明暗分かれた2025年のアニメ映画 『鬼滅の刃』は興収1000億円超…カギを握る“ファンとの接点”
2025年、アニメ映画は記録的な躍進を見せた。『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が日本映画史上初となる全世界興行収入1000億円を突破し、『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』はシリーズ3作連続の興収100億円超えを達成。『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』は北米で週末興収1位を獲得し、全世界で200億円規模のヒットとなった。

『鬼滅の刃』『名探偵コナン』『チェンソーマン』などが躍進
2025年、アニメ映画は記録的な躍進を見せた。
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が日本映画史上初となる全世界興行収入1000億円を突破し、『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』はシリーズ3作連続の興収100億円超えを達成。『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』は北米で週末興収1位を獲得し、全世界で200億円規模のヒットとなった。
8日には『鬼滅の刃』のゴールデン・グローブ賞へのノミネートも発表。こうした華やかな成果を見ると、アニメ映画市場は今年も拡大基調にあるように思える。しかしその一方で、作品ごとの結果は意外なほどばらつきがあり、明暗がこれまで以上にはっきりした1年でもあった。
今年の大ヒット作に共通するのは、作品とファンのあいだに“日常的な接点”が存在していた点だ。
『鬼滅の刃』は原作連載終了から5年が経ってもSNSでファンアートや考察が絶えず投稿され、配信プラットフォームではテレビシリーズをいつでも振り返ることができる。長いシリーズほど細部を忘れやすいものだが、配信の存在によってすぐに物語へ戻れる環境が整っていることは、劇場へ足を運ぶ際の心理的ハードルを下げている。
『チェンソーマン』もまた、原作連載の進行とSNSコミュニティの盛り上がりが映画公開前から熱量を押し上げていた。『名探偵コナン』は、30年近くにわたり毎年劇場版を届けてきた歴史が「春になったらコナンを観に行く」という世代をまたぐ習慣を形成している。
公開直前の大型広告だけで観客を動かす時代ではなく、応援上映や週替わりの来場者特典を目当てに劇場へ足を運ぶ観客が増えている今。もともと興味が薄かった作品でも、SNSで盛り上がりを目にして“遅れて参戦”するケースも珍しくない。こうして作品世界が日常的に語られ続け、公開後も更新されていく流れは、2025年のアニメ映画市場を読み解くうえで欠かせない視点と言えるだろう。
一方、細田守監督の『果てしなきスカーレット』は、金曜ロードショーでの過去作4週連続放送という大型プロモーションを展開したものの、初週末興収は前作『竜とそばかすの姫』の約4分の1にとどまった。
従来の“少年少女の成長譚”というイメージから大きく転じ、ダークな世界観を基調としたビジュアルや復讐劇を軸とした物語は、これまでとは違う受け止め方をした観客も少なくなかっただろう。その挑戦の意義については評価が分かれるところだが、映画の情報源がSNS中心となり、初動の評価がその後の動員に大きく影響する状況が改めて浮き彫りになった事例といえる。

活況のアニメ映画界は二極化が鮮明に?
とはいえ興行規模では苦戦した作品の中にも、確かな存在感を示した例もある。
『オッドタクシー』を手がけた木下麦監督と此元和津也脚本によるオリジナルアニメ映画『ホウセンカ』は、無期懲役囚と人の言葉を話すホウセンカが独房で対話するという、商業アニメとしては大胆な題材に挑んだ。上映規模は限られたものの、レビューサイトでは高評価が続き、アヌシー国際アニメーション映画祭のコンペティション部門にも選出された。
いしいしんじ原作のミュージカルアニメ『トリツカレ男』も、初動は控えめながら口コミが少しずつ広がり、満席が出る劇場も見られた。髙橋渉監督の細やかな演出が支持され、SNSでは隠れた必見作として語られている。こうした動きは、公開規模にかかわらず、狙う観客層にしっかり届いた作品が息長く支持される可能性を示しているのではないだろうか。
他にも『ベルサイユのばら』は興収5億円という数字だけを見れば控えめだが、原作を長く支えてきた40代以上のファンが確実に劇場へ足を運び、応援上映などの施策にも好意的な反応が寄せられた。長年培われてきたファン層の厚みが、劇場版という形式でもしなやかに作用した好例といえる。
魚豊原作の『ひゃくえむ。』も、興収7億円規模ながら台湾、韓国、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど各国で劇場公開され、国際的な認知がじわりと広がった。口コミを起点に観客が少しずつ増えていくタイプのヒットであり、作品の魅力が鑑賞者を介して静かに伝播していった印象がある。
今年を象徴する動きとして、ビジネスモデルの広がりも挙げられるだろう。『チェンソーマン』を制作したMAPPAは、テレビシリーズに続き今回も製作委員会方式を採らず、100%自社出資での制作に踏み切った。通常、制作会社は委員会の下請けとなるため利益が限定されやすいが、リスクとリターンの双方を自社で引き受ける形を選んだことになる。この方式が今後のアニメ映画制作にどのような影響を及ぼすのか、業界内外から注目を集めている。
2025年のアニメ映画市場が示したのは、ヒットの形がこれまで以上に多様化しているという点だ。100億円規模の大作から、中規模でも確かな支持を得る作品まで、“届き方”のかたちは作品ごとに大きく異なるようになってきた。
一方で、「作品の出来の良さ」だけでは動員の差を語りきれない局面も増えている。日常的にファンとの接点をどう築くか、SNSで自然に話題が生まれる導線をどう設計するか。テレビCMの量だけでは観客が動きにくくなった今、作品そのものがどれだけコミュニティを形成できるかが、より重視される段階に差し掛かっている。
アニメ映画の活況は続く。しかし、その波に乗れる作品とそうでない作品の差は、“届け方”の巧拙によってより鮮明になっていくのかもしれない。
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