映画オーディションの勘違いが導いた運命 さくらあやがプロレスラーになるまでの軌跡「話が全くかみ合わない」

ちょっとした勘違いから、大きく運命が動き出した選手がいる。スターダムの最強タッグを決める『第15回 ゴッデス・オブ・スターダム ~タッグリーグ戦~』において、見事優勝を果たした“さくらら”のさくらあやだ。パートナーであり同期(2023年デビュー)の玖麗さやかとのタッグで、若手主体のブランド・NEW BLOODのタッグ王座も保持しているが、本選のタッグ戦線でもトップチームに躍り出た。しかし、そのさくらがレスラーになるまでは平坦な道のりではなかった。前編は、さくらがスターダムのオーディションを受けるまでのお話を。

プロレスラーになるまでの紆余曲折を語ったさくらあや【写真:橋場了吾】
プロレスラーになるまでの紆余曲折を語ったさくらあや【写真:橋場了吾】

“ミスiD”という中野たむとの共通点

 ちょっとした勘違いから、大きく運命が動き出した選手がいる。スターダムの最強タッグを決める『第15回 ゴッデス・オブ・スターダム ~タッグリーグ戦~』において、見事優勝を果たした“さくらら”のさくらあやだ。パートナーであり同期(2023年デビュー)の玖麗さやかとのタッグで、若手主体のブランド・NEW BLOODのタッグ王座も保持しているが、本選のタッグ戦線でもトップチームに躍り出た。しかし、そのさくらがレスラーになるまでは平坦な道のりではなかった。前編は、さくらがスターダムのオーディションを受けるまでのお話を。(取材・文=橋場了吾)

 さくらあやは、2020年までプロレスとは無縁の生活を送っていた。当時のさくらは、JAE(ジャパンアクションエンタープライズ)の養成所に通いながら、東京でポートレートモデルの仕事をしていた。

「よく撮影していただいていたカメラマンさんのアシスタントのお手伝いで、とある団体のフライヤー撮影に行ったときに招待券をいただいたんです。それが初めてのプロレス観戦だったんですけど、そのときは、受け身の技術や音が凄いな、しっかり練習されているなと思いました。それと売店に列ができていたことにびっくりしましたね。私は少しだけ地下アイドルをやらせてもらったことがあるんですけど……半年で運営が飛んでしまったんですが(苦笑)、見に来てくれても物販まではなかなか来てもらえなくて。プロレスって、試合を見てポートレートを買ってもらってお話しするまでがセットの文化なんだと、ものすごく衝撃を受けて、その文化がいいなと思いました」

 上京する前、さくらは大阪で3年ほど芸能事務所が運営しているカフェバーで働くことになるのだが、ここで事件が起こる。

「住み込みみたいな感じで、オーディションが入ったら優先して休んでいいよ、みたいなお店だったんですが、全然案件は来ないですし、私が入ってすぐに先輩が全員辞めちゃって、私がシフト作って面接して在庫発注してみたいな……責任感が強いので(笑)。そうしたら、めっちゃ売り上げも上がって、『コイツにお店任せておけば大丈夫』みたいになったんです。でもある日、ハーフの可愛い現役高校生の子がカフェの手伝いに来るようになって、その子はたくさん(芸能の)仕事をしていたんですよ。それで『私にはないんですか?』って聞いたら、結構ぼろくそに言われてしまって。運営的にはここでずっと働いてほしかったんでしょうけど、私はオーディションをもっと受けたかったですし、日常生活も監視されているような感じだったので、ここで目が覚めて、カフェバーを辞めて1年くらい大阪で舞台に出て、JAEに入るために上京しました」

 その後、さくらは2020年に“ミスiD”に選ばれた。そのミスiDに2019年に選ばれたのが、現在さくらが所属しているコズミック・エンジェルスのリーダーだった中野たむだった。

「(大阪での出来事を)包み隠さず書いた履歴書が、自己PRのような形でホームページに載っちゃいました(苦笑)。ミスiDになったからといって自分の中で何かが変わったわけではないんですけど、スターダムの練習生になってから初めてたむさんにお会いしたときにミスiDの話になって、コズエンの話も……スターダムに来てそういう繋がりができたことは、ミスiDを受けていてよかったなと思いました」

空手で培った強烈なキックは大きな武器になっている【写真:(C)スターダム】
空手で培った強烈なキックは大きな武器になっている【写真:(C)スターダム】

映画のオーディションのつもりがスターダムの練習生に合格……大パニックに

 さくらは2022年に映画『家出レスラー』のオーディションに応募した、つもりだったのだが、さくらが間違ったリンクを踏んでしまい、スターダムの新人オーディションを受け練習生になるという運命のいたずらが起こった。

「当時は、社会人インターンという形で10時から18時とかで働いていたんです。JAEの養成所を卒業してアクション女優の道に進みたかったんですけど、スーツアクターの部署に配属されることになったので、別の事務所を探そうと思って。でも、なかなか事務所が決まらないまま25歳が近づいてきて。それで就職も視野に入れようと思ってインターンを始めたんです。仕事はIT系のカスタマーサクセスだったんですけど、マニュアルやリストを作っていました。そのときに、企業がSNSで何を求めているかを知ることができたので、今のSNSの活用でも役立っていますね。

 でも当時は、何も為せないまま終わるのはちょっと……と思っていたので、手当り次第オーディションに応募していて、私は『家出レスラー』のオーディションのリンクを見たつもりだったんですが、スターダムの方に応募していました(笑)。しかも『NEW BLOOD』の試合が行われる品川インターシティホールで面接だったんですけど、リングが組まれていて『プロレスが題材の映画だから、リングもあるんだ』と思っていたくらい、スターダムに応募したことに気づいていませんでした」

 2022年8月26日、スターダムのオーディションに参加していたのは、さくらあやとHANAKOだった。空手の心得がありJAE出身のさくらと、学生プロレスでは名を知られていたHANAKOの二人に対し、その場で合格が通知された。

「私は何を勘違いしていたのか、映画にも出演して、プロレスのデビューを目指す企画だと思って……でもオーディションから試合見学までの空き時間でHANAKOとカフェで話していると、話がまったくかみ合わないんです(笑)。『映画の話、全然出なかったね』という話をしたら、『いやいや、練習生のオーディションだよ』と。そこで私は大パニックですよ(笑)。でもHANAKOはプロレスに詳しかったので、色々なことを教えてくれて。この出会いがなかったら、私はプロレスラーになっていなかったと思いますね。

 あとはその日の『NEW BLOOD4』に出ていた選手が、ほとんど年下だったことに衝撃を受けたんです。私は25歳まで何も為せぬままここにいるのに、この子たちは10代でこんな命を削って戦っているんだと。アクション女優を目指していたときもアクロバットや受け身は怖かったので、あんなに受け身をたくさん取っていたことにもびっくりしました」

『こんなことは私にはできない、そもそも受けようと思っていたオーディションではないし』……さくらは葛藤した。しかし『やってみてダメだったら、そのときに考えよう』と腹を括った。

「JAEの養成所では、1年間たくさん運動をしてきたんですが、インターンになってからももっと運動したいなという思いはずっと持っていました。(2022年の)8月にオーディションに合格して、10月に練習生になったんですが、最初の3か月は基礎練習だけでそのあとに技術練習だったので、実質プロレスの練習は3か月くらいでデビュー(2023年3月25日)したんですが、アクションで習った感覚を大切にしてデビュー戦に臨みました」

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