両親ともに名俳優、咲耶が挑んだ綾野剛との壮絶濡れ場 挑戦を後押しした母からの「20代のうちに出しときな」
『身も心も』『火口のふたり』の荒井晴彦氏が、吉行淳之介の同名小説を映画化した『星と月は天の穴』(12月19日公開)。この“荒井ワールド”全開の純文学的エロティシズム作品で、主演の綾野剛を相手に堂々たるヒロイン・紀子役を演じきったのが、新人女優の咲耶(さくや)だ。オーディションでこの座を射止めた彼女は、父に吹越満、母に広田レオナを持つ2世女優。R18+指定の異色作で体当たりの濡れ場にも挑んだ咲耶に、撮影の裏側や、座長・綾野剛とのエピソードを聞いた。

吉行淳之介の同名小説を映画化した『星と月は天の穴』でヒロインの座射止める
『身も心も』『火口のふたり』の荒井晴彦氏が、吉行淳之介の同名小説を映画化した『星と月は天の穴』(12月19日公開)。この“荒井ワールド”全開の純文学的エロティシズム作品で、主演の綾野剛を相手に堂々たるヒロイン・紀子役を演じきったのが、新人女優の咲耶(さくや)だ。オーディションでこの座を射止めた彼女は、父に吹越満、母に広田レオナを持つ2世女優。R18+指定の異色作で体当たりの濡れ場にも挑んだ咲耶に、撮影の裏側や、座長・綾野剛とのエピソードを聞いた。(取材・文=平辻哲也)
映画は1969年を舞台に、妻に捨てられた40代の小説家・矢添(綾野)と、彼を翻弄する女子大生・紀子(咲耶)の滑稽で切ない愛の行方を描く。
咲耶にとって、本作への出演は「妄想に近い願望」が結実した瞬間だった。「もともと純文学がものすごく好きで、お芝居としてというよりも、漠然と『純文学の登場人物になってみたい』という願望が昔からあったんです」と瞳を輝かせる。
劇中では大胆なヌードも披露しているが、そこに躊躇はなかった。「今の日本映画界ではオールヌードの作品は少ないですが、洋画では当たり前のようにありますし、私もそのくらいの感覚。『日本映画でも制作されていいんじゃないか、むしろその方がリアル』と抵抗なく思っていました」。
その背中を押したのは、母・レオナの言葉だった。「母が私の体を褒めてくれるんです。『咲耶の体は綺麗だから、20代のうちに出しときなよ』って。なかなか変わった母ですよね(笑)」。母からの後押しと、自身の純文学への憧れ。全ての条件が揃った本作を「奇跡的にも夢のような形で目の前に現れた企画。全力で掴みに行くしかなかった」と振り返る。
見事にヒロインの座を勝ち取り、迎えたクランクイン。初日は画廊での出会いのシーンだったが、現場の空気が掴めず緊張していた咲耶を救ったのは、綾野の言葉だった。「カメラテストの時から『咲耶さんはもうすでに、この映画の昭和的ムードと純文学の空気をまとっているから大丈夫』と仰ってくださって。それで一気に緊張がほぐれました」。
さらに綾野は、咲耶の母・広田が出演した若松孝二監督の傑作『エンドレス・ワルツ』(1995年)を引き合いに出し、こう囁いたという。
「綾野さんが『エンドレス・ワルツ』がお好きなようで、『あの作品ほど激しくはないけれど、それでも僕たちのエンドレス・ワルツにしようね』と仰ってくださったんです。本当に素敵な方だなと思いました」。世代を超えて映画への愛が交錯した瞬間だった。

1969年という時代設定を生きるため、役作りも徹底した。「現代の喋り方では荒井さんの脚本は成立しない」と考え、当時の映画やドキュメンタリーを研究。特に参考にしたのは増村保造監督の『卍(まんじ)』(1964年)に出演した若尾文子だ。「若尾さんの発声の仕方や言葉選びを参考に、自分ができる範囲で取り入れました」と女優魂を覗かせる。
撮影2日目からは濡れ場の撮影がスタートした。現場にはインティマシー・コーディネーターの西山ももこ氏が参加し、「いざという時に甘えられる人がいる安心感は心強かった」と語るが、撮影自体は過酷を極めた。
「一番大変だったのはラブホテルのシーンです。濡れ場と会話劇を1日でまとめて撮ったのですが、お腹が出てはいけないのでご飯も食べられず、前貼りをしているから水分も取れない。低血糖になりかけながら、朝から晩まで裸になったり服を着たり……。脳みそも神経も張り詰めた状態で、帰りは泥のように眠ってしまいました」
そんな極限状態でも、綾野は頼れる座長であり続けた。「『手を重ねると体温を感じるでしょ。余計なことは考えず、思ったままお芝居すればいい。技術的なことは僕に任せておけば大丈夫だから』と言ってくださって。とても頼りがいのある先輩で、綾野さんのおかげで乗り越えられました」
完成した作品について「私にとっては夢が叶った夢心地な映画」と語る咲耶。父には「頑張りなさい」と応援されつつも、娘の過激なシーンには「父親としては複雑で、見る時は気が気じゃないかも」と心配されているそうだが、「私は恥ずかしくないです」と言い切る。
「題材的に堅苦しく感じる方もいるかもしれませんが、私はこの映画をコメディーだと思っています。男の人の滑稽な姿、しょうもない部分を笑って楽しんでいただけたら」。昭和の文豪・吉行淳之介の世界に、令和の新人女優が新たな息吹を吹き込んだ。
□咲耶(さくや)2000年4月11日生まれ、東京都出身。『お江戸のキャンディー2 ロワゾー・ドゥ・パラディ(天国の鳥)篇』(17・広田レオナ監督)で俳優デビュー。主な出演作に、『君が死ぬまであと100日』(23・NTV)、『笑うマトリョーシカ』(24・TBS)、『桐島です』(25・高橋伴明監督)などがある。今後は、『金子文子 何が私をこうさせたか』(26/2・浜野佐知監督)、『粛々のモリ』(26年以降)、2026年1月31日放送のBS日テレ『旅人検視官 道場修作 長野県車山高原殺人事件』の出演も控えている。
ヘアメイク:足立真利子
あなたの“気になる”を教えてください