『ターミネーター』を「今作るのは難しい」 J・キャメロン監督、新作であえて入れた「真逆」の描写

元海兵隊員のジェイク・サリー(サム・ワーシントン)が、神秘の星パンドラの先住民ナヴィとなり、侵略者である人類に立ち向かう『アバター』シリーズ。その最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』(公開中)は3時間17分という壮大なスケールだ。ジェームズ・キャメロン監督は「本作は単なる続きものではなく、完結編であることを強調したい」と力を込めた。

インタビューに応じたジェームズ・キャメロン監督【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じたジェームズ・キャメロン監督【写真:ENCOUNT編集部】

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』が公開中

 元海兵隊員のジェイク・サリー(サム・ワーシントン)が、神秘の星パンドラの先住民ナヴィとなり、侵略者である人類に立ち向かう『アバター』シリーズ。その最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』(公開中)は3時間17分という壮大なスケールだ。ジェームズ・キャメロン監督は「本作は単なる続きものではなく、完結編であることを強調したい」と力を込めた。(取材・文=平辻哲也)

 タイトルにある「火と灰」が意味する現代社会の闇と、自身の代表作『ターミネーター2』とは真逆のアプローチをとったという作家としての挑戦だった。

 本作でジェイクたちの前に立ちはだかるのは、火山地帯に住む「アッシュ・ピープル(灰の民)」だ。彼らはナヴィでありながら、森や海の民とは異なり、攻撃的で荒廃した姿で描かれる。

「火は暴力と憎しみを、灰は悲しみを象徴しています。彼らが体に灰を塗っているのは、深い悲しみを抱え、『自分たちは死んだ』と感じているからです。しかし彼らは、その悲しみを武器化し、憎しみに変えてしまった」

 被害者が加害者へ、悲しみが憎悪へ。監督が語るこの構造は、現在の世界情勢ともリンクする。

 自身を「今は完全な平和主義者」と語るキャメロン監督。「現実にこれだけ銃乱射事件などが起きている中で、今の私が『ターミネーター』のような銃暴力を賛美するような映画を作るのは難しい」と率直に語る。

 しかし本作では、父・ジェイクがナヴィの人々に銃を配り、「死の武器」である銃の使い方を教えるシーンが登場する。これは15年前に書かれた脚本にあり、実際に撮影まで行われていたものだが、当時はあえて外されていたものだ。なぜ今、そのシーンが必要だったのか。

「ジェイクは戦士であり、父です。家族や民を守るために、彼が正しいと信じる『戦い方』を教えなければならない局面がある」

 ここで監督が引き合いに出したのが、名作『ターミネーター2』(1991年)だ。「面白いことに、これは『T2』とは真逆のことをやっているんです。『T2』では、少年のジョン・コナーが、殺人機械であるターミネーターに『むやみに人を殺してはいけない』と道徳を教えていました。しかし今回は、父親が息子たちに『効率的な殺し方』を教えているのです」

 子どもが機械に倫理を説いたかつての映画と、父親が子どもに現実的な暴力を教える今の映画。そこには、「守るための戦い」と「侵略のための暴力」の境界線はどこにあるのか、という問いが込められている。

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』が公開中【写真:(C)2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.】
『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』が公開中【写真:(C)2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.】

鑑賞前に「知っておいてほしい」と呼びかけ

 実は、本作と前作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022年)は、もともと1本の脚本として書かれた壮大な物語だったという。あまりに長大で1本には収まりきらなかったため、2本に分割・再構成された経緯がある。だからこそ監督は、観客に対して本作を単なる「続き物」として見てほしくないと強調する。

「劇場に入る前に知っておいてほしい。これは、ある一つの物語の『完結』です。ただ崖から放り出されるような中途半端な終わり方ではなく、しっかりとした感情的なカタルシスが待っています」

 では、その先の物語はどうなるのか。構想では第5作まであると言われているが、監督はいたずらっぽく笑ってこう答えた。

「次があるかどうかは分かりませんよ。まずはこの作品でしっかり稼がないと、次には進めませんからね!(笑)」

 冗談めかして語るその表情には、「この作品にはそれだけの価値がある」という、巨匠の揺るぎない自信がのぞいていた。平和主義の巨匠が「暴力」の深淵を見つめたフィナーレに、世界が注目している。

□ジェームズ・キャメロン(James Cameron)1954年8月16日、カナダ生まれ。映画監督、脚本家、探検家。『ターミネーター』(84)で脚光を浴び、『エイリアン2』などでSF映画の巨匠としての地位を確立。1997年の『タイタニック』はアカデミー賞史上最多タイの11部門を受賞し、当時の世界興行収入1位を記録。さらに2009年の『アバター』で自身の記録を塗り替え、3D映画革命を巻き起こした。世界歴代興収の上位を自作が独占する、映画界きってのヒットメーカー。妥協なき完璧主義者であり、深海探査艇の設計やマリアナ海溝最深部への単独潜行を成功させるなど、海洋探検家としても知られる。

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