「なぜこんなに生きるのが大変なのか」 金髪の天文物理学者が日本社会を“おかしい”と断言した理由

「なぜこんなに生きることが大変なのか私には分からない」。金髪をなびかせながら、天文物理学者のBossB(ぼすびー)さんは率直に言い切った。高校卒業後に単身渡米し、コロンビア大学などで学んだ彼女は、宇宙の神秘を解き明かす一方で、地上の社会システムの矛盾に鋭い視線を向ける。2児の母として海外で7年間子育てに専念した経験を持ち、帰国後はチラシ配りからキャリアを再スタートさせた。BossBさんが、今の日本社会に投げかける問いは痛烈だ。

信州大准教授のBossBさんは2児の母でもある
信州大准教授のBossBさんは2児の母でもある

共働きせざるを得ない夫婦…なぜ私たちは疲弊しているのか

「なぜこんなに生きることが大変なのか私には分からない」。金髪をなびかせながら、天文物理学者のBossB(ぼすびー)さんは率直に言い切った。高校卒業後に単身渡米し、コロンビア大学などで学んだ彼女は、宇宙の神秘を解き明かす一方で、地上の社会システムの矛盾に鋭い視線を向ける。2児の母として海外で7年間子育てに専念した経験を持ち、帰国後はチラシ配りからキャリアを再スタートさせた。BossBさんが、今の日本社会に投げかける問いは痛烈だ。

「産業革命があって、科学革命があって、指数関数的に機械化が進み、今はAI化が進んでいる。1つの物を作るのに必要な労力は、昔に比べて劇的に減っている。それなのに、私たちの暮らしはむしろ、もっともっと大変になっている。それは社会の仕組みがおかしいからです」

 BossBさんの指摘は明快だ。機械化やAIで生まれた富がうまく分配されていない。それどころか、社会や企業はもっと消費しろとあおり、そのためにもっと働けとあおる。その結果、0歳児を保育園に預けて夫婦で働かざるを得ない親たちが増え、富は一部に集中したまま、さらに膨らみ続けている。

 日本の高校を卒業後、海外で着実にキャリアを歩んできたBossBさんだが、第2子が誕生してからは、7年もの間、子育てに専念した。

「楽しかったんですよ。でもなぜやめたかって言うと、私が相手にされなくなったから。子どもが大きくなると、お母さんよりも友達と遊んでたほうが楽しくなる。必要とされてないのに、私ばっか追いかけても意味ないじゃないですか」

 パートナーが博士号を取得する間、「主婦」として子育て期間をとった。だが、彼女自身がキャリアの再形成を考え始めた時、2人の意見は合わなかった。離婚を決意し、自分で生きていく道を選んだ。

「私にとってパートナーであるということは、真の友人であることがまず大切。お互いをサポートして高め合う関係がなくなった時、一緒にいる理由がないと思い始めた」

 疎遠になっていた社会とのかかわり。BossBさんがまず始めたのはキックボクシングだった。「私らしいんですけど」と笑う。

 帰国しても、日本でのキャリアは何もない状態だった。

「日本に来た時は、チラシ配りから始まりました。1枚1円というところから。でも絶対這い上がってやるって思っていた。愛する2人の息子のためだったら絶対にできると思ってたし」

 信州大の教職に着地するまで、嫌な仕事もいっぱいした。しかし、楽観的な彼女は、どうにかなると信じていた。コロナ禍で開設したSNSでバズリまくり、総フォロワー数は70万人を突破。先日は、新著『すごすぎる宇宙・天文の図鑑』(KADOKAWA)を上梓し、海外からの仕事依頼も届くなど、公私ともに順調だ。

 一方で、現代の日本を見渡すと、疲弊にあえぐ社会の姿がある。特に本来、子育ては、何ものにも代えがたい幸せをもたらすものだ。ところが、子ども1人育てることすら難しい。0歳児を保育園に預けて共働きせざるを得ない今の日本について、BossBさんは「おかしい」と断言した。

