日中摩擦で中国人“転売ヤー”が「活発化」 闇民泊・白タクから移行の動きも…専門家が警鐘、福袋商戦に警戒

台湾有事に関する高市早苗首相の国会答弁を巡り、日中間の緊張が高まっている。中国政府が日本への渡航自粛を呼びかけたことで、観光業界など多方面で影響が出ている状況だ。日本に住む中国人たちのビジネスも例外ではない。こうした中で、日本で大量に仕入れた物品を売りさばく中国人“転売ヤー”たちの動向はどうなっているのか。「今回の摩擦が長期化すれば、新型コロナウイルス禍と同様に、需要と供給が一気に高まって転売活動がさらに活発化する可能性があります」。在日中国人社会の事情に詳しいフリーライターの奥窪優木(おくくぼ・ゆうき)氏が警鐘を鳴らしている。

転売ヤーは社会問題化している(写真はイメージ)【写真:写真AC】
転売ヤーは社会問題化している(写真はイメージ)【写真:写真AC】

“経営者”の副業は「転売ヤーか白タクのドライバー、あるいは民泊の清掃員」

 台湾有事に関する高市早苗首相の国会答弁を巡り、日中間の緊張が高まっている。中国政府が日本への渡航自粛を呼びかけたことで、観光業界など多方面で影響が出ている状況だ。日本に住む中国人たちのビジネスも例外ではない。こうした中で、日本で大量に仕入れた物品を売りさばく中国人“転売ヤー”たちの動向はどうなっているのか。「今回の摩擦が長期化すれば、新型コロナウイルス禍と同様に、需要と供給が一気に高まって転売活動がさらに活発化する可能性があります」。在日中国人社会の事情に詳しいフリーライターの奥窪優木(おくくぼ・ゆうき)氏が警鐘を鳴らしている。

 限定グッズや景品を含めてなりふり構わず売り飛ばして利ザヤをもうける転売ヤー。さまざまな人たちが小遣稼ぎ感覚で簡単に“参入”できることもあって横行、社会問題化している。中国人の転売ヤー組織への密着取材を行った経験のある奥窪氏は「私の感覚ですが、日本に住んでいる中国人の10人に1人ぐらいは何らかの形で転売をやっていると考えています」。驚きの実態を明かす。

 転売に関わる中国人の属性は多様だという。「本当にありとあらゆる人がいます。留学生もいれば、普通に会社員として働きながら副業でやっている人もいます。駐在員の奥さんがちょっと生活の足しにというケースもあります」。中国のSNSを通してやりとり。日本で購入した商品は、国際スピード郵便(EMS)や船舶輸出物の中にまぎれ込ませる形で中国本土へ送り、希望者に配送される。

 コロナ禍前後は時計などの高級ブランド品や国産ウイスキーなど単価の高いものが主流だったが、中国当局の通関が厳しくなったことで、現在は単価の低いものを大量に手に入れて売りさばく方式にシフトしているという。「規模の経済を働かせて、輸送コストや通関コストを圧縮する方法を取らないと成り立たないので、組織化が進んでいます。ただ、個人のプレーヤーも依然として多いです」

 意外なのは、“経営者”の肩書を持つ人物も少なくないという点だ。「経営・管理ビザを取って来日したはいいけど、実際には食えないという人たちもいます。副業として手を染める形で、転売ヤーか白タクのドライバー、あるいは民泊の清掃員といった選択肢になっています。ペーパーカンパニーを立ててビザを取得する怪しいケースもあるようです」と語る。

 中国政府の渡航自粛要請により、訪日中国人観光客に大きな変化が。航空便減便や宿泊キャンセルといった影響が出ている。日本にやって来る中国人客が減ることで、転売活動にどう影響が出てくるのか。

