結婚、我が子誕生…大貫勇輔、人生観を変えたターニングポイント「表現にも間違いなく影響」
ダンサーで俳優の大貫勇輔が、2026年3月に開幕するミュージカル『メリー・ポピンズ』に出演する。英ロンドン発の作品で、大貫は、18年の日本初演、22年の再演に続き、煙突掃除人のバート役に挑む。7歳でダンスを始め、17歳でプロダンサーとして数々の作品に出演。11年にミュージカルデビューし、今では舞台俳優として着実に躍進する。3度目の出演となるこの作品は転機ともいえる特別な舞台と語り、一方で現在2児の父となった私生活での変化も、いい影響を与えているという。

ミュージカル『メリー・ポピンズ』に3度目の出演
ダンサーで俳優の大貫勇輔が、2026年3月に開幕するミュージカル『メリー・ポピンズ』に出演する。英ロンドン発の作品で、大貫は、18年の日本初演、22年の再演に続き、煙突掃除人のバート役に挑む。7歳でダンスを始め、17歳でプロダンサーとして数々の作品に出演。11年にミュージカルデビューし、今では舞台俳優として着実に躍進する。3度目の出演となるこの作品は転機ともいえる特別な舞台と語り、一方で現在2児の父となった私生活での変化も、いい影響を与えているという。(取材・文=大宮高史)
P.L.トラバースの小説とウォルト・ディズニーによる同名の名作映画(1964年)を原作とした本作は、2004年に英ロンドンで初演され、日本には18年に初上陸した。舞台はロンドン。ある日、バンクス家に不思議な力を持つメリー・ポピンズが舞い降りると、魔法で次々に不思議なことを起こし、子供たちは大喜び。そんな中、父親のジョージに災難が降りかかり、本当の幸せとは何かを考える……という展開だ。大貫演じるバートは、メリーの知り合いで、メリーと共にバンクス家の子どもたちを魔法の世界に誘っていく。
今回、小野田龍之介、上川一哉とのトリプルキャストでバートを演じる大貫は、初演から3作続けてバートとして出演し、「真っさらな気持ちで向き合いたい」と語る。
「バートは労働者階級の人なので、泥くさいんです。それでいてエンターテイナーとしての華も持っています。この2つの柱を強く持って演じようと思います。できるならずっとこの作品には関わっていたいですね。いつかバートが厳しくなったら、今度は父親のジョージとして、この舞台に立っていきたいです」
そう熱く語り、笑顔を見せた。幼いころからダンスに打ち込んだ大貫が、俳優を志したのは、2011年、23歳の時に出演したミュージカル『ロミオ&ジュリエット』がきっかけだった。当時、セリフのない「死」を演じていたが、徐々に役者に惹かれていくことに。
「自分が世界で一番踊りがうまいと思っていて、ダンサーとしてとがりまくっていましたね(苦笑)。だから、突然歌ったり喋ったりするミュージカルは、むしろ苦手意識がありました。でも当時、ロミオ役の城田優さんと山崎育三郎さん(ダブルキャスト)の隣で踊っているうちに、自分自身も感動していたことに気づいたんです。僕もそちら側に行ってみたい、と強く思うようになって……。そしたら演出の小池修一郎さんから声をかけていただき、ミュージカル『キャバレー』のオーディションを受けて、クリフ役をいただきました。それが俳優としての第一歩になりました」

ミュージカル『北斗の拳』などでも主演、結婚で父に
その後は、日本のオリジナル作品でも存在感を発揮した。漫画『北斗の拳』を舞台化したミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』(21年・22年)では、持ち前の肉体美と身体能力で主人公・ケンシロウを好演。原作のイメージにも寄り添った。
「ケンシロウは個性がすごくあるので、なるべくそこに、まずビジュアルから寄せる、という努力をしました。その上で、彼は人の死やいろんなものを受け継いで完成していくキャラクターなので、共演者のエネルギーや芝居を正面から受け取って、応えていくことを大切にしていました」
今年10月に開幕し、歴史マンガを舞台化した『チ。-地球の運動について-』(11月30日の福岡公演で千秋楽)では、別のアプローチをとったという。
