「10年前は少年院」ヒロヤを変えた朝倉未来との出会い きっかけは突然のDM「一緒に練習できますか」

格闘技ファンが待ち望んでいた大みそか恒例のビッグイベント「Yogibo presents RIZIN師走の超強者祭り」(埼玉・さいたまスーパーアリーナ/ABEMA PPV ONLINE LIVEで全試合生中継)が目前に近づいてきた。RIZIN旗揚げから今年で10周年のメモリアル大会。ENCOUNTでは出場選手を直撃し、ファイターの10年前、そして今に迫る。最終回はヒロヤ(27=JAPAN TOP TEAM)。

インタビューに応じたヒロヤ【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じたヒロヤ【写真:ENCOUNT編集部】

MMAを始めた理由は“現実逃避”

 格闘技ファンが待ち望んでいた大みそか恒例のビッグイベント「Yogibo presents RIZIN師走の超強者祭り」(埼玉・さいたまスーパーアリーナ/ABEMA PPV ONLINE LIVEで全試合生中継)が目前に近づいてきた。RIZIN旗揚げから今年で10周年のメモリアル大会。ENCOUNTでは出場選手を直撃し、ファイターの10年前、そして今に迫る。最終回はヒロヤ(27=JAPAN TOP TEAM)(取材・文=浜村祐仁)

 極限状態の人間が殴り合う。逃げ場はどこにもない。血しぶきが飛び、その場で意識を喪失する。当時18歳のヒロヤはこの過酷なリングに、現実逃避の目的で足を踏み入れた。

 RIZINの歴史が始まった10年前の2015年。現在の実直な人柄からは想像もつかない、荒れた日々を過ごしていた。

「ちょうど少年院に入っていた時期ですね。僕は元々本当に不良だったんです」

 更生して、就いた仕事は建設業の現場仕事。しかし、心は満たされなかった。

「18歳くらいでフェーズが変わるじゃないですか。建設業をやっていても数十人の親方になるくらいで、目に見えている未来を歩むのが嫌だったんですよね」

 そんな時、一人の格闘家が目に留まった。同じく少年院から這い上がり、プロMMA選手として活躍する朝倉未来だった。

「当時の未来さんはまだRIZINにも出ていなくて、メディアにもチヤホヤされていなかったけどかっこいいなって。アウトサイダーの地下からプロに行って、韓国のROAD FCとかで活躍してて。その姿を見て『こういう人生もあるんだ』って思った。

 自分と境遇が似ていて、『これもしかしたら』と思って。今思えば現実逃避だったんですよね、格闘技を始めたきっかけは」

 本気でプロを目指す。SNSから朝倉にダイレクトメッセージを送った。

「朝倉選手みたいなファイトスタイルでやっていきたいんですけど、東京に行けば一緒に練習できるんですか?」

 すぐに返信が返ってきた。

「『基本、東京では出稽古メインです』みたいな感じで。『もしよかったら軽量級多いんで、(和術慧舟會)HEARTS紹介しますよ』って言われたけど、1回しっかり考えますと。僕の中では未来さんと一緒に練習できずに他のジムに行くというのは刺さらなかった。でも本当は東京に行くべきでした。一つのチャンスがここで流れたと思ってます」

 しかし、次なるチャンスはすぐに巡ってきた。20年に経営者の三崎優太氏と朝倉が共同で始めた「朝倉未来チャレンジ」だ。

人生を変えた新井丈戦の勝利【写真:山口比佐夫】
人生を変えた新井丈戦の勝利【写真:山口比佐夫】

人生を変えた新井丈戦「一番記憶に残っている瞬間」

 若手格闘家の育成を目的として20年と21年に行われたプロジェクト。応募したヒロヤは、500人近くのトライアウトをくぐり抜け、住居生活費の支援や格闘技指導を受けられる1期生のメンバー3人に選ばれた。

