松田龍平、父・優作さんを意識して辿り着いた正反対の探偵像「逆張りした訳ではないんですけど」
俳優の松田龍平が、放送中のテレビ朝日系連続ドラマ『探偵さん、リュック開いてますよ』(金曜午後11時15分※一部地域を除く)で主演を務め、探偵兼発明家を演じている。松田は企画から携わっており、どこか温かさを感じる、温泉街を舞台にした“ほっこりミステリー”に。作品に込めた思いなどを聞いた。

主演ドラマ『探偵さん、リュック開いてますよ』に企画から参加
俳優の松田龍平が、放送中のテレビ朝日系連続ドラマ『探偵さん、リュック開いてますよ』(金曜午後11時15分※一部地域を除く)で主演を務め、探偵兼発明家を演じている。松田は企画から携わっており、どこか温かさを感じる、温泉街を舞台にした“ほっこりミステリー”に。作品に込めた思いなどを聞いた。(取材・文=大宮高史)
本作の舞台は、架空の温泉街・西ヶ谷温泉。松田は、実家の温泉旅館で失踪した父の跡を継ぎ、探偵稼業を営みながら発明品の開発に勤しむ、主人公の一ノ瀬洋輔を演じる。洋輔のもとに、温泉街の住人から依頼が舞い込み、日常に奇妙な変化が訪れ始める……という展開だ。松田と映画『モヒカン故郷に帰る』(2016年)、ドラマ『0.5の男』(23年)に続き3度目のタッグとなる脚本・監督の沖田修一氏による、ほっこりしたヒューマンミステリーが誕生した。松田は今回企画から携わり、意見交換を行ってきた。
「今回企画から携わらせていただきましたが、ジャンルは『ミステリー』と聞いていたので、探偵モノかなと。そんな時に沖田監督も探偵モノがやりたいジャンルの一つにあると耳にしたので、声をかけたらまさかのやってくれるとなって。そこから一気に話が進みました。ありがたかったですね」
ただ、松田が考えた主人公の洋輔は、温泉街で発明をしながらのんびり暮らしているという設定で、天才的な名探偵のイメージとは程遠い。
「探偵というと刑事みたいに犯人を追いかけたり、アクションしたりするイメージがありますが、あまりハードなことはやりたくなくて(笑)。それで、推理をアシストしてくれるものとして発明品を考えて、さりげなく彼の発明が解決につながればと思いました。普段は舞台になる町を散歩したり住民達と世間話をしたりして、フラフラしているようなお話です」
座長らしからぬその提案に、沖田監督はどのような反応を示したのか。
「沖田さんには『そんなに身体を張りたくないんだ』と笑われましたね。確かにそれもあるんですけど、激しいものばかりがアクションじゃないというか、なんでもないことが面白かったりすると思うし。ミステリーも王道なところと脱線するところがあれば面白いと思いました」
松田と探偵といえば、映画『探偵はBARにいる』シリーズが印象深い。大泉洋演じる探偵の相棒兼運転手で北海道大農学部助手・高田役を好演した。飄々とした高田のたたずまいは今作の洋輔とも重なるが、それ以上に松田が意識したのは、かつて『探偵物語』(日本テレビ系で1979年9月~80年4月)で父・松田優作さん(1989年死去)が演じた主人公・工藤俊作の強烈なキャラクターだった。
「父親のドラマのことは、なんとなく意識にありました。今回、探偵モノをやろうと決めた時、『探偵物語』とは違う探偵像を自然とイメージしていって。自分なりに探偵を想像した時に無理やり、逆張りをした訳でもなかったんですけど、正反対の作風になっていったのは面白かったですね」
父の背中を追うのではなく、かといって追い越そうとするものでもない。父や作品に対する尊敬の念を抱きつつ、今作で描く“ゆるい”探偵像ができたのは、沖田監督との信頼関係が土台にあるからだ。
「『モヒカン故郷に帰る』の時は売れないバンドマン、『0.5の男』の時は引きこもりの役で、今回はちゃんと働いているという意味ではランクアップしましたね。ちょっと真人間に近づきました(笑)。洋輔は、沖田さん曰く『リュックがずっと開いているからこそ、閉めようと思ってくれる人がいる』という性格で、完璧ではないから周囲の人がつい手を差し伸べてくれる。そういう不完全さも、ミステリーらしからぬ見どころですね」

現場では猫と奮闘「ドタバタ感が面白くなれば」
沖田監督の演出は、現場の空気を丸ごとすくい取るように切り取っていく。そこには、主演俳優だけを特別視しない視点があった。
「監督は形よりもその現場に起きている芝居を見ている印象がありますね、一歩退いて全体の情景で作品になるか、を考えてるんじゃないかなって。だから画面の隅にいる人でも面白かったら、ちゃんとフォーカスして、生かしていく。現場でたまに、変なところを面白がって、長いこと笑いながら格闘していたりするんですけど、それが作品の雰囲気を作り出してるんだなって。洋輔の発明品も登場するだけで会話のテンションが変わる面白い“ノイズ”になっています」
“ノイズ”を重んじる発想は、今作の現場の空気からストーリーまで貫かれている。
「劇中に猫が出てくるんですが、撮影ではずいぶん振り回されました(笑)。生成AIを使えば思い通りに猫の動きも作れると思うんですけど、振り回されながら撮りましたね。発明もそうですけど、試行錯誤してきた現場の空気感がどう伝わるのか、楽しみでもあり、怖くもありますが、そのドタバタ感が面白くなれば良いなと。不完全なローカル感をあえて楽しんでほしいと思っています」
淡々とした口調ながらも、作品への深い愛情を感じさせた。さて、洋輔はアメリカで“負の感情をエネルギーに変える発明”を成功させたが、その研究過程で悪口を浴びて嫌になり帰国してきたという過去を持つ。最後にSFやコメディーの要素をあわせもつ今作が、令和のミステリードラマ界にどんなインパクトをもたらすか、と聞いてみると、笑って素朴な本音を明かした。
「そうですね。ミステリードラマのスタンダードになる予感は、1ミリもないですね(笑)。でも、回を追うごとに出会った人たちがいつのまにか町の住人になって、洋輔に仲間が増えていったりします。ドラマとしての面白さはちゃんとあるので、見てくださる方の予想を裏切ることができたら成功かなと思っています。あと、もしまた沖田監督と組む時があったら、次はかなりやり手の役もやってみたいですね。ビシッとスーツを着たエリート社長とか。(笑)」
表現者として、自分らしく道を開拓し続ける松田。次はどんな景色を見せてくれるか、楽しみでならない。
□松田龍平(まつだ・りゅうへい) 1983年5月9日生まれ、東京都出身。1999年に映画『御法度』の主演で俳優デビュー。同作で日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、数多くの映画賞を受賞した。その後も映画やドラマなどで活躍。主な出演作に、映画は、『モヒカン故郷に帰る』『舟を編む』『探偵はBARにいる』シリーズ『泣き虫しょったんの奇跡』など。ドラマでは、『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』『0.5の男』『東京サラダボウル』ほか多数。
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