「余命3か月」手術から6年再発なし 肝臓がんステージ4の格闘家がつかんだ“第二の人生”

ステージ4の肝臓がんから劇的な復活を遂げた格闘家・高須将大さん。現在はSNSで闘病経験を発信し、多くの患者に「生きる元気」を与えている。なぜ彼は「余命3か月」を乗り越え、新たな人生を歩み始めたのか。病と向き合い、自ら経営者として道を切り拓いた高須さんの“第二の人生”に迫る。

度重なる試練を乗り越えてきた
度重なる試練を乗り越えてきた

「余命3か月」からの復活…格闘家が明かす舞台裏

 ステージ4の肝臓がんから劇的な復活を遂げた格闘家・高須将大さん。現在はSNSで闘病経験を発信し、多くの患者に「生きる元気」を与えている。なぜ彼は「余命3か月」を乗り越え、新たな人生を歩み始めたのか。病と向き合い、自ら経営者として道を切り拓いた高須さんの“第二の人生”に迫る。(取材・文=水沼一夫)

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 24歳でステージ4bの肝臓がんと診断された高須さん。8時間に及ぶ開腹手術で腫瘍を摘出した2か月後に、再発と肺への転移が発覚した。その後も手術や再発を繰り返すこと数回、それでもリングを目指して復帰戦で勝利を飾るなど、数々の困難に打ち勝ってきた。

 がん患者にとって、病気をどこまで公表するかは大きなテーマだ。高須さんも当初は公表をためらった。「病気とは、あまり思われたくなかった」からだ。

 しかし、自分の経験が誰かの力になるならと、公表を決意。SNSでの発信を始めたのは、病と闘いながら寝技の大会で3位に入賞した時だった。

「がんの人で発信してる人がいて、その人に自分は結構勇気づけられていた部分があったので、自分も同じような存在になりたいなと思って」

 SNSには「たぶん世界一アクティブな癌患者だと思います」の文字も。悲壮感はなく、力強く前に進む姿が、同じような病と戦う人を奮い立たせる。コメント欄には、「勇気をありがとう」「再発=絶望する人が殆どなのに、克服しまくってる」「あなたのように強くなりたい」など、感謝の声が相次いでいる。

背中から針を入れる肺の手術は保険対象外だった
背中から針を入れる肺の手術は保険対象外だった

治療費は高額…思わぬ形で役に立った“偶然の保険”

 長期間にわたるがん治療には、多額の治療費がかかる。高須さんは肝臓がん、そして肺への転移を経験し、開腹手術、肝動注療法、塞栓術療法、抗がん剤など、過酷な治療に耐えてきた。

 さらに、肺の手術では当時は保険適用外のラジオ波焼灼療法を2回受け、1回目は50万円、2回目は90万円ほどの費用を支払った。

「総額は詳しく計算はしてないんですけど、結構したと思います」

 金銭的な不安が襲う中、高須さんを救ったのが、偶然加入していたがん保険だった。

「何も知らずに書類を提出して、そしたらがん保険に入ってて」

 振り返るのは、入社したての頃のこと。導入教育で手渡された書類が、がん保険の加入申込書だった。まだ高校を卒業したばかりだった高須さんは、「当時は(保険料の支払いが)もったいないなと思ってすぐやめてやると思ったんですけど、両親に相談したら入っといたほうがいいんじゃないと言われて」と語る。

 とりあえず継続していたその保険が、後に治療費の心配をすることなく最善の治療を受けることを可能にした。

開腹手術の傷跡も覆い隠す“鋼の肉体”
開腹手術の傷跡も覆い隠す“鋼の肉体”

闘病生活を経て一大決心「人生に後悔を残したくない」

 闘病生活は高須さんの人生観を大きく変えた。

 もともと重機製造会社で溶接作業をしていた高須さん。人に教えることが好きで、通っていた格闘技道場でもクラスを教える機会があり、「いつかそれを仕事にしたいなとは思っていたんですけど、安定した職を捨てて、ジムをやるのは無理だなと思っていた」と、起業を諦めていた過去を明かす。

 しかし、症状が落ち着いてきた頃、考え方が変わった。

「自分の人生に後悔を残したくないなっていうマインドに変わって。病気も安定してきたし、会社を退職してパーソナルジムを始めようと思いました」

 高須さんは茨城から東京へ拠点を移し、「運動を通した健康」をコンセプトにパーソナルジムの経営者として新たな人生を歩み始めた。体が変わったと喜ぶ顧客や、運動をきっかけに健康面に気を使うようになったという報告が、高須さんのやりがいとなっている。

 頭では分かっていても、前向きに生きることは難しいものだ。大病を患えば、人生について立ち止まることもある。

 高須さんは、好きなことをやり、ポジティブに生きることが、状況を好転させる可能性があることを訴える。

「闘病を通して、運動することで、精神的にも少し安定したし、助けられた部分がすごく大きかった」

 運動ががんを治したわけではないが、前を向くことができた。

「人によると思うんですけど、病気のことだけを考えてしまうと、ネガティブなことばかり考えてしまう。自分の好きなことに目を向けてあげると、少し闘病に対する気持ちとか、そういうのも変わってくる」

 何もしていない時、一人でいる時は病気のことを考えて泣いてしまうこともあったが、運動している時、格闘技をやっている間は考えなかった。練習が終わった後は晴れやかな気持ちになれた。

リハビリ中は気分転換も図った
リハビリ中は気分転換も図った

最後の手術から6年がんの再発なし…次なる夢も

 運動と並ぶ趣味が旅行だ。治療と平行し、一人で沖縄に行ったり、タイに行ったりもした。ゲストハウスに泊まっての旅が、気分転換になった。

 最後の手術を受けてから6年以上が経過した。再発はない。高須さんは今日も道場で汗を流し、ジムで顧客と向き合っている。

 経営者として、ジムの目標も明確だ。

「自分のジムを大きくして、たくさんの人に運動を通して健康を手に入れてもらいたい。運動がもっと当たり前になるような土台を作れるようなジムにしていきたい」

 そして、個人の目標も尽きない。

「格闘技と仕事が落ち着いたら、全国を回ったり、ちょっと世界に旅に出たいな」

 何度も口にしたのは「自分の人生に後悔を残したくない」という思い。

 その言葉通り、高須さんは今、全力で生きている。

□高須将大(たかす・そうた)1993年7月29日、茨城・稲敷市出身。小学校から高校まで野球に打ち込む。2012年、格闘技道場に入門。16年にプロデビュー。翌年3月にプロ初勝利。戦績は10勝5敗3分け。22年、東京・秋葉原にパーソナルジムを開業する。ユナイテッドジム東京所属。ブラジリアン柔術茶帯。得意技はテークダウン、ギロチンチョーク。168センチ、65.8キロ。

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