誤射したハンターを町が提訴…クマ駆除巡り波紋 「責任を押し付けているわけではない」町役場が“反論”
全国各地でクマによる被害が相次ぐなか、山形・小国町でクマ駆除の際に起こった誤射事故を巡り、町が誤射をしたハンターにおよそ1600万円の補償費用を請求するという報道に、波紋が広がっている。いったい何があったのか。小国町役場に詳しい経緯を聞いた。

町は誤射をしたハンターにおよそ1600万円の補償費用を求め、提訴する方針
全国各地でクマによる被害が相次ぐなか、山形・小国町でクマ駆除の際に起こった誤射事故を巡り、町が誤射をしたハンターにおよそ1600万円の補償費用を請求するという報道に、波紋が広がっている。いったい何があったのか。小国町役場に詳しい経緯を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
問題の事故は2023年4月、町内の山間部で行われた捕獲作業の際に発生。自治体が設置する鳥獣被害対策実施隊のメンバーとして、地元の猟友会に所属する3人のハンターが出動中、1人が発砲した銃弾が別のハンターの足に当たり、撃たれた男性が後遺障害が残る大けがを負った。町役場の担当者が当時の状況や訴訟の経緯を説明する。
「駆除の名目は個体数調整捕獲(農作物などへの被害をもたらす鳥獣の個体数を管理するため、計画的に行う捕獲)で、箱わななどではなく、実際に山中に入りクマを駆除する作業中に起こった事故です。係争中の案件で、詳しい内容についてはお伝えできませんが、跳弾によるものではありません。鳥獣被害対策実施隊で出動中のハンターは公務員扱いになるため、当初は公務災害として、町が撃たれたハンターに補償を行うことになりました」
けがをした男性は国家賠償法に基づき、町に対し3000万円あまりの損害賠償を請求。町はこれまでに約1663万円を支払ったが、そのうち1000万円以上は治療費や療養費にあたるという。ちなみに、小国町の鳥獣被害対策実施隊の報酬は年額でわずか3000~6000円。ハンターに出動の義務はなく、あくまでも猟友会の善意で成り立っている制度だ。
今回、町が誤射をしたハンターに補償費用を請求することになった経緯について、町の担当者は「撃ったハンターと撃たれた男性の間で、主張の食い違いが生じているため」と内情を明かす。
「撃たれた男性は、誤射したハンターに重過失(故意に近い著しい過失)があったと主張しています。一方、誤射した側や保険会社は過失はなかったと主張している。仮に重過失が認められた場合、町には補償費用を支払う必要がなくなり、むしろこれまで仮払いしていた費用は求償金として重過失があった側に請求しなければ、行政訴訟の対象にもなり得る。両者の主張が食い違っているため、司法に判断を委ねることになったわけです。報道ではそれらの情報が欠如している。単に誤射したハンターにすべての責任を押し付けているわけではない、ということはご理解いただきたい」
猟銃を用いた危険なクマ駆除作業中の事故。重過失があったかどうかの結論は出ていないが、事前にこのような事態が起こる可能性を想定することはできなかったのか。
「普通はありえない、非常にレアケースな事故と聞いています。もちろん、自治体や猟友会でも引き続き事故防止のための安全対策は講じていきますが、今後も発生しないものと思っている。それでも、昨今の状況の中で、こういった事例があることで猟友会によるクマ対応がしづらくなることは誠に遺憾。できれば国の方でもガイドラインを作るなど、対応をしていただきたい」
事故の当事者同士の争いに町が巻き込まれる形となった今回のケース。それでも、危険をかえりみずにクマ駆除にあたったハンターを町が提訴するという事態は極めて異例だ。今後ますます深刻化するクマ被害に対応していくためにも、あらためて猟友会に依存しないクマ対応の在り方が求められている。
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