「撃つな」と言われるクマとの位置、それでも引き金を…ハンターが明かす「責任」 “冬眠”に警鐘

全国でクマの出没が相次ぎ、過去最悪レベルの被害を出している。駆除を巡って議論が巻き起こり、クマ肉料理が話題を呼ぶなど、ニュース報道も過熱。公務員として働きながら、山の中での狩猟をライフワークにしているハンターは、一連の問題をどう捉えているのか。12月に入って本格化する冬眠の時期でも、油断できないという。過去にツキノワグマ2頭を仕留めた経験を持つ40代の男性ハンターが取材に応じ、本音を明かした。

クマ被害が社会問題になっている(写真はイメージ)【写真:写真AC】
クマ被害が社会問題になっている(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「山の神様に感謝しながら、山の恵みをいただく」

 全国でクマの出没が相次ぎ、過去最悪レベルの被害を出している。駆除を巡って議論が巻き起こり、クマ肉料理が話題を呼ぶなど、ニュース報道も過熱。公務員として働きながら、山の中での狩猟をライフワークにしているハンターは、一連の問題をどう捉えているのか。12月に入って本格化する冬眠の時期でも、油断できないという。過去にツキノワグマ2頭を仕留めた経験を持つ40代の男性ハンターが取材に応じ、本音を明かした。(取材・文=吉原知也)

「山の神様に感謝しながら、山の恵みをいただく。私たちハンターはこの哲学を大事に、常に覚悟をしながら活動しています」。25歳の時から山に入っている男性ハンターは、狩猟の世界の基本的な姿勢について、こう語る。

 ハンターの父親の背中を見て育った。「私が子どもの頃、休みの日に父親が鉄砲を持って近所の里山に鳥を撃ちに行っていました。小学生の時、自宅周辺は雑木林と田畑が広がる田舎で、父親と一緒に里山を歩いた記憶が残っています」。これが原点だ。

 公務員の仕事に就き、社会人になって、必要な狩猟免許と銃砲所持許可を取得。冬場に設定される狩猟期間中の休みの日に、父親とハンター仲間たちのグループに交ざって猟場に出かけるようになった。初めて仕留めたのはニホンジカで、狩猟や解体の技術を究めている。

 20年以上の狩猟歴で、猟銃で仕留めたクマは2頭。ツキノワグマで、いずれも東日本の山中でのことだ。「1頭目は30歳前後の時、親離れをした子グマでした。2頭目は30代半ばの時で、体重150キロ近くあった成獣のオスでした」。

 2頭目を撃った時のことは、鮮明に覚えている。父親と一緒に行動して、山中の持ち場に向かう途中のことだった。「父の持ち場で別れた直後、ニホンジカが8、9頭ほど走ってきたんです。車から1時間半も歩く場所だったので、シカを仕留めても運ぶのも大変だから見逃そうと、2人で申し合わせていました。そのシカの列の後ろにイノシシが来ました。イノシシは父親と2人で撃ちました」

 しかし、弾がかすっただけ。血を垂らしながら逃げるイノシシを追いかけたが、見失った。

 その瞬間だった。「逃げられたと思ったら、また何か足音が近付いてきたんです。イノシシとすれ違うような感じで、クマがこちらに走ってきました」

 その時、男性は斜面の低い位置にいて、クマは高い位置にいた。「マタギの世界では、自分より高い斜面にいるクマを撃つなと言われています。撃たれたクマが斜面を転がり落ちながら反撃してくることがあるので、危ないんです」。瞬時に「この距離なら避けられる」と判断。狙いを定めて引き金を引いた。

「弾が急所に当たると、クマは『踊り』をします。立ち上がって前足で頭をかきむしるように暴れる動作です。踊ったので、『これは当たっている』と判断しましたが、もう1発を撃ち込みました」

「動物をかわいがる気持ちはとても大切ですが…」

 致命傷を負って転がり落ちるクマ。直撃を避けるために男性は冷静に横へ逃げた。「クマはそのまま、私が立っていたところを通過して斜面を転がり落ちていって、斜面の下にいた父の目の前であおむけに倒れました。父も銃を構えていましたが、お腹を見せて倒れるということは、もう息絶えている証拠です」。一瞬の出来事だった。

