UFC最先端施設で“覚醒” ヒロヤが見た本場の格闘技、痛感した日本MMAの課題「ヘッドコーチがいない」
格闘家のヒロヤ(27=JAPAN TOP TEAM)は、「Yogibo presents RIZIN師走の超強者祭り」(31日・さいたまスーパーアリーナ)で、フライ級の実力者・神龍誠(25=American Top Team)と対戦する。24年から米国修行を敢行し、現在急成長を遂げている男が、格闘技の本場で体感したMMAと自身の現在地について明かした。

最先端の施設「UFC PI」でスター選手らと米国修行
格闘家のヒロヤ(27=JAPAN TOP TEAM)は、「Yogibo presents RIZIN師走の超強者祭り」(31日・さいたまスーパーアリーナ)で、フライ級の実力者・神龍誠(25=American Top Team)と対戦する。24年から米国修行を敢行し、現在急成長を遂げている男が、格闘技の本場で体感したMMAと自身の現在地について明かした。(取材・文=浜村祐仁)
「elbow! elbow!」。セコンドの掛け声と共に振り下ろすパウンドに、大観衆の東京ドームは揺れていた。
「5、6か月で用意してきたものもあった。でも、結局あの試合で出たのは1年ぐらいずっと練習していた技でした。MMAのキャリアの差で勝った」
今年5月に開催された「RIZIN 男祭り」でヒロヤは、因縁のあった篠塚辰樹を圧倒。1Rで敵セコンドがたまらずリングにバトンを投げ込むと、1塁側ブルペンに設置されたプレス席にまで地鳴りのような歓声が伝わってきた。
11勝14敗の戦績ながら、混沌とするフライ級戦線で近年、存在感を増している。ヒロヤの急成長の最大の要因は24年から行う米国武者修行だ。背景にはキャリアへの危機感があった。
「RIZINの舞台に上がってきて、今のまんまじゃダメだっていうのは痛感した。自分にはとにかく時間がなかったんです。UFCとか世界のトップファイターと練習するのが最短で強くなる近道かなと決断しました」
厳しい入国審査も、MMAファイター特有の潰れた耳を見せると簡単にパスできた。
「選手はラスベガスとかだと結構融通効きますよね。やっぱりメジャースポーツなんで海外はお金がかけれるじゃないですか。格闘技に対してもすごくお金が動くんで、そこが日本との差かなとは思いますね」
練習の拠点は、ネバダ州のUFC本社に併設された「UFC PI」と呼ばれる世界最先端のトレーニング施設。スター選手たちと日常的に過ごす環境に身を置き、鍛錬を積んだ。
「アルジャメイン・スターリング(元UFCバンタム級王者)、メラブ・ドバリシビリ(前UFCバンタム級王者)、ブランドン・モレノ(元UFCフライ級王者)とか、トップランカーの人たちですね。
彼らからは全てを学ぶというか。『ここはこう動くのか。ここではこういう感じで打撃をして、レスリングをするのか』みたいな。練習量だったり私生活みたいな部分も再確認しています」
上海やメキシコシティにも開設されている施設では、練習の量と質でパフォーマンスを最大化させている。
「2部練か3部練で、練習量とか基本的な設備は日本に置いてあるものとそんなに変わらないです。ただ、(米国には)プログラムのメニューをしっかり組んでくれる人がいる。このセットをやれば、このくらい持久力が上がって、自分の出力になるみたいなのを上手く落とし込んでくれる人が日本にはまだいない気がします」

日本MMAの課題を痛感「ヘッドコーチがいない」
海を渡って掴んだ覚醒のチャンス。しかし、慣れない異文化での生活は苦労も多かった。
「全てが初めてなんで、ストレスは多かった。言葉の壁もそうですし、初めて来たときは教えてもらったことを全然理解できていなかったり。歯痒い部分はあったなって思いますね」
そんな生活の支えになっていたのが、かつてJTTでトレーナーを務めていたビリー・ビゲロウコーチだった。
「(相性が合うのは)自分と動きのスタイルが似ているからだと思いますね。そこが一番かなと。後はやっぱり信頼関係ですね。(お互いが信頼しあってる)それですね」
本場で実感した最先端のMMA。現在の日本MMAの課題も徐々に見えてきた。
「(日本には)MMA全体を管理するヘッドコーチがいない。打撃のコーチに『レスリングではこうなんです』と話しても、『いやそこは知らん』ってなってしまう。でも僕たちはチームじゃないですか。例えば、ATTだったら堀口さんのヘッドコーチにマイク・ブラウンがいて、全体を分析して『この練習をしよう』ってやってくれてると思うんですよ。変に自分で考えなくていいんで、無駄がないですよね」
「日本だと(コーチ同士の衝突も)あると思います。打撃とレスリングのコーチ同士がしっかりとミーティングをしないといけない。後は、自分で課題を探さないといけないというのもある。伸びる要素はどこにでもあるんで、『僕にとって一番はどこなの』っていうのは、ヘッドコーチがいれば考えなくて済むというのはあると思います」

対戦相手は神龍誠「泥仕合になる」と覚悟
今月4日に大みそか大会への参戦が正式発表。対戦相手は神龍誠に決定した。“日本のラフ・ダイヤモンド”の異名を取る逸材も、近年は伸び悩み、米国のATTへの移籍が発表されたばかりだ。
「リスペクトはすごくしています。あっちは圧倒的な差をつけて勝ちたいと思ってるでしょう。でもこっちも軽い気持ちで来てるわけじゃないので。簡単にはいかない。ドロドロの泥仕合になって最後は削り合いになるんじゃないかなと思います」
日本の格闘技にしかない良い部分は自覚している。しかし、ヒロヤを大きく変えたのは海外の環境だった。最後に、くすぶっている同年代に伝えたいことを聞いた。
「(環境を変えるのは)海外じゃなくても、東京でも大阪でもいいと思う。人が集まるところに行くのは経験として必要かなと思いますね。後は孤独を味わうこと。1人になると人に感謝するし、今までしてきてもらった事が当たり前じゃなかったことに気づける。そこで新しい人に出会えると、『孤独だと思ってたけど、こうやって輪が広がっていくんだ』って感じられる。そうやって色んな経験をしていけば、人生生きるのは楽になるんじゃないかなって思いますね」
日本から約9000キロ離れた異国で手に入れたのは、単純な格闘技の技術だけではない。広がった新たな人生観を武器に、フライ級の上位戦線へ殴り込みをかける。
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