報われない努力、約束されない勝利…不条理を描く『呪術廻戦』はなぜ支持され続けるのか

TVアニメ『呪術廻戦』第3期「死滅回游 前編」が、1月8日より放送開始となっている。2018年の漫画連載開始から約8年、原作は累計1億5000万部を突破し、アニメシリーズは世界的なヒットコンテンツへと成長した。新シーズンの幕開けを前に、あらためてこの作品がなぜここまで支持されてきたのか、その歩みを振り返ってみたい。

『呪術廻戦』主人公の虎杖悠仁【画像:(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会】
『呪術廻戦』主人公の虎杖悠仁【画像:(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会】

第3期「死滅回游 前編」が放送スタート

 TVアニメ『呪術廻戦』第3期「死滅回游 前編」が、1月8日より放送開始となっている。2018年の漫画連載開始から約8年、原作は累計1億5000万部を突破し、アニメシリーズは世界的なヒットコンテンツへと成長した。新シーズンの幕開けを前に、あらためてこの作品がなぜここまで支持されてきたのか、その歩みを振り返ってみたい。

 データ分析企業Parrot Analyticsの調査をもとに、「世界で最も需要の高いテレビアニメ番組」として「ギネス世界記録2025」に登録された『呪術廻戦』。長年にわたり世界的な支持を集めてきた『進撃の巨人』や『ONE PIECE』と並ぶ存在として、その評価は定着しつつある。さらに『劇場版 呪術廻戦 0』は、公開初週末3日間で約27億円という記録的な興行収入を叩き出し、最終的には全世界265億円超のヒットとなった。

 では、なぜ『呪術廻戦』は、コアなアニメファンに限らず、幅広い層を巻き込みながら、ここまで大きな支持を集めてきたのか。

 まず指摘すべきは、原作漫画の地力の高さだ。作者・芥見下々は、『BLEACH』をきっかけに漫画家を志し、公式ファンブックでは『HUNTER×HUNTER』や『新世紀エヴァンゲリオン』の影響を公言している。呪いや死を特別な出来事としてではなく、「日常の延長」として描く感覚には、『BLEACH』的な血脈が感じられる。

 一方で、その世界観を支える仕組み——呪力の扱い方や能力のルール設計には、『HUNTER×HUNTER』の念能力を思わせる合理性とゲーム性があると言えるだろう。そうしたジャンプ作品の文脈にしっかりと足場を置きながら、それらを単なる引用に終わらせず、現代的な感覚で再構築している点こそが、『呪術廻戦』の新しさなのかもしれない。

 その世界観を支えているのが、キャラクター造形だ。虎杖悠仁のまっすぐな価値観は物語の軸となり、五条悟の圧倒的な力は、戦闘そのものを純粋なエンターテインメントとして成立させている。一方で、呪術師を守るために非術師を淘汰するという理想を抱いた夏油傑は、作品に深い陰影を与えるキャラクターだ。敵味方を問わず、「何を信じ、何のために戦うのか」が自然と伝わる設計が、読者・視聴者の共感を呼んだ。

 単体でも魅力あふれるキャラが勢揃いしている作品ではあるが、キャラクター同士の関係性の設計も抜かりない。虎杖悠仁、伏黒恵、釘崎野薔薇によるコミカルな掛け合い、五条悟と夏油傑の友情と決別など、キャラクターたちのあいだには大きな連帯や断絶がある。グループごと、または関係性ごと「箱推し」したくなる愛おしさがあり、SNS上で膨大なファンアートや二次創作が生まれた背景には、こうした感情の導線が確かに存在している。

 そうした原作の魅力を、決定的に拡張したのが20年のアニメ化だ。制作を手がけたMAPPAは、ハイレベルな作画と演出で原作のダイナミズムを映像化し、五条悟vs漏瑚戦や「渋谷事変」における緊張感あふれるシーンの数々は、SNSを中心に大きな話題を呼んだ。結果として原作未読層を一気に引き込み、作品への信頼感を押し上げた。とりわけ五条悟のインパクトは凄まじく、彼を入口に『呪術廻戦』の世界へ踏み込んだ視聴者も少なくないだろう。

 同じく、アニメ化によって機能したもう一つの入口が音楽だった。『呪術廻戦』では、主題歌が作品の世界観や感情を直感的に伝える役割を担い、楽曲単体でも広く拡散された。EveやKing Gnu、キタニタツヤ、羊文学といった人気アーティストが名を連ねたことで、楽曲を通じて作品に触れる層が生まれ、結果として『呪術廻戦』というタイトルそのものの認知を広げていったのである。

「死滅回遊 前編」では呪術師同士の戦いが描かれる【画像:(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会】
「死滅回遊 前編」では呪術師同士の戦いが描かれる【画像:(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会】

近年のジャンプ作品に見られる“現実的”な展開

 こうした成功の背景には、ジャンプの漫画を原作とするアニメが長年にわたって高い支持を集めてきた土壌がある。そのうえで近年、大きく変わったのがアニメ化を取り巻く環境だ。

 19年の『鬼滅の刃』、22年の『チェンソーマン』に象徴されるように、テレビシリーズでありながら劇場版級のクオリティが求められるようになり、その水準が業界全体で共有されるようになった。さらに配信プラットフォームの普及によって、作品は放送とほぼ同時に世界へと届けられる。結果として視聴者の入口は格段に広がり、『呪術廻戦』は国内外を問わず、「世界を前提としたヒット作」として受け取られていった。

 さらに、ジャンプ原作という枠組みの中でも、近年のヒット作には共通する傾向があるように見える。それは、従来のジャンプ作品が掲げてきた明快な勝利や努力の先にある救済よりも、死や喪失、不条理を正面から描き、努力が報われない現実を躊躇なく突きつける点だ。『鬼滅の刃』では柱たちが鬼との戦いで命を落とし、『チェンソーマン』ではデンジの日常は様々な悪魔によって容易く崩壊する。『呪術廻戦』もまた、「人気キャラクターだから生き残る」という約束事が通用しない世界の中で、戦いの痛みを積み重ねていく。

 その中で『呪術廻戦』が際立つのは、不条理を“ショック”として消費させるのではなく、そこから目を逸らさずに「正解のない問い」を繰り返し提示してきた点だろう。

 誰かの言葉が物語の結論として機能するわけではなく、虎杖悠仁もまた、明確な答えを持てないまま戦い続ける。正しい選択が何か分からないまま、それでも決断しなければならない。多様性への感度が高まり、正しさが一つではない現実を生きる視聴者にとって、単純な善悪に回収されない登場人物たちの在り方は、どこか現代の肌感覚と響き合っているのではないだろうか。

 そして物語は、さらに過酷な局面へと進む。第3期「死滅回游 前編」で描かれるのは、呪術師同士の殺し合いという極限状況だ。戦いのスケールは拡大し、登場人物たちはこれまで以上に、取り返しのつかない選択を迫られていく。初回は1時間スペシャルで放送され、オープニングにはKing Gnuの新曲『AIZO』が起用される。

 これまで一貫して、わかりやすい救いや安心できる結末だけを用意してこなかった『呪術廻戦』だが、物語が進むほど選択の重さは増し、失われるものも大きくなる。それでもなお視聴者がこの作品を追い続けてきたのは、答えが用意されていないからこそ、その行方を見届ける価値があると感じさせてきたからだろう。「死滅回游 前編」では物語の行方と同時に、いまのアニメが到達している表現の最前線を見届けることになるのかもしれない。

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