 仕留めた獣はクマを含めて、グループのみんなで分け合って食べるのが慣例だ。2頭目の巨大クマは水煮で食べた。「大きな鍋で煮るのですが、普通の水の状態からお肉を入れて、沸騰させないように少しずつ温度を上げていきます。しっかり中まで熱が伝わるのを確認したところで食べます。味付けは塩だけです。まさに、クマの味がします」

 今年の秋、串焼きなどクマ肉のジビエ料理がにわかに注目を集めた。男性は「有害駆除で捕獲されたものを、捨てるのはもったいないから食べようという考えは理解できます。狩猟の場合は『山の神様からいただいた恵み』という考え方で、余すところなく食べる。昔の人は仕留めた動物の毛皮で着物を作ったりもして利用していました。今でも私はその心がけを大切にしています」との受け止めを語る。

 クマの駆除に対して、「かわいそう」など批判の声も上がっている。男性は有害駆除の出動経験はあるものの、本業の仕事があるため多くはない。ライフワーク・趣味の範囲で狩猟に取り組んでいるが、山で生きる人間の一人として、思うことがあるという。

「日本列島という狭い国土の中で、人間と野生動物が、生きていくための陣取り合戦をしていると私は考えています。その中に、人間と動物の境界線が生まれるわけです。かつては農山村の人たちが、林業や農業という産業活動を続けることで里山が生まれ、その境界線に幅を持たせていました。でも今は、人口減少社会となり、その境界線が細い1本の線になってしまい、人間が住む都市のすぐ傍らにまで迫ってきました」

 人間が住む世界と動物の領域。細くなってしまった境界線を互いに踏み越えると、命の危険が生じてしまう。「境界線に幅があった頃は、無用な殺生は少なかったと思います。しかし、線が細くなったことで、次々と衝突が起きている。命のやり取りが起きてしまっているのではないでしょうか。動物をかわいがる気持ちはとても大切ですが、今現在は、『クマがかわいそう』とクマを擬人化して人間の感情を乗せるような状況ではないと考えています」と、自身の見解を明かす。

 そのうえで、駆除への批判について、率直な思いを口にした。

「人と野生動物が隣り合ってしまった現状では、駆除は必要な取り組みです。その最前線の人たちに、『何やってんだ』と言って『悪』を背負わせてしまうのは、ちょっと行き過ぎじゃないかと思います。殺すことが楽しくて、命を奪うためだけに殺すということではありません。地域住民の安全を守るため、地域のコミュニティーを守るために、仕方なく、本意ではないところでやっている人が多いのではないでしょうか。猟友会の仲間たちと話していても、みんなそういう思いを持っています」。

「『もう眠り込んだから大丈夫』ではない」

 クマは一般的に12月から積雪と共に冬眠に入っていくと言われているが、実態はどうなのか。「マタギの世界では、どんなに遅い個体でも、冬至(2025年は12月22日)までには冬眠すると言われています。一方で、お正月過ぎまで山を歩き回るクマもいるとの専門家の調査もあります」。

 世間的なイメージとの“違い”があるといい、「冬眠と言うと、穴にこもってぐっすり寝込んで出てこないイメージを持たれるかと思いますが、『冬ごもり』という表現の方が正しいと思います。食べ物が少なくなる冬の時期に、無駄なエネルギーを使わないように穴の中でおとなしくじっとしている。呼吸の回数が減ったり、体温が下がったりはしますが、ずっと眠っているわけではありません。一度入った穴でも、居心地が悪かったりすると出てきて移動するケースもあります。『もう眠り込んだから大丈夫』ではなく、一定の注意が必要だと思います」と指摘する。

 今冬以降のクマの動向は未知数だ。人間が山に入ることのリスクも高まっている。それでも男性は、ハンターとしての覚悟を強調。「山の中を自分の足で歩いて、野生動物と真剣に対峙(たいじ)する。捕獲した後は丸ごと山から下ろしてくる。解体する時も、ちゃんと手入れの行き届いた道具を使って、肉を無駄なく取り出す。そして無駄なく食べる。命に向き合って、感謝をすること。そのことを忘れずに、引き金を引いて仕留めた責任をしっかりと感じながら、これからも狩猟を続けていこうと思っています」と話している。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください