女性への苛烈な誹謗中傷…立花孝志氏が名誉毀損で敗訴も慰謝料「11万円」の不条理 元テレ朝法務部長が解説

NHKから国民を守る党の立花孝志党首が敗訴した。YouTubeで性的な虚偽情報を拡散し名誉を傷つけられたとして、みんなでつくる党の大津綾香代表が立花氏とYouTuberに計1100万円の損害賠償を求めた裁判で今月19日、東京地裁は立花氏らに損害賠償を命じる判決を出した。しかし、認められた賠償金額は請求に遠く及ばず、大津氏側弁護士は控訴の意向を明らかにした。この判決に、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「裁判所はSNS被害と向き合うべきだ」と指摘する。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

西脇亨輔弁護士「SNSの世界を日本司法が直視すべき時」

 NHKから国民を守る党の立花孝志党首が敗訴した。YouTubeで性的な虚偽情報を拡散し名誉を傷つけられたとして、みんなでつくる党の大津綾香代表が立花氏とYouTuberに計1100万円の損害賠償を求めた裁判で今月19日、東京地裁は立花氏らに損害賠償を命じる判決を出した。しかし、認められた賠償金額は請求に遠く及ばず、大津氏側弁護士は控訴の意向を明らかにした。この判決に、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「裁判所はSNS被害と向き合うべきだ」と指摘する。

 安すぎる。この裁判の現状は早く変えなくてはならない。

 立花氏とYouTuberが大津氏について性的なデマを拡散した責任を問われた民事裁判の判決が出た。この事件で問題となったのは、立花氏が党の代表権などをめぐって攻撃していた大津氏への苛烈な誹謗中傷だった。立花氏はYouTubeで、大津氏について「(自分が)党首になったら私の『ハメ撮り動画』とかも出回るんですかね」と発言したなどと述べ、さらにこう断じた。

「あいつ、職業パンパンだもん」

 「パンパン」とは戦後間もない日本で主に外国兵を相手にした娼婦を指す言葉。大津氏の人格を大きく傷つける発言であることは言うまでもない。さらに立花氏は記者会見で大津氏について「『あっちこっちの男とエッチしてます』って、俺に言ってきてんだから」などと述べたという。

 これに対して判決は、立花氏側の言動は真実性などを欠く「不法行為」と断じた。ここまでは立花氏の発信内容からすれば当然だろうが、問題はその先だ。この苛烈な中傷の慰謝料として大津氏側は1100万円を請求していたが、東京地裁は以下のような判断を示したのだ。

 YouTube動画について11万円、記者会見などの言動について22万円、合計33万円。立花氏の発言をYouTubeで拡散したYouTuberが負わされた責任は、立花氏と連帯して11万円を支払うことだけだった。

 日本の裁判で下される慰謝料は安い。海外では元プロレスラーのハルク・ホーガン氏の性的動画を公開したゴシップサイトに約150億円の賠償が命じられるなど、日本とは慰謝料の桁が違う。これは日本では心の傷に対する評価が非常に「安い」こと、そして、「実際に生じた損害分しか賠償させない」という原則をとっているため、加害行為が悪意のないミスでも非道な人格攻撃でも、賠償額は同じになりうることが原因だ。

 しかし、こうした日本の裁判は、数十万円の慰謝料を『経費』として織り込めばどんな誹謗中傷もできる国を生もうとしている。今回被告となったYouTuberは動画を収益化していたとされ、誹謗中傷で注目を集めて広告収入を得ていた可能性がある。その広告収入が慰謝料11万円よりも多かったら、誹謗中傷は「黒字」だ。

 一方、被害者側はどうか。裁判を弁護士に依頼すれば数十万円単位で弁護士費用が発生する。現在の慰謝料の相場では勝訴しても多くの場合「被害者の赤字」だろう。そうなると訴訟資金を持たざる者はどんなに罵られても泣き寝入りするしかない。このままでは日本は「誹謗中傷天国」になってしまう。

 かつて日本の裁判所も慰謝料の安さを改革しようとしたことがあった。2002年に大阪地方裁判所の研究会が論文を発表し、次のような考えを示したのだ。

「名誉毀損の程度がはなはだしく、被害者がいわば社会的存在を否定されたにも等しいような精神的な苦痛をこうむったような事情が認められる場合には、その慰謝料額が1000万円程度になることも当然考えられるところである」

「1000万円」でも高くない理由

 また、2001年にはプロ野球・清原和博選手に対する名誉毀損に1000万円の賠償を命じる地裁判決が出されるなど、慰謝料高額化の流れもあった。だが、その後はなぜか尻すぼみになった。

 しかし、時代は決定的に変わった。SNSという武器を誰もが手にし、どんな虚偽発信も注目されれば利益が上がる。そんな世の中で誹謗中傷に十分な賠償金や刑罰が課されなければ、日本が「誹謗中傷天国」になるのは当然だ。特に、虚偽と分かっていながら相手をおとしめる「現実的な悪意」がある誹謗中傷は、報道などの正当な言論からかけ離れている。こうした中傷を抑止するための賠償金として「1000万円」は決して高くないのではないか。

 法律上、正当な表現の自由はあっても誹謗中傷の自由はないはずだ。人格攻撃が飛び交うSNSの世界を日本の司法が直視すべき時が来ていると思う。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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