藤原さくら、想定外だらけの10年間 夢をかなえるために見つけた“無理をしない”生き方

シンガー・ソングライターの藤原さくらが、2025年にデビュー10周年を迎えた。歌手のみならず、俳優など多岐にわたった活動を続けてきたが、壁にぶつかり、悩み、乗り越えた10年間があったからこそ“今”というステージに立つことができている。30歳を目前にした藤原の現在の心境を聞いた。

インタビューに応じた藤原さくら【写真:増田美咲】
インタビューに応じた藤原さくら【写真:増田美咲】

26年2月に6枚目のアルバムリリースと初の武道館公演を控える

 シンガー・ソングライターの藤原さくらが、2025年にデビュー10周年を迎えた。歌手のみならず、俳優など多岐にわたった活動を続けてきたが、壁にぶつかり、悩み、乗り越えた10年間があったからこそ“今”というステージに立つことができている。30歳を目前にした藤原の現在の心境を聞いた。(取材・文=中村彰洋)

 26年2月23日には初の日本武道館公演『藤原さくら 10th Anniversary 武道館大音楽会』の開催を控えている。着実に前へと進んでいるが、10周年という節目のタイミングでの開催に「感慨深いですね」としみじみと口にする。

「私自身もポール・マッカートニーやノラ・ジョーンズのライブを観に行ったことがありますし、誰しもが1度はワンマンをやってみたいと思う場所だと思います。『本当にできるのかな』ということに挑戦し続けてきたので、目指すには気持ちのいい山だなと。どんな景色が見られるのか、今からすごく楽しみです」

 しかし、マネジャーから武道館公演の提案をもらった際には、二つ返事で回答することはできなかったという。24年には耳と発声に関わる不調から、ライブ活動を休止した。

「昨年はライブ活動自体をお休みしていたので、ライブの規模感どうこうというよりも、ワンマンを行うことに対しての自信を喪失していました。ズルズルと決断を先延ばしにしていたのですが、少しずつライブ活動を再開していく中で、気持ちに整理がつき、やってみようと思えるようになりました。8月に行った久々のワンマンの最後に、武道館公演の開催を発表したのですが、皆さんがすごく喜んでくれて、決めて良かったと思えました」

 発表時のコメントでは「わたしの精神的ビキニを披露する時が来ました」と独特の表現で心境を伝えていたが、「悩んできた時期も長かったからこそ、今まで抱えていたものを全部剥ぎ取って、精神的に薄着に衣替えした状態で臨めたらいいなと考えています」と意図を明かす。

26年2月には初の武道館公演に臨む【写真:増田美咲】
26年2月には初の武道館公演に臨む【写真:増田美咲】

背中を押したサルサダンス教室の先生からの言葉

 26年2月18日には6枚目となるアルバム『uku』をリリースするが、前作『wood mood』に引き続き、ドラマーの石若駿がサウンドプロデュースを担当。今作のテーマについて「もっと楽に、ただ楽しい方へ」と掲げ、サルサやチャチャチャのリズムなどを取り入れた。

 サルサダンスの教室にも通っていた中で出会った、キューバ人の先生からもらった「過去に気を取られないで。もう次のステップは始まってる」という言葉が悩んでいた藤原の背中を押した。

「今までは、理想の自分を見せたいと考えすぎていましたが、ただ目の前の景色と一体化して、未来や過去といった余計な感情も全部排除して、“今、そのままの自分でそこに在れる”状態になることが大切。先ほどの精神的薄着という部分と全部つながったんです」

 ここ数年は、大きな出来事が積み重なり、「10年の活動で考えて見ても転機はこの2年です」と語るほどだ。

「体調をきっかけに気付けたことがとても多いですね。今までやってきたことは、もちろん全部やってよかったと思えることばかりですが、『自分が本当はどういう風に生きたいのか』という根本的な部分とちゃんと向き合うきっかけになりました。10周年を迎える前にそこに気付けたことは大きかったです」

