東京五輪から舞台まで…表現者・アオイヤマダが現代能で見せる新境地 珊瑚の霊役に「舞台上で成仏させたい」

東京五輪閉会式のソロパフォーマンスで注目されたパフォーミングアーティストのアオイヤマダが、2月13日からKAAT神奈川芸術劇場で上演される舞台『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』(作・演出/岡田利規、3月1日まで)に主演する。能のスタイルを取り入れた2本立ての音楽劇で、2021年に続く第2弾。映像や写真なども含め、表現者として多彩に活躍するアオイが、この意欲作に対する役作りや思いを語った。

インタビューに応じたアオイヤマダ【写真:増田美咲】
インタビューに応じたアオイヤマダ【写真:増田美咲】

舞台『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』に主演

 東京五輪閉会式のソロパフォーマンスで注目されたパフォーミングアーティストのアオイヤマダが、2月13日からKAAT神奈川芸術劇場で上演される舞台『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』(作・演出/岡田利規、3月1日まで)に主演する。能のスタイルを取り入れた2本立ての音楽劇で、2021年に続く第2弾。映像や写真なども含め、表現者として多彩に活躍するアオイが、この意欲作に対する役作りや思いを語った。(取材・文=大宮高史)

 ダンサー・モデル・俳優……ジャンルを軽やかに横断し、気鋭の表現者として走り続けるアオイが、新たな扉を開く。本作は岡田利規氏の作・演出により、能をモチーフに現代を切り取った音楽劇で、霊的存在が過去の無念や思いを語る「夢幻能」の形式に触発されて生まれた。沖縄・辺野古の海に生息していた珊瑚を主人公(シテ)とする『珊瑚』と、社会の荒波に翻弄された女性を描く『円山町』の2本立て。アオイは『珊瑚』でシテとして、珊瑚の霊を演じる。

 彼女自身、2021年に上演された本シリーズの第1弾『未練の幽霊と怪物―「挫波」「敦賀」―』を鑑賞。『挫波』『敦賀』は、幻になった故ザハ・ハディド氏デザインの国立競技場や、廃炉になった敦賀の高速増殖炉『もんじゅ』をモチーフとしており、そんな悲運の存在を舞台で描いた演出に衝撃を受けたという。

「舞台上に具体的な美術セットがあるわけではないんです。それなのに、見ている私の頭の中には、あのザハさんの国立競技場の建築が浮かび上がってきて。それが、幽霊に取り憑かれたような感覚でした。その後、千駄ヶ谷の国立競技場のあたりに行ってみると、普通の風景だったはずの場所が、作品の記憶と重なって全く違うものに見えてきたのが強烈でした。現実の景色まで変えてしまうような、今までにない体験でした」

――第1弾を見られた当時、強烈な印象があったようですが、今回は岡田さんからのオファーを受けての出演となります。最初にお話を聞いた時の心境は?

「素直にうれしかったですね。ただ同時に、『私にできるんだろうか』という不安もありました。岡田さんの作品は身体の使い方も、セリフと身体との距離感も独特です。単に踊るのとも、お芝居をするのとも違うので。だからこそ期待と、『勉強させてほしい』という気持ちが入り混じった状態で飛び込みました」

――今回の『珊瑚』は辺野古が舞台になります。演じる珊瑚については、どんなイメージで臨んでいますか。

「実は昨年夏に石垣島へ行って、海に潜ってきました。同じ沖縄の海で、サンゴと並んで海面を眺めてみたかったんですが、そこでサンゴにお尻を擦ってしまって怪我をしてしまいました(笑)。痛かったですし、傷の治りも遅くて『ただ綺麗で弱い生き物じゃないんだ』と気づかされました。いろんな生物の住処にもなっていて、強い自然の象徴に思いました」

――一方的に破壊される存在ではない、というイメージに至ったのですね。

「参考資料としていただいた珊瑚の本も読みました。珊瑚が一斉に産卵する理由もまだ解明されていないそうなんです。自然は強いし、まだ人間が知らないこともいっぱいあります。地球のヒエラルキーで人間が一番偉いなんてこともないんだと思わされましたし、私たち人間には珊瑚になることもできないので、珊瑚に乗っ取られたような感覚で演じたいです」

稽古で目指すこととは【写真:増田美咲】
稽古で目指すこととは【写真:増田美咲】

演出家からの言葉で覚醒「虹を作るんじゃない」

 今作は夢幻能の様式をヒントに、辺野古の珊瑚の「霊」として、社会の動きの中で犠牲となった、膨大な「未練」の存在を観客に訴えるのがコンセプトでもある。アオイはそこに、人がつい抱いてしまう「過去への後悔」の感情も見出した。

「私たちはいつでも、何かを選択するうちに別の選択肢を捨ててきたと思います。そんな『選ばれなかった運命』も全て幽霊のようだなと思っていて。今回は霊の役なので、人間が生きていく中で切り捨ててしまった運命や後悔もひっくるめて、舞台上で成仏させたいという気持ちがあります。観客の皆さんがふとした時に、いつでもこの記憶が蘇るような舞台になれればと思います。それが私の思う『幽霊のような舞台』です」

――それを表現するために、稽古でどんなことを目指していますか。

「岡田さんから言われてすごくハッとしたのが、『虹を作るんじゃなくて、虹が見える条件を整えるんだ』という言葉でした。私はこれまで、ダンスでもお芝居でも、どれだけその役に入り込めるか、感情を込められるかが大事だと思っていました。でも、岡田さんは『役に入り込むことが、必ずしも観客にとっていい結果を生むとは限らない』とおっしゃっています。演者の達成感は観客には無関係で、私たちは条件を整えることで、観客の脳内に虹のような、その場でしか味わえない体験を見せるのが務めだと。その考え方に触れて、今までとは違う感覚が必要だと痛感しました」

 現代劇と能を融合した今作で新たな表現を模索するアオイ。後編では、彼女が長野・松本から上京して東京でどんな刺激を受けたか、触れてきた文化や思い出について語った。

□アオイヤマダ 2000年生まれ、長野県出身。パフォーミングアーティスト。2021年開催の「東京2020オリンピック閉会式」や25年開催の「大阪・関西万博閉会式」でパフォーマンスを披露した。宇多田ヒカルのミュージックビデオ『何色でもない花』などの振付も担当。踊り語りユニット『アオイツキ』でも活動する。身体と記憶、食と人、音楽と心の繋がりを信じて現在は独自の感覚と日常を融合させ、楽曲制作やパフォーマンス作品に取り組んでいる。俳優としても活躍しており、Netflix『First Love初恋』(22年)、映画『PERFECT DAYS』(23年)などに出演。26年は2月6日公開の映画『禍禍女』、4月10日公開の映画『炎上』にも出演予定。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』
公式サイト:https://www.kaat.jp/d/miren2026

スタイリスト:沢田結衣(UM)

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