「原作をリスペクトしつつも、全く新しいものを作るぐらいの気持ちでした。キャラクターの外見を真似るのではなく、その人物が物語において『なぜ存在するのか』という核を大事にしました。同じ原作ものでも、演出家や作品のテーマによって、向き合い方は全然変わってきますので」
演じる人物の心情に向き合ってきたことで、自分の価値観も変わってきた。
「俳優はやっぱり、人の気持ちが分からないといけない仕事です。それまでの僕は、エゴイスティックな人間でしたね。若い頃は、とにかく言葉にならない感情を身体で発散させて踊っていました。舞台のお芝居を始めて、たくさんの人の支えがあって自分が舞台に立てるんだなと実感してきました」
2021年に元宝塚スターで俳優の沙央くらまと結婚し、父となったことも大きい。
「それまで本当の意味で理解していなかった『父性』というか、自分の子を愛するという感情を身をもって体験できて、自分の中で大きな変化が起こりました。それは俳優としての表現にも間違いなく影響しています。今、上演中の『ハリー・ポッターと呪いの子』(来年4月まで)では、父親となったハリーをさせていただいていますが、息子(アルバス・ポッター)に対するハリーの想いが、僕の胸にリアルに迫ってくるようになりました」
さらに、新しい家族を得たことで、働き方にも平安をもたらした。
「昔は不眠症になるくらい、家でも仕事のことばかり考えてしまっていました。でも、家族ができて、自分1人のリズムだけでは生きていけないと気づきました。それで、家では仕事のスイッチを完全に切ろうと決めたら、すごく楽になったんです」
そのルールで心身のバランスが整い、結果的に芝居への集中力も高まったという。そして何より、家族と過ごす時間の大切さを、日々感じている。
「子どもと一緒にいられる時間って、限られていますよね。あと何回、この子と一緒にお風呂に入れるんだろうな、何回保育園に送って行けるんだろうな、とか。そういう一つひとつの時間が本当に大切なので、ちゃんとこの時間を大事にしようとすごく思うんです」
最後に、改めて『メリー・ポピンズ』のバート役について聞くと熱く語った。
「この役をいただくまで、海外のスタッフが来日している限られた期間にオーディションを繰り返し行って、勝ち獲りました。それだけ時間をかけたからこそ、すごく深い思い入れがある役ですし、(3度目の出演にもなり)僕にとって人生の転機となるような作品でもあります。こんなハッピーでステキなミュージカルに携われて、本当に幸せです」
父となった今、これまで以上に人間味あふれる演技で、観客のハートをつかみそうだ。
□大貫勇輔(おおぬき・ゆうすけ)1988年8月31日、神奈川県出身。7歳からダンスを始め、17歳からプロダンサーとして活動。舞台と映像で出演を重ね、2011年に『ロミオ&ジュリエット』でミュージカルデビューした。その後、舞台では『キャバレー』(12年)、『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』(17年、20年)、『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』(21年)など話題作に次々と出演。23年6月からは東京・TBS赤坂シアターで上演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』にハリー・ポッター役で主演している。ドラマでも活躍し、フジテレビ系『ルパンの娘』のテレビシリーズ&劇場版(19~21年)、NHK大河ドラマ『どうする家康』(23年)などに名を連ねた。25年は、ドラマ『子宮恋愛』(読売テレビ)、舞台『チ。-地球の運動について-』などに出演。
ヘアメイク/松田蓉子
スタイリスト/立山功
衣裳協力/ジャケット\162,800-、シャツ\47,300-、パンツ\99,000-/Yohji Yamamoto POUR HOMME(ヨウジヤマモトプレスルーム tel 03-5463-1500)、ブーツ\83,600-/Y’s for men(ワイズプレスルーム tel 03-5463-1540)
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