寛一郎、父・佐藤浩市への“卒業”宣言「返ってくる答えが分かっちゃう」 俳優としての現在地
俳優・寛一郎は、映画『そこにきみはいて』(竹馬靖具監督、公開中)で俳優としての“節目”を迎えたと語った。だが、その先には、静かな葛藤と覚悟がある。父・佐藤浩市との関係、朝ドラ『ばけばけ』出演──。俳優という仕事をどう続けていくのか。寛一郎が率直な言葉で“現在地”を語った。

朝ドラ『ばけばけ』出演も反響の実感“ゼロ”
俳優・寛一郎は、映画『そこにきみはいて』(竹馬靖具監督、公開中)で俳優としての“節目”を迎えたと語った。だが、その先には、静かな葛藤と覚悟がある。父・佐藤浩市との関係、朝ドラ『ばけばけ』出演──。俳優という仕事をどう続けていくのか。寛一郎が率直な言葉で“現在地”を語った。(取材・文=平辻哲也)
記者が寛一郎をインタビューしたのは、2024年6月公開の『プロミスト・ランド』以来。この作品では、東北を舞台に、役所から熊撃ち禁止が伝えられる中、弟分(杉田雷麟)とともに、熊撃ちに挑むマタギの青年を演じた。この時は「役柄の年齢が自分よりも上だったので、うまく演じられないと思った」と最初は断るつもりだったと語っていたことが印象に残っている。
昨今、熊被害が広がっていることを話題にすると、「ニュースでもよく見るので、心配しています。撮影中にも、遠くに熊を見かけたんですよ」と寛一郎。「怖くなかったのか」と聞くと、「少しビビりましたが、猟銃を持ったマタギの方がそばにいたので安心でした」と話した。
前回の取材から1年半。寛一郎は「自分は俳優には向いていないのかもしれないと思った時期があった」と語るが、その漠然とした不安とは別に、出演作は目白押しだ。
NHK『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』では『鎌倉殿の13人』に続く2度目の大河ドラマ出演を果たしたほか、NHK連続テレビ小説『ばけばけ』では主人公トキ(髙石あかり)の最初の結婚相手、山根銀二郎役を演じた。その撮影を振り返る表情は穏やかだ。
「プロデューサーさんが『せかいのおきく』(阪本順治監督)を見て、オファーをくださったんです。(制作する)BK(NHK大阪放送局)の雰囲気はとても明るく、居心地がよかったです。髙石さんは、水みたいに柔らかい人なんですけど、芯があって、それをあまり人に見せない。彼女の方が若いですけど、相手を萎縮させない柔らかさを持ってる子。どんな弾を打っても、ちゃんと打ち返してくれる。楽しかったですね」
放送後の反響を聞くと、笑ってこう答えた。
「すごく言われたんですけど、そもそも友達が少ないんで(笑)。でも、母親が毎日LINEくれて、『今日も見たよ』って。でも自分の中では、あまり実感はなかったですね。『反響あったのかな?』という感じでしたよ」

『爆弾』で共演した坂東龍汰に感謝
映画では『爆弾』(永井聡監督、公開中)、『そこにきみはいて』、そして、『ラストマン -FIRST LOVE-』(平野俊一監督、12月24日公開)と立て続け。キャリアは確実に積み上がっている。
「今でも、向いていないと思うことはあります。でも、それがネガティブじゃなくて、『向いてないから頑張ろう』に変わってきた。その感覚がたぶん成長に繋がってるんだと思います」
俳優としての悩みは、父・佐藤浩市には相談しないのか。
「しないです。だいたい返ってくる答えが分かっちゃうんですよ。自分の中では、親父を卒業した、という感覚があります。こんなことを言うと、生意気だと怒られてしまうと思いますけれど」と笑う。
悩みは人には打ち明けず、自分で解決するのが寛一郎流だという。
「友達が少ないというのはあるんです。でも、『爆弾』で共演した坂東龍汰には話したりしましたね。僕が話すと、彼がずっと喋ってくれる(笑)。『こう思うんだけど、どう思う?』って言ってくれて。僕は自分から本音を言うタイプじゃないから、ああいう存在はありがたい」
俳優という仕事は、感情を削る仕事でもある。その疲れをどう癒すのかを尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「(映画『シサム』)撮影のために体を大きくすることにハマっていて、一時は筋トレが気晴らしになっていました。1か月でどれだけ体を大きくできるか、というのが面白くて。筋トレはやればやるだけ成果が現れるし、それこそ、『筋肉は裏切らない』といった感覚がありました。ほかにも、散歩をしたり、暇なときはゲームをしてます」
デビューから8年。さまざまな役を演じてきたが、「悪い役をやってみたい」という。
「後輩キャラとか、まっすぐで純粋な役が多かったので。“悪”にもちゃんと理由があるような、そういう人間を演じたいです。来年30歳になりますし、もう少し加減のある役、繊細な役をやっていきたい。そういう意味では、『そこにきみはいて』の健流はやってみたいと思える役でした」。その先には、迷いと向き合う姿がある。
□寛一郎(かんいちろう)1996年8月16日、東京都出身。2017年にデビュー後、同年に出演した映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で第27回日本映画批評家大賞の新人男優賞を受賞。翌年に公開された『菊とギロチン』では多数の新人賞を受賞した。近年の主な出演作に、映画『ナミビアの砂漠』(山中瑶子監督)、ドラマ『HEART ATTACK』、NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』NHK連続テレビ小説『ばけばけ』ほか、NHK100周年ドラマ『火星の女王』に出演。映画では『爆弾』(10月31日公開)、『ラストマン -FIRST LOVE-』(12月24日公開)。26年2月には『たしかにあった幻』(河瀬直美監督)、同年に『恒星の向こう側』(中川龍太郎監督)も待機している。
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