UFC復帰の堀口恭司、天心の初黒星に「1回負けたくらいで」 試合後の表情に着目「やりきったって顔をしてた」
UFC再挑戦の初戦(現地時間11月22日、カタール)を1本勝ちした堀口恭司に話を聞くにあたり、堀口自身の試合以外に聞いてみたいことがいくつかあった。というのは、それによって自然と堀口の人生観や格闘技観が浮き彫りにされると考えたからだ。

初黒星の天心宛に送った「こっからでしょ」の真意
UFC再挑戦の初戦(現地時間11月22日、カタール)を1本勝ちした堀口恭司に話を聞くにあたり、堀口自身の試合以外に聞いてみたいことがいくつかあった。というのは、それによって自然と堀口の人生観や格闘技観が浮き彫りにされると考えたからだ。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
まず堀口に対し、去る11月24日、トヨタアリーナ東京で行われた、井上拓真VS那須川天心によるプロボクシングWBC世界バンタム級王座決定戦についての見解を聞いた。この試合は天心にとっては初の世界戦だったが、結果的には12R戦いきって判定負け。それは天心の格闘技キャリアでの初黒星でもあった。
天心が自身の敗北についての思いをXで公にしたことを受け、堀口は「こっからでしょ」のひと言をポストしている。堀口にこの話について訊(たず)ねると、「そんな1回負けたくらいでね。それは天心くんも思ってますよ。別に1回くらいはいいよって。本人も別にやりきったって顔をしていたじゃないですか。まだ若いし」と話した。
今回の世界戦で井上は、天心を倒そうというよりも、どんなことをしても白星を取りに来ていたように見えたが、これに関しては、「天心くんもそれをやろうとして負けただけですよ。相手に(試合を)つくられたっていう。それだけですよ。それのやり合いが試合ですよ。その答えが負けたっていうだけですよ」と話し、「何を言おうが(天心が)負けですよ」と続けた。
この言葉は勝負師として格闘技の世界を生きてきた堀口による、含蓄のある物言いだった。
以下、堀口とのやりとりを記載する。
――堀口恭司がUFCに、那須川天心がボクシングにと、リングは変わっても注目される選手は変わらないですね。
「でも自分の場合はRIZINっていう舞台があったから注目してもらえるようになったっていう、それは感謝していますよね。結果的にですけど。もちろん具体的に数字では見てないけど、自分の今回の試合(現地時間11月22日、カタールでのタギル・ウランベコフ戦)は、たぶん前よりは日本の方も、自分の試合に注目してくれたとは思います」
――MLBの大谷翔平も日本ハムファイターズで活躍してから向こうに挑戦したから、日本人にはなじみがある。
「自分も、遠い回りしながら……っていう言い方になっちゃいますけど、これが最短ルートだったんじゃないかなと思います」

「格闘王に俺はなる!」
――堀口選手の場合はRIZINと関わった9年間に、リング上の強さに加え、総合的な付加価値と、日本人からの思い入れが倍増したのかなと。
「そうッスね」
――RIZINとベラトールの二冠王に、RIZINでは二階級を制覇したと思ったら、その流れで結婚もして。
「そうですよ。RIZINと関わっていなかったら結婚してないと思いますね。そういうキャラじゃないですからね。ただ、奥さんの場合は手に入れたっていうよりも仲間を増やした感じですね。『ワンピース』みたいな」
――海賊王ならぬ、「格闘王に俺はなる!」的な。
「っていうイメージです。その輪を広げて行っているような。どんどん知らない間に輪が大きくなっていますね」
――堀口選手が所属するATT(アメリカン・トップ・チーム)にしても、最近は日本人選手が増えてきていますね。
「単純に強くなりたいと思ったら当たり前のことをしているだけなんですけど、金銭面を考えたら(米国暮らしは)相当かかりますから。ATTはフロリダにありますけど、とくにフロリダなんて物価がめちゃ高いですから」
――そんなに高いんですか。
「外食したら一人4000円はかかりますよ。ランチでも一人20ドル(3000以上)はかかるし」
――それはなかなか厳しいですね。ちなみに最近はUFCの日本大会開催の噂が流れています。
「まだ、正式に話は来ていないですけど、やるならうれしい」
――WWEは年に一度は日本公演があって、日本人選手にとってはかなり気分転換になっていると聞きます。
「そうでしょうね。日本は食事もうまいですからね。そこはホントそう思います(うれしそうに)」
――そういえば今回の試合(現地時間11月22日、カタールでのタギル・ウランベコフ戦)では抜き打ちのドーピングチェックはあったのでしょうか。
「抜き打ちはトレーニングキャンプの時にいきなり来て、おしっこを取られましたね。(そういう情報も表に)出ているんじゃないですかね」
(※UFCのサイト上にそれに関する記載がある。詳細は明かされていないものの、堀口は2025年には5回の検査を受けていることが確認できる)
【取材後記】
堀口恭司はこれまで、すべてをポジティブに捉えていく生き方を取ってきた。それは、いわゆるポジティブ思考や前向きに考える、という範囲を遥かに超えた、スーパーポジティブとでもいえばよいのだろうか。
例えば、2015年4月に初めてUFC王座に挑戦し、当時のフライ級王者であるデメトリアス・ジョンソンに敗れた際には「このまま日本で練習していても勝てない」と、誰よりも早くATTに修行の場を選んで渡米した。当初、周囲は反対したものの、堀口は自身の判断を信じて米国行きの意志を貫いた。
そうかと思えば、2019年10月に練習中に前十字靭帯が切れた際には「よし! これで休める」と考え方をシフトさせている。そうやって、すべての起きた事象を次なる場面への布石として転がしていく。こうなると、堀口にとって失敗は成功するための材料でしかなく、挫折は栄光へのエサでしかない。
さて、堀口恭司のこの後はどう展開されていくのか。当面はすべてをUFC王座を手に入れるために費やされるのは間違いないが、たとえその道が困難だったとしても、9年かかってUFC再挑戦を実現させたように、軌道修正しながら自身の進むべき方向を模索していくに違いない。最大限の希望を込めて言えば、堀口の腰にUFCのベルトが巻かれる日までのカウントダウンは、すでにはじまっている。
(一部敬称略)
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