蒔田彩珠、現場に欠かせない“編み物の時間” 心を整え、演技に向き合える理由「考えすぎずにいられる」

俳優の蒔田彩珠は、映画『消滅世界』(監督・脚本:川村誠氏、公開中)で、性愛のない社会を生きる女性・雨音を演じた。人と人との関係や家族のかたちを問いかける作品に挑んだ彼女だが、現実の蒔田は家族や動物たちとの日常を何よりも大切にしている。23歳の俳優の自分らしい生き方とは――。

映画『消滅世界』に出演した蒔田彩珠【写真:舛元清香】
映画『消滅世界』に出演した蒔田彩珠【写真:舛元清香】

映画『消滅世界』で性愛のない社会を生きる女性・雨音を好演

 俳優の蒔田彩珠は、映画『消滅世界』(監督・脚本:川村誠氏、公開中)で、性愛のない社会を生きる女性・雨音を演じた。人と人との関係や家族のかたちを問いかける作品に挑んだ彼女だが、現実の蒔田は家族や動物たちとの日常を何よりも大切にしている。23歳の俳優の自分らしい生き方とは――。(取材・文=平辻哲也)

「私は母とすごく仲がいいんです。昔からずっとそうで、母が私の一番の理解者ですね」。子役時代から彼女を支え続けてきた母の存在を、蒔田は口にする。

「子役を始めた時も、母が現場に付き添ってくれていました。マネジャーさんみたいな感じでしたけど、『やりたいならやればいい』というスタンスで、無理にやらせることは一度もなかった。だからこそ、続けてこられたんだと思います」と笑顔を見せる。

 撮影のない日も母との会話は絶えない。

「家でもずっと話していますし、撮影で外にいても連絡を取り合っています。母とは信頼関係がすごく強いです」

 彼女にとって、母との関係は理想の家族像の原点でもある。「もし自分に子どもができたら、母と私のような関係になれたらいいなと思います。お互いに信頼し合って、対等に話せる関係が理想です」。

 撮影現場での必需品を尋ねると、「お母さんに教えてもらって始めた編み物です。無心になれます。昨日ニットが完成しました」と蒔田。現場での空き時間に黙々と手を動かしていると、心が整い、頭の中が静かになるという。「同じ動作を繰り返していると落ち着くんです。考えすぎずにいられる時間が好きですね」。その集中力は、演技にも生かされている。

 結婚観を聞くと、「まだ23歳ですから。考えたことはないです。ただ、母が一番上の兄を生んだ年齢には子どもを欲しいかなと考えたことがあります」。劇中では、アニメキャラクターに恋をする女性という難しい役どころにも挑戦した。「私はアニメを見ることはありますけど、恋愛対象として好きになる感覚はあまりなかったので、そこは想像で演じました」。

「まだ高校生、できます!」と笑った【写真:舛元清香】
「まだ高校生、できます!」と笑った【写真:舛元清香】

23歳の今は「年齢的にも挑戦の時期」

 そんな役を通じて、彼女自身が考えた“愛”のかたちもある。「人によって幸せの形は違うと思います。自分が大切にしたいと思う気持ちがあれば、それでいい。『普通』や『正しさ』にとらわれない方が、生きやすいと思います」。

 さらに仕事の幅も広がった。「いろんな役柄のお話をいただく機会が増えました。年齢的にも、挑戦の時期だと思います。これまでとは違うジャンルにもどんどん挑戦したいです」。

 その中で、今だからこそやりたい役もある。

「まだできるうちに高校生の役をいっぱいやっておきたいです。『消滅世界』では少し年上の役だったので、逆に若い役も演じておきたい気持ちがあります。まだ高校生、できます!」と笑った。

 作品を重ねるたびに表情が変わる俳優・蒔田。静かで控えめな口調の中に、確かな芯がある。「私は本当に周りの人に支えられてここまで来ました。母もそう。自分ひとりじゃ何もできなかったと思います」。家族、そして手仕事の時間――それらが、彼女の心を整えている。

□蒔田彩珠(まきた・あじゅ)2002年8月7日、神奈川県出身。是枝裕和監督のカンテレ・フジテレビ系連続ドラマ『ゴーイング マイ ホーム』(12)で注目され、映画『海よりもまだ深く』(16)、『三度目の殺人』(17)、『万引き家族』(18)など、是枝作品の常連として確かな存在感を放つ。初主演映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)で第33回高崎映画祭最優秀新人女優賞、第43回報知映画賞新人賞を受賞。『朝が来る』(20)では日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞した。その後もNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』(21)、TBS系連続ドラマ『妻、小学生になる。』(22)、NHK夜ドラ『わたしの一番最悪なともだち』(23)など話題作に出演。近年はNetflix映画『クレイジークルーズ』(23)、ドラマシリーズ『忍びの家 House of Ninjas」(24)、TBS系連続ドラマ『御上先生』(25)、読売テレビ系連続ドラマ『DOCTOR PRICE』(25)などにも出演し、幅広い表現力で注目を集めている。

ヘアメイク:辻村友貴恵
スタイリスト:小蔵昌子

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