「私で終わり。私の車だから」シングルマザーが選んだキャンディーレッドの相棒 壮絶な半生と55歳の決断
昨年11月に行われたクルマ女子の祭典「ガールズカーコレクション」でグランプリに輝いたのは、ANGELさんが乗る1991年式キャデラック・デビルだ。キャンディーレッドの車体に赤いポンパドール。まるで映画のワンシーンのような姿だが、その裏には、女手ひとつで3人の娘を育て上げた壮絶な半生がある。

55歳の誕生日、自分へのご褒美
昨年11月に行われたクルマ女子の祭典「ガールズカーコレクション」でグランプリに輝いたのは、ANGELさんが乗る1991年式キャデラック・デビルだ。キャンディーレッドの車体に赤いポンパドール。まるで映画のワンシーンのような姿だが、その裏には、女手ひとつで3人の娘を育て上げた壮絶な半生がある。
「シングルマザーで3人の子を育て上げたので、55歳の誕生日に自分へのご褒美プレゼントです」
愛車はオクラホマで見つけて2023年に購入した。現車を見ぬまま日本からネットで探し当て、ロサンゼルスの知人に仲介を依頼。船便で日本へ運び、輸送費だけで40万円ほどかかった。総額は400万円ほどだった。
「アメ車が大好きなんです。東京の下町に住んでいるので、ガレージに入るギリギリがこの大きさ。これなら買い物にも旅行にも行けるし、私の生活にちょうどいい」
ちなみに乗り換え前の愛車も1993年式キャデラック・フリートウッドだった。アメ車を見ると、ざわざわと血がうずく。
エンブレムはとがり、ボディーは角ばった最終期のデザイン。本場の米国仕様を持ち込み、「日本でも珍しいはず」と笑う。
出会った瞬間に、一目ぼれした。
「かっこいい。もうただかっこいい。いかつい顔が好きです」
車体だけでなく、タイヤにもこだわった。アメリカンクラシックのホワイトリボンタイヤは国内に同じ幅がなく、新品をトランクに積んで輸送した。
「何ミリ幅にするかずっとサイトで見比べて。この車だったら、このサイズだなって自分でシミュレーションして」
海を渡って届いた車は期待以上の“当たり”だった。
「アメリカのガレージ保管だったんでしょうね。本当に上物で。塗装も内装の革もオリジナルのまま。完全にバクチでした」
日本に来てから排ガス検査に苦しみながらも、100万円かけて徹底的に整備した。
“裏社会”に染まった義弟 そして夫との別れ
ANGELさんの人生は波瀾万丈だ。20代で結婚し、2人の娘が生まれ、何不自由ない生活を送っていた。しかし30歳を過ぎたころ、家族に異変が起きる。
夫の弟が突如、裏社会の人間になった。背中には龍の入れ墨。
「身内にだけは嫌だった。私を取るか、弟を取るか選んでほしいと夫に言いました」
上の子が小学校に上がる頃、「さようなら」と別れを告げた。実家の協力を得て二世帯に。そこから昼夜を問わず働く日々が始まる。
昼はファミリーマートとGAP、夜は飲み屋。年子の娘たちの育児に追われ、睡眠時間も削った。
35歳で三女が生まれたが、相手とは暮らさなかった。
「子どもに“パパ”という余計なものはいらないと思ったので」
「一番つらかったことは?」と聞くと、彼女は首を振った。
「つらいことなんてないです。全部自分で選んだ人生だったので」
酸いも甘いも経験してきた。「1人で枕を濡らして泣いたこともありますよ」。だが彼女は前を向く。
「つらいことの後には、絶対いいことがある。それが分かってたから」
実家の父は支えてくれた。元夫も養育費を欠かさず送った。必死で働き、“その辺のお友達より稼いでいた”と振り返る。
40歳頃から外国車専門の整備工場を元彼と始め、約15年間続けた。55歳は三女が成人した節目の年。成人式・卒業式を見届け、ようやく「子育てが終わった」。
「さあこれから私の人生を生きるぞと思って、1年間遊びました。この車で旅行に行って、会いたい人に会って、行きたいところに行って」
左ハンドルのキャデラックを自在に操り、“私だけの時間”を取り戻していった。両足にタトゥーも入れた。
『マツコ会議』に出演、家族の形を語った過去
ANGELさんはちょっとした有名人でもある。テレビ番組『マツコ会議』に複数回出演。自宅にマツコ・デラックスを招き、一緒に鍋を食べたこともあった。NHK番組では「家族の形」について語った。籍は入れていなくても、家族は家族。“今の時代の家族像”を体現していた。
今はベンガル猫4匹と暮らし、自宅でリラクゼーションの仕事をしている。友人に誘われたガールズカーコレクションには初参加。「久しぶりにシャバに出たんです」と笑った。
ランウェイに現れた彼女を、若い女性オーナーたちは見惚れた。「かっこいい……」。圧倒的な存在感でグランプリに輝いた。
娘たちはこの車に乗らない。
「左ハンドル怖い。アルファードがいいんだって。だからもう少し乗ったら廃車にします」
突然の表明。理由はもう一つあった。
「ローライダーにはしてほしくないんです。嫌なの。ノーマルが美しいから」
せっかくアメリカから持ってきた愛車を、“自分の代で終わらせる”と決めている。
「そこがまたかっこいいじゃん。私で終わり。私の車だから」
エルビス・プレスリーを敬愛。ロックンロールな生き方はブレない。
「私は90まで生きるんで、その逆算で生きないと。お金の計算もね」
強烈な個性と美学を貫くシングルマザー。いかつい愛車との日々は、あと数年で幕を閉じる。
あなたの“気になる”を教えてください