が、ぶん投げる方が危険だもん。俺の意見論評としては、(カーフキック頼りは)人を魅了する競技になり得ない。柔道とかオリンピックだってそうだけど、そこを軸にルール変わるじゃん。残るためにルールチェンジするわけじゃないですか。もし本当に『NO』とするなら客側が『面白くない』って突き付けるしかないですね」
自身は好きではないと斬った。
「やられた方が弱く見えるじゃん。プロレスの足四の字と一緒で、使い方が難しいっすよね。好きか嫌いかで言うと蹴られたこともねえんだけど、あんまり好きな攻撃じゃない。面白くない。(カーフキックは)あくまでスパイスで隠し玉なんだって。隠し玉が競技のメインになったら面白くない」
「そもそも格闘技って全部危ねぇよ」。カーフキックを危険か否かだけで論じるのは本質ではないと、青木は苦言を呈した。重要なのは、それが観客にとって面白いのか、つまらないのか。表面的な危険性だけでなく、競技の背景やエンターテインメントとしての側面を含めて議論することこそが、格闘技界の発展につながるのかもしれない。
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