景観「ぶち壊し」のマンション開発、住民も嘆き「ここまで圧迫感が…」 名所で起きた“想定外”の舞台裏
東京の下町情緒が残る人気スポット「夕やけだんだん」前で進行中のマンション開発に、ネット上で「景観を損なう」と疑問の声が上がっている。公募で決まったという愛称の通り、階段になった坂の上から夕焼けに染まった美しい街並みが望める場所として、数多くの映画やドラマのロケ地にもなってきた下町を代表する名所だが、現在は建設中のマンションによってその大部分が遮られた状態となっている。建設予定地である荒川区の区議や地域住民に、一連のマンション開発の経緯や問題点を聞いた。

数多くの映画やドラマのロケ地にもなってきた下町を代表する観光スポット
東京の下町情緒が残る人気スポット「夕やけだんだん」前で進行中のマンション開発に、ネット上で「景観を損なう」と疑問の声が上がっている。公募で決まったという愛称の通り、階段になった坂の上から夕焼けに染まった美しい街並みが望める場所として、数多くの映画やドラマのロケ地にもなってきた下町を代表する名所だが、現在は建設中のマンションによってその大部分が遮られた状態となっている。建設予定地である荒川区の区議や地域住民に、一連のマンション開発の経緯や問題点を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
「建設中のマンションがこんなに大きいとは思わなかった。夕やけはもう見えない」
先月下旬、夕焼けだんだん前で建設中のマンション画像がSNS上で拡散。投稿は8000件を超えるリポスト、3.2万件の“いいね”が寄せられるなど大きな反響を呼んでおり、「なんでこんな酷いことするんだろう」「景観もへったくれもないですねぇ…東京の下町風景が悲しいです」「夕焼けだんだんとレトロ商店街の情景こそ地域の価値だったのにぶち壊した」「これから夕焼け見えないだんだんと呼びます」「東京が、どんどん塀の高い刑務所の中みたいになっていく」など、失われゆく景観に嘆きの声が相次いでいる。
話題となっているのは、夕やけだんだんの坂の中腹に建設中の分譲マンション「ウィルローズ谷中銀座」と、その隣に建設中の別マンションの2棟。坂の上から見て左手の斜面に7階建てのウィルローズ谷中銀座、その奥に6階建ての別マンションが並ぶ形で工事が進んでおり、巨大な2つのマンションにより景観のほとんどが遮られている格好だ。ウィルローズ谷中銀座のホームページには「上野の杜へ続く路。」「谷根千の情景、夕やけだんだんに寄り添う住まいへ。」といったキャッチコピーが並んでいる一方、隣の別マンションは区や住民にもいまだにマンション名が公表されていない状況だという。
12月上旬の夕暮れ時、JR日暮里駅から夕やけだんだんを通り、谷中銀座商店街を歩いた。マンションの建設現場周辺ではけたたましい工事の音が鳴り響くなか、時折道行く人が足を止め、「谷中ぎんざ」や「夕やけだんだん」とかかれた看板を写真に収めていた。近隣に住んで20年以上になるという60代の女性は「もう見慣れた景色で特に気にかけてもいなかったけど、いざ見られなくなると残念。ここまで圧迫感があるのは想定外。事前に説明を受けた完成予想図では、もう少し街並みと調和している感じだった」と率直な思いを吐露。谷中銀座商店街で飲食店を営む男性は「マンションができればそれはそれで街は活気づくかも。観光客だと困った人もいるから、居住者が増えた方がいいという人もいる。その辺は難しいところ」と複雑な思いを口にした。

区の境界で、たまたま同時期に、全く別の案件であった2棟のマンション計画が相次いで進行
地域で愛される景観を守ることはできなかったのか。昨年6月、荒川区議会で同所のマンション開発について取り上げた日本共産党の小島和男区議は、「大きな反対運動などは起こらなかったというのが正直なところ」と経緯を語る。
「あの辺りはちょうど区の境界にあたり、マンションの建設予定地で景観のいい坂の上は荒川区ですが、周辺の谷中銀座商店街は8割が台東区。先に台東区側の地域住民への説明があり、昨年4~5月になって荒川区の住民に対する説明会がありました。たまたま同時期に、全く別の案件であった2棟のマンション計画が相次いで進行したことも一因。住民説明会の後、ウィルローズ谷中銀座の方は当初の8階建てから7階建てに計画変更されましたが、一部を除き大きな反対意見もなく、あとは個別の説明で了解を得たという形になりました」
一連のマンション計画について、最初に住民説明会が開かれたのは2024年の4月15日。両マンションの開発は、住環境条例や市街地整備要綱なども踏まえ、地域住民の理解も得た上で適法に進んだという。小島区議は、ネットの声だけでここから計画を白紙に戻すことは現実的ではないとしたうえで、「今の規制のないマンション開発の在り方そのものは問題だと思っている」と口にする。
「都市計画には景観や環境、長い目で地域の暮らしをどう守るかという視点が必要です。荒川区ではマンションが増えすぎて地価が高騰し、従来のような庶民が住めない、保育所や学校が足りないといった問題も起こり始めています。マンション開発自体が悪いとは言わないが、バランスは必要。規制緩和の中で、もうかればいいと建てまくり、後々の問題は自治体の責任と丸投げする現状は問題です。街づくりは長期的な視点で、公共の在り方を見据えながら進めるべきです」
ウィルローズ谷中銀座を手がける都内のデベロッパーの担当者は5日、ENCOUNTの取材に「弊社は関連法令、条例等の遵守、地域社会の皆様にも十分配慮した商品企画・商品設計を行っております。ウィルローズ谷中銀座におきましても、複数回開催した住民説明会において住民の方に説明を尽くしてご理解いただき、荒川景観アドバイザーの方からのご意見を踏まえた開発を進めております」と文書で回答。これまでに景観に対する直接の問い合わせは来ていないとした上で、「今後につきましても、住民の方からのご意見につきましては真摯(しんし)に対応していく所存でございます」としている。
各都道府県では景観に関する条例が定められており、京都のように厳しい規制が設けられている地域もある。昨年6月には東京・国立市の「富士見通り」で建設中だった分譲マンションが、富士山の眺望への影響を考慮し、購入者への引き渡し直前で解体されたという例もある。地域の暮らしと景観への配慮、双方のバランスを取った都市開発が求められている。
あなたの“気になる”を教えてください