「今のところ、中国人の転売ヤーたちが『渡航自粛で困った』という声は聞こえてきません。『仕方ないな』という受け止めで、通常運転で行われている状況です。一時期の中国人観光客による“爆買い”は減っているかもしれません。ただ、個人使用の範囲を超える医薬品や化粧品の大量に持ち込みは、現在では中国国内での規制が厳しくなっています。そもそも爆買い自体が少なくなっています。転売のメインプレーヤーは日本に在住・長期滞在の中国人なので、渡航自粛による負の影響はほとんど出ていないと思います」との見解を示す。

 現在、中国人転売ヤーたちは「中国政府の動向、日中両政府の関係がどうなるかを見極めている」状況だという。一方で、訪日中国客向けに民泊事業を行っている中国人にはダメージが。「3物件を運営している知り合いに聞いたのですが、春節を含む来年2月から3月半ばまでの予約が今年10月の時点で埋まっていたそうですが、大半がキャンセルになったと聞きました。渡航自粛要請が出た当初はそこまで悲観していませんでしたが、現在はかなり困っているのではないかと」。

在日中国人社会の裏事情に詳しいフリーライター・奥窪優木氏【写真:ENCOUNT編集部】
在日中国人社会の裏事情に詳しいフリーライター・奥窪優木氏【写真:ENCOUNT編集部】

「転売を行っている中国人たちは『手軽に誰でもやれるから』と口をそろえます」

 現実味が高まっていることとして予想する“最悪のシナリオ”がある。「コロナ禍の一時期もそうであったように、中国人たちが日本へ行けなくなると日本製品や日本のキャラグッズの需要がさらに高まり、転売活動が活発化するというパターンです。政府間で摩擦が起きていますが、民間レベルでは反日的な動きは出ていません。日本好きの中国人は日本のものが欲しくて買いたいんです。その欲求は変わりません」。

 具体例として、ディズニーグッズを挙げる。「本当は自分で日本のディズニーランドでグッズを買いに行く予定だった人が、行けなくなった。どうしても欲しい。じゃあ代わりに日本に住んでいる同胞に買ってもらおう。転売ヤーを頼ってでも買いたいという需要が高まるはずです」。渡航できないことで、むしろその欲求が強まるというわけだ。

 転売を行う“供給側”の事情はどうか。「同時に、中国人訪日客で成り立っていた闇民泊業者や白タクなどのグレービジネスが干上がりつつあり、代わりに転売活動で損失をカバーしようという動きもあります。コロナ禍の時に、ちょっとグレーな民泊を行っていた中国人業者が転売活動に切り替えたケースを、取材を通して見聞きしてきました。彼らにも生活があるので、お金を稼げるほうにすぐにシフトします。問題が長引けば、需要と供給が両方上向きになることが考えられます」と強調する。

 年末年始に差しかかるタイミング。まもなくやってくる年明けの福袋商戦が「試金石」になるという。なぜなら、福袋は今や、転売ヤーたちの“狙い目”になっているからだ。「福袋は単純にバラバラにしちゃえば、福袋の金額よりも高く売れるんです。もともとご祝儀の意味合いのある商いの伝統ですが、フリマサイトの登場によって、転売ヤーが群がるシステムになってしまいました。もともと日本人転売ヤ―の主戦場ではありますが、中国人転売ヤーたちが参入するようになってきた部分はあります。これからどのような事態が起こるのか。ウオッチしていきたいです」と話す。

 日本は“転売大国”と揶揄(やゆ)されるが、今回の問題で拍車がかかる懸念が増している。奥窪氏は「転売は在日中国人たちにとって困った時の稼ぎ口、言わばセーフティーネットでもあります。転売を行っている中国人たちは『手軽に誰でもやれるから』と口をそろえます。今回のことで、むしろ盛り上がる可能性さえあります。限定商品などのグッズを売る企業やフリマサイトのプラットフォーム側は引き続き対策を進めるべきだと考えています。いずれにせよ、転売ヤーがいなくなることはないです」と指摘している。

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