成宮寛貴、8年間の沈黙と復帰を決めた劇的再会 一時は物作りに没頭も…舞台から人生「第3章」へ
成宮寛貴は8年の時を経て昨年、俳優活動を再開した。今年は配信ドラマで主演し、来年1月、2月には東京、大阪、愛知、福岡で上演される『サド侯爵夫人』(宮本亞門演出、三島由紀夫作)で、12年ぶりに舞台主演を務める。本来は、女性による会話劇を全員男性キャストで描く話題作だ。成宮は、宮本氏演出の舞台で2000年にデビュー。稽古中の今、演じることへの思いを語った。

『サド侯爵夫人』で12年ぶり舞台主演
成宮寛貴は8年の時を経て昨年、俳優活動を再開した。今年は配信ドラマで主演し、来年1月、2月には東京、大阪、愛知、福岡で上演される『サド侯爵夫人』(宮本亞門演出、三島由紀夫作)で、12年ぶりに舞台主演を務める。本来は、女性による会話劇を全員男性キャストで描く話題作だ。成宮は、宮本氏演出の舞台で2000年にデビュー。稽古中の今、演じることへの思いを語った。(取材・文=Miki D’Angelo Yamashita)
成宮は2016年に引退した後も映画出演などのオファーを受けていたが、「芸能界から距離を持ちたい。大好きな世界だからこそ、離れていたい」との思いで断り続けていたという。そして、世界を放浪する旅に出た。
しばらくして、作家・脚本家の樹林伸氏から、ABEMAドラマ『死ぬほど愛して』(今年3月配信)の主演オファーを受けた。
「『まだ、時が来ていない』と一度はお断りさせていただいたのですが、スタッフがいて、受け入れてくれる場所があって、しっかりと地固めをして環境が整ってきました。同時に、台本を開いたら『今まではできなかったような芝居ができるのではないか』と、自分に期待するところまで気持ちが至ったので、首を縦に振りました」
出演から約1年後、今回の舞台出演につながる劇的な再会があった。その相手は、恩人の宮本氏だった。
「海辺で開催されているジャズコンサートに行ったら、目の前に亞門さんがいらっしゃったんです。久しぶりにお会いして、食事に行くことになり、『どういう作品がやりたいの』という話になった。自分の思いをくみ上げていただいて、『これでどう?』とメールが届いたんです」
「断られる」と思っていた宮本氏に、成宮は「やらせてください」とメール返信。宮本氏は驚いたようだが、成宮に即決していた。
「乗り越えなくてはいけないところにキーパーソンがいて、その人としっかり手を結ぶと、必ず次に進める。今までそのようなことがたくさんあって、『今回もきっとそうなんだろうな』と思い、『この作品は絶対にやるべきだ』と決断しました」
宮本氏が提案した作品は、『サド侯爵夫人』。人間の心の奥底に潜む欲望や葛藤を美しい言葉で表現する三島の傑作だ。18世紀フランスを舞台に、悪徳の限りを尽くしたサド侯爵を待ち続ける貞淑な妻・ルネ(サド侯爵夫人)が主人公で、成宮が演じる。他、サン・フォン伯爵夫人役に東出昌大、ルネの妹・アンヌ役に三浦涼介、シミアーヌ男爵夫人役に大鶴佐助、女中・シャルロット役に首藤康之、モントルイユ夫人役に加藤雅也と、そうそうたるキャスト陣も注目されている。
「台本を読ませていただき、わずか1行でさえ、きちんと理解できていないのではないか、難解でハードルが高すぎると危惧しました。ですが、『今後、どうやって生きていくか』も含めて、このような自分を破壊するような作品に『立ち向かう姿勢を見せたい』という思いが強くありました。亞門さんには、『一緒に身投げするような限界までいきましょう』と言っていただきました。また、手を取ってくださることに心から感謝しています」
実は復帰後、「また、いつか舞台に挑戦したい」と望んでいたといい、これだけ早く機会をもらえたことがありがたかった。新たに踏み出すまでの怖さもあるが、それがエネルギーにもなっている。
「今いる場所からさらにジャンプしないと何かに到達できない。そのようなことに、しっかりと自分自身を立ち向かわせていくことも役者としては大切だと感じています。今回、主演という立場になりますが、他の出演者を引き立てる役です。お互いにいいところを伸ばしていくかたちにできれば理想的ですね」
