少年時代のいじめ、友人との死別「一生忘れることができません」 高橋優の“笑顔”に隠された原点

今年7月にメジャーデビュー15周年を迎えたシンガー・ソングライターの高橋優が12月10日にベストアルバム『自由悟然』をリリースした。自身の経験や社会のリアルをストレートに表現するスタイルから“リアルタイム・シンガー・ソングライター”と呼ばれ、数多くの発表曲の中で困難の先にある明日への希望や人とつながる大切さを歌ってきた、この15年の集大成を印象づける内容に。そこで今回は高橋の楽曲をひも解く上で重要なキーワードである「笑」に焦点を当て、笑顔に隠された高橋の原点に迫った。

メジャーデビュー15周年を迎えた高橋優【写真:増田美咲】
メジャーデビュー15周年を迎えた高橋優【写真:増田美咲】

メジャーデビュー15周年ベストアルバム『自由悟然』をリリース

 今年7月にメジャーデビュー15周年を迎えたシンガー・ソングライターの高橋優が12月10日にベストアルバム『自由悟然』をリリースした。自身の経験や社会のリアルをストレートに表現するスタイルから“リアルタイム・シンガー・ソングライター”と呼ばれ、数多くの発表曲の中で困難の先にある明日への希望や人とつながる大切さを歌ってきた、この15年の集大成を印象づける内容に。そこで今回は高橋の楽曲をひも解く上で重要なキーワードである「笑」に焦点を当て、笑顔に隠された高橋の原点に迫った。(取材・文=福嶋剛)

――高橋さんは、『明日はきっといい日になる』『福笑い』を始め、これまで笑うことが根底にある曲を多く残してきました。改めてシンガー・ソングライター高橋優にとって笑顔とは何かを教えてください。

「僕は、笑顔とか笑いというのは『生きる術(すべ)』だと思っています。赤ちゃんが最初に笑う理由って。聞いた話だと、面白いから笑うんじゃなくて、そこにいる人たちにかわいがってもらうために笑うらしいんです」

――目の前の誰かに何かを求めるために笑う、と。

「そう。筋肉を動かして口角を上げてニコッとした顔をすれば、愛してもらえるっていう術を本能的に赤ちゃんは知っていて、やるらしいんですね。だから、笑うこと自体は、別に神秘的でもきらびやかなものでもなく、生きるための一つの手段なんだろうなって。それはとても興味深いと思いました」

――高橋さんが笑うことをテーマにしたきっかけの曲は。

「『福笑い』(2011年)です。まだ今みたいに動画配信が主流じゃなかった2009年に『Laughter Chain』という動画を友達に紹介されたんです。最初に赤ちゃんが笑っている動画から始まって、次にその動画を全然関係のない国の人が見て笑い、今度は、そのもらい笑いの動画を見た人がまたもらい笑いをしてしまうという、世界中で笑いの連鎖が起こるという動画でした。世代も国も問わず、笑い合っているその動画が当時のお気に入りでした。図らずもそのタイミングで確か2010年の元日のラジオ番組だったと思うのですが、即興で曲を弾き語りすることになり、『Laughter Chain』を思い出して書いたのが『福笑い』でした」

――歌詞にある「あなたが笑ってたら 僕も笑いたくなる」や「きっとこの世界の共通言語は英語じゃなくて笑顔だと思う」という歌詞はそこから生まれたんですね。

「そうです。翌年、2011年に東日本大震災が起こり、そこでたくさんの方がこの『福笑い』を聴いてくださったと知り、その後の音楽活動でとても重要な曲になりました。リスナーのみなさんにとっても『高橋優は笑顔について歌っているシンガー』という印象付けみたいなのは『福笑い』からだと思います。5周年の時に出した『笑う約束』(2015年)というベストアルバムの取材でもたびたび『笑う』という言葉が収録曲のほとんどに入っていると取り上げていただき、きっとそういう流れもあったからだと思うのですが、僕自身は、『笑う』ことについて、決してポジティブな意味合いだけで使っている訳ではないんです」

――というと、どのような意味合いがあるのでしょう。

「笑いにもいろいろな種類があって、今回のベスト盤の1枚目(『優勝盤』)の7曲目に収録した『裸の王国』(2014年)は、歌詞で『さぁ笑え 笑え 感情なんか殺せるよほら』と歌っています。ここでは完全に笑っている人たちに皮肉を込めて歌っていて、虚無感を表すために笑うという言葉を使っていますが、確かに言われてみれば、僕自身この『笑う』という表現に対して興味があるのかもしれないですね」

――高橋さんご自身の笑顔についてもお聞きしたいのですが、これまで何度か取材をさせていただきましたが、意外と取材中の笑顔をあまり見たことがない気がして……。

「あはは(笑)。確かに僕自身はあまり笑わないですよね」

――最初の取材はメジャーデビューの頃で先日サブスク解禁されたインディーズ時代の名盤『僕らの平成ロックンロール』やデビューシングル『素晴らしき日常』(2011年)を聴いていたので、すごく尖った印象の方なのかなと思っていたら、実際にお会いすると一つひとつの質問に丁寧に答えてくださる真摯(しんし)な姿にギャップを感じました。