「これがなかったら俺もチャンスを逃したただの人になっていた。(未来さんは)自分を過去にDMを送った人とは知らなかったと思いますよ。俺、合格してから言おうと思ってたんで」

 東京で格闘技漬けの日々を過ごし、20年8月からは有力選手が集まる団体「DEEP」に参戦。しかし、最初の5戦は1勝4敗と大きく負け越した。

「もう(壁は)初戦から感じてましたね。注目はされてたんで、デビュー戦で強いやつとやって負けて。それこそ3連敗もしましたからね。簡単じゃなかったです。むしろやっててきついというか、辛いことの方が圧倒的に多いですね、僕の格闘技人生は」

 23年7月には、RIZINに初参戦したが伊藤裕樹に判定で敗戦。11月には中村優作にも敗戦し、連敗トンネルから抜け出せずにいた。しかし、その年の大みそか。当時、11連勝中で修斗史上初の2階級同時王者・新井丈との一戦がキャリアを大きく変えた。

 実績には大きく差があるマッチアップだった。「どうせ負けるだろ」「人気だから出れんのか」。試合前には、ファンから批判の声も上がっていたが、強気に攻め続けた。2Rに左ハイキックを命中させると、右フック2発でパウンドアウト。RIZIN初勝利は歴史に残るアップセットとなり、試合後にはリング上で朝倉に感謝を述べた。

「やっぱり……なんか夢のようでしたね、自分が勝った瞬間も。本当に辞めなかったからあの瞬間があったんだなって思いますね。もう本当に報われた瞬間ですね。人生で一番記憶に残っている瞬間です」

「チャンピオンベルトを巻きたい」と明かした【写真:ENCOUNT編集部】
「チャンピオンベルトを巻きたい」と明かした【写真:ENCOUNT編集部】

「チャンピオンベルトを巻きたい」と明かした

 24年からは練習の拠点を米国に移し、世界最先端の格闘技施設「UFC PI」で鍛練を積んでいる。今年5月には東京ドームで因縁のあった篠塚辰樹を圧倒。7月には、上位選手のみが出場できるフライ級GPにもノミネートされた。1回戦で決勝進出を決めているベテランの元谷友貴に判定で敗戦こそしたものの、成長を感じたと明かす。

「フルマークで久々に判定負けして。ここ2、3年ぐらいでは一番課題が見えた。試合後は気付かなかったけど時間が経ってみると、『意外とこういう部分が課題で出てきたな』っていうところもあって。自分の技術だけじゃなくて、マインドの部分であったり、戦い方の考え方に課題が見えてきた。一番成長したのはその部分ですかね」

 歩んできた道のりはエリート街道とは程遠い。しかし、常に貪欲な姿勢で人生の扉をこじ開けた。

「現実逃避でも何か行動したことによって、俺の人生は全て変わった。考えることよりも行動することでやりたいことも見つかった。やりたいことなのか、楽しいことなのかっていうのもやってみないと分からない。行動しないと何も変わらないですよね」

 大みそかの対戦相手は神龍誠。実力者との一戦は、フライ級でステップアップするには避けては通れない決戦だ。

「自分が格闘技を始めた時は、RIZINに出るのは夢のまた夢でした。でもそれはもう叶った。当時の自分では信じられないことがずっと起きているわけで、みんなの応援を当たり前と思わず、しっかり噛み締めたいです。

 格闘技を始めるのが遅かった俺でもここまで来た。あとはチャンピオンベルトを巻けたら、色々な人に希望を与えられるかなって思ってます。それがこの格闘技人生の中で絶対にやり遂げたいことですね」

 大会直前に行われたインタビュー。顔からは激しい練習の傷跡が見え、目つきはすでに鋭かった。スタートは現実逃避。しかし、積み重ねた25戦の戦績は闘いからは逃げなかった何よりの証だ。“不屈のヤングガン”はその激闘型とも言われるスタイルで、ただ前へと進み続けている。

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