 また、そういったタイミングでの人との出会いも強く藤原の思考を変化させていった。

「周りの人の影響もとても大きいです。一緒に活動するようになった石若さんをはじめとしたジャズの方々のすごさに圧倒されて、自分の力が足りていないと落ち込んだりもしたくらいですが、その分本当に刺激をもらえました」

『落ち込んでる』と言ったら心配されそうですが、私的には落ち込んでも良いと思っています。誰しもに波なんて絶対にあるものですし。一緒に演奏した方々が、純粋な子どものように音楽とただ向き合っている姿。うそがないようなプレイをしていて、『音楽ってこういうことだったのかも』と自分の中で見えてきました。本当に巡り合わせだなと思いますし、このタイミングで出会うべくして出会ったんだろうなと思っています」

12月30日には30歳の誕生日を迎える【写真:増田美咲】
12月30日には30歳の誕生日を迎える【写真:増田美咲】

目前に迫った節目の30歳「自分の変化がすごく楽しみ」

 10周年の記念にさまざまな企画を発信しているが、過去の自分と向き合う機会も増えた。「全然違う人間になっている気がします」と笑う。

「図らずも自分が昔作った曲に、今すごい励まされたりすることもあるんです。今さら『これってそういう意味だったんだ』と思えたりして、不思議だなって。日記を読み返している感覚に近いのかもしれません。その時にしか書けなかった歌詞、悩み、そういったものがちゃんと残っていて、それを振り返れるのは、幸福なことですよね」

 音楽のみならず、演技や執筆など多岐にわたったジャンルでの活躍を続けているが、デビュー当時にぼんやりと描いていた未来に近づいた手応えも感じている。

「いろんなことに興味がある人間なので、絵を描きたいし、文章も書きたい、音楽もしたい、と思っていました。気付いたらいろいろな活動をしているので、思い描いていたようにはなっているのかな。自分が好きな音楽は洋楽が多いので、次のフェーズとして、海外でレコーディングしたり、海外アーティストの方と活動やライブをやっていきたいです」

 12月30日には30歳の誕生日を迎えるが、「すごく楽しみです」と口にする。

「女性の場合は、結婚や出産などいろいろなことを考える節目になってくると思いますが、意識するのはそれぐらいです。頭でいくら考えてもどうしようもなかったりするので、流れに身を任せます。考えてはいるけど、そんなに考えてはいないって感じです。

 あとは、歳を重ねたからこそ、同じものを見ても、新しい見方ができるようになっていると思います。トム・ハンクスが大好きで、『キャスト・アウェイ』を観て、昔は爆笑していたんですけど、大人になってから観たら、感情移入で号泣しちゃって。そういう時に、面白いなぁ~と感じるので、自分の変化がすごく楽しみです」

 悩みに悩んでたどりついた「無理をしない」という一つの答えだった。

「私の夢は長く音楽を続けることなんです。ただ『音楽を長く続けなきゃいけない』という考え方だと“have to”になってしまって、しんどい。ただずっと好きなものを好きなままであり続けるためには、自分が楽な状態で続けることがベストだなという考えてになりました」

「この10年間は想定外のことだらけでしたが、それが面白みでもあると思っています」。捉え方一つで物事の見え方はガラリと変わる。10周年の終着地点として立つ武道館のステージ。その景色が藤原の感情をどのように動かすのだろうか。

□藤原さくら(ふじわら・さくら)1995年12月30日、福岡県出身。シンガー・ソングライター。活動はラジオDJ、執筆業、ファッションなど多岐にわたる。俳優としては、2026年1月期放送のTBS系ドラマ『未来のムスコ』に出演。26年2月18日には6枚目となるアルバム『uku』をリリース。2月23日には初の日本武道館公演『藤原さくら 10th Anniversary 武道館大音楽会』を開催する。

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