成宮は休んでいる時期にも表現したい思いが常にあり、「何かを動物的に求めてしまう時があった」と振り返る。
「表現したい衝動を感じた時、絵の具を直接指につけて描くフィンガーペインティングというスタイルで絵を描き始めました。オランダでは、花の色や形を組み合わせていく作業に、気がつけば1時間ぐらい没頭していることもありました。ふと、我に返った時、『やはり、表現をすることが好きなんだな』と感じたりもしましたが、芝居のことはあえて考えないようにしていました」
東京ではモノに囲まれて豊かに暮らしていたが、引退後にトランク一つで海を渡った。「なんだ。トランク一つで生活できるんじゃないか」。当時、初心に戻るができたことを笑って振り返る。
成宮は17歳で、初めて俳優のオーディションを受けた。人を感動させ、幸せにするところに魅力を感じて役者を目指した。順風満帆に評価され続け、人気俳優として成長したところで、新たな日々が待っていた。
「これまでの人生において、演じることしかやってこなかったので、物理的に距離をとりたかったんです。南の島も行ったし、東南アジア、アメリカ、ヨーロッパにも行きました。最初は、インドネシアにいたんです。1年もすると生活も落ち着いてきて、毎日、美しい夕日を見て感動していたある日、『新たな一歩を踏み出そう』と思い、ヨーロッパを目指しました」

役者とは…「経験した全てが生かせる仕事」
そこで転機があった。「描いた絵を欲しい」と言っていただくことが多くなり、マグカップなどの日常的なものに落とし込んだアイテムを企画、プロダクトデザインする面白さを知った。朝から晩まで毎日ずっと物作りをしていた時期もあったという。芸能界引退から約4年、自身のアパレル&アクセサリーブランド「HN Product」を立ち上げた。今年2月には、ライフスタイルブランド「NU DO.(ヌードゥー)」を発表。商品プロデュース業も幅広く展開している。
「コロナ禍になって、一度スタッフの顔を見たくて帰国しました。日本の和やかな空気に癒やされていく中で、少しずつ俳優復帰が視野の端に入ってきました。何かを探したというより、役の方から僕のことを見つけてくれてオファーをいただきました」
その経緯も踏まえ、成宮は言った。
「これまでの人生で経験してきたことの全てが生かせる仕事。それが役者ですし、今後の自分を注目してもらえるように毎日準備を続けたいです。そして、『絶対に乗り越えなくてはいけない』という覚悟もあります。もう一度、全身全霊で舞台に立ち向かわないと自分のものにできないですし、震える思いで『サド侯爵夫人』を皆さまに届けます。劇場で見ていただければうれしいです」
選んだ道に迷いはない。この作品を機に成宮の「第3章」が始まる。
□成宮寛貴(なりみや・ひろき) 1982年9月14日、東京都生まれ。2000年、宮本亞門演出の舞台『滅びかけた人類、その愛の本質とは…』でデビュー。01年、『溺れる魚』で映画初出演。主な出演作は、日本テレビ系連続ドラマ『ごくせん』、TBS系連続ドラマ『オレンジデイズ』(04年)、NHK大河ドラマ『功名が辻』(06年)、映画『逆転裁判』(12年)、映画『NANA』シリーズ、テレビ朝日系連続ドラマ『相棒』シリーズなど。血液型A。
<『サド侯爵夫人』公演日程>
【東京】 1月8日~2月1日 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
【大阪】 2月5日~8日 森ノ宮ピロティホール
【愛知】 2月13日、14日 穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
【福岡】 2月17日、18日 福岡市民ホール中ホール
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