「そう言っていただけるのはうれしいのですが、実際、デビュー当時は右も左も分からなくて、カメラマンさんに『笑ってください』と言われて、『じゃあ笑わせてください』なんて平気で言っちゃうような、礼儀知らずな振る舞いでたくさんの方にご迷惑をお掛けしてしまいました。今は大人になりましたから笑顔のリクエストは喜んで(笑)」

「僕は高橋優という音楽を奏でるために言葉を探している」【写真:増田美咲】
「僕は高橋優という音楽を奏でるために言葉を探している」【写真:増田美咲】

小学生から中学生まで“こっぴどい”人間関係の挫折を経験

――では、秋田県で生まれ育った幼少期の頃の高橋少年はいかがでしたか。

「曾祖母、祖母、両親、姉2人という7人家族でみんな仲が良かったので普通によく笑い、明るくてにぎやかな家庭でした。生まれた環境はもちろん僕のベーシックになっていて根っこの部分ではポジティブで楽観的な考え方の人間だと思うのですが、小学1年生から中学まで結構こっぴどい人間関係の挫折を経験して変わりましたね」

――それは、いじめでしょうか。

「そうです。その辺りから自分がもともと抱いていた『明るい希望』『みんなで仲良く』みたいな平和的な考え方を持っていると、『ちゃんちゃらおかしい』と周りにバカにされ続けてきたので、自分の中で防衛本能というか、工夫しながら生きる術を見つけるようになったのかなって思います。そして、もう1つ僕にとって大きな出来事があって、大学生の時に仲の良かった友人が自ら命を絶ちました。葬式に参列した時の居たたまれなさや残された人たちの想像を絶する辛さは、一生忘れることができません。この世の悲しみを全部ここに集めたかのような、肯定する言葉がひとつも見つからなかったんです。あの時のことに比べれば大抵のことは笑って済ませることができると思います」

――高橋さんご自身にとっても笑うことは「生きるための術」であったと。

「もしかしたら読者のみなさんの中にも同じような経験をされた方がいるかもしれませんが、いじめや大切な人との別れを経験した人たちが、それ以降『楽しい』とか『ワクワクする』みたいな気持ちになることってとても難しいことだと思います。僕自身、今でも時々思い出すとその悲しみに負けそうになるんです。でも僕は歌を通してこれからもその気持ちに抗って生きていきたいですね」

――抗(あらが)うというのは、そういう社会や世の中に対してではなく。

「違いますね。世の中に対して何か打ち出したいというのは、最初からないです。そうじゃなくて、抗うべきは、その社会で生きている人たちの寂しさや悲しみ、不安など、鬱屈とした気持ちに対してです。そこに音楽が流れるとちょっとは気分が変わったりするじゃないですか。そういう音楽ってすでに世の中にはたくさん溢れているので、僕は高橋優という音楽を奏でるために言葉を探す意識でやっています」

――だからこそ笑うことには意味があると。

「それくらい笑うことって貴重なんじゃないのかなって」

――究極の質問になりますが、世の中が笑顔で溢れる時代がやって来たらどんな歌を歌いますか?

「僕は別に笑顔で溢れている世界を望んで歌っている訳ではないのですが、もしも多くの人が笑顔になるような世界になったら、今度はその笑顔が消えてしまうような歌を歌っているような気がします。丁度そういう曲が思い浮かんで最近書いたんです。『世界中が光で満ち溢れていたら、それ以上の光がいらなくなるから、そこに住む人たちは闇を探すだろう』という感じで全くリリースは考えてないんですけど(笑)」

――でも、今まさにそういう時代のような気もしますよね。

「確かにそれはありますよね。みんなが笑顔に満ち溢れているところで笑顔になれる曲が欲しいという人もいれば、『何を笑っているの?』ってその人の気持ちに問いかけるような曲もあっていいと思いますし。音楽に何を求めるかということで言うと僕は、上手くバランスを取りながらいつの時代も歌い続けていると思います」

□高橋優(たかはし・ゆう) 1983年12月26日、秋田・横手市生まれ。大学進学と同時に路上での弾き語りを開始。2010年にシングル『素晴らしき日常』でメジャーデビュー。16年に「音楽で秋田を盛り上げたい」という思いから、フェス『秋田CARAVAN MUSIC FES』を地元の横手市で開催。以降は毎年開催地を変えており、秋田県内の全市を回る予定。25年にメジャーデビュー15周年を迎え、12月10日にCD3枚組45曲収録のオールタイムベスト『自由悟然』をリリース。12月26日から26年7月5日まで全国ツアー「高橋優 15th ANNIVERSARY SPECIAL LIVE TOUR 2025-2026『自由たる覚悟、然として奏ず』」を28会場30公演、開催する。

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