 そして、興味深い解決策を提示した。

日本社会の課題を指摘した
日本社会の課題を指摘した

出産でキャリアを止めたくない女性たち、少子化問題の解決策

「1975年に、アイスランドで女性の約9割が、自分たちに伝統的に求められている家事や仕事を一斉に放棄したんです。それによって男たちが気づいた。GDPにもならないし、お金にもならなかった、見えない女性たちの努力が、やっと可視化されるわけです」

 ゴミ収集車の人たちが1週間ストライキをしたら、街はゴミだらけになる。その時初めて彼らの大切さが分かる。同じことを、アイスランドの女性たちはやってのけた。その数年後、史上初の女性大統領が誕生し、今ではアイスランドはジェンダー平等で世界有数の国であり続けている。

「あくせく働いている人たちが働くのをやめて、『もうやってられない』という大きなストライキが起きたら、社会はどうなるのか。そんなことを考えてしまいますね」

 不登校の子どもたちにも同じ可能性を見出している。不登校の子が半分を超えたら、今の日本の学校・教育制度は成り立たなくなる。明らかにおかしいと分かるはずだ。

「日本の社会が崩壊すれすれのところまで追い込まれた時に、初めて気づくことがあるのかもしれない。私は社会の淵に追いやられてるような人たち、0歳の時から保育園に預けて働かなきゃ生計を立てられない人たちの声を届けたい。理論としては単純で、半数以上が『おかしい』と拒否すれば、社会は変わらざるを得ないんです」

 女性の社会進出が進み、大学進学率も上がった今、出産してもキャリアを止めたくない女性は少なくない。一方、出産の時期は遅れるか、あるいは出産そのものを諦めざるを得ない状況が生まれ、少子化対策という意味では、悪循環が続いている。その中で、BossBさんのように、7年間も子育てに専念するのは日本社会に生きる多くの女性にとって、ますます難しくなっている。

 この問いに対し、BossBさんはノーベル賞を受賞した経済学者クラウディア・ゴールディンの研究を引用した。

「なぜ男女の賃金差がなくならないか。それはグリーディージョブ(貪欲な仕事)があるから。24時間体制でいつでも働ける人たちが社会的に高く評価され、何千万、何億と稼げる仕組みがある」

 夫婦のどちらかがグリーディージョブで年収5000万稼ぎ、もう一方が子育てに対応できるフレキシブルな仕事で400万稼ぐ。このほうが、2人ともフレキシブルな仕事で600万円ずつ稼ぐより圧倒的に得だという現実がある。そして必然的に、男性がグリーディージョブに就く社会状況が生まれる。

「グリーディージョブがある限り、絶対に男女の賃金差はなくならず、少子化問題も解決しない。働くとはどういうことか、根本的から再定義する必要がある、もう一つの重要な理由です」

社会の構造改革なくては改善しない仕事と子育ての両立

 BossBさんが提案するのは、社会全体の価値観の転換だ。

「働くことがすごいのではない。人間らしく生きて幸せであることがすごいと再定義する必要がある」

 そして何が生きる上で大切な仕事なのか。大切な仕事だからこそ、それ相応の収入を支払う。例えばゴミ収集車の人たちのように、社会に不可欠な仕事こそ、もっと正当に評価され、十分な報酬が支払われるべきだとBossBさんはいう。

 週3日休みでもいいし、1日4時間労働でもいい。社会の優先順位を見直した構造改革の先に、子育てにも時間を割ける社会が開かれる。

「世の中の働くこと、価値観を再定義して富を再分配したら、もっとみんなポコポコ子どもを産んで楽しく生きられるようになるのではないか」

 機械化とAI化で豊かになったはずの社会で、なぜ私たちは疲弊しているのか。BossBさんの言葉は、その答えを押しつけるのではなく、私たち一人ひとりに考え直すことを促している。

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