松本幸四郎&中村隼人『女殺油地獄』Wキャスト 殺しの場面は「快楽感じる」「美しく」
歌舞伎俳優の松本幸四郎と中村隼人が26日、東京・中央区の歌舞伎座で行われた「令和8年1月歌舞伎座『壽 初春大歌舞伎』夜の部『女殺油地獄』」の取材会に出席した。2人はダブルキャストで主人公の河内屋与兵衛を演じる。

隼人、幸四郎はパワフルすぎて困る?「もうちょっと落ち着いて」
歌舞伎俳優の松本幸四郎と中村隼人が26日、東京・中央区の歌舞伎座で行われた「令和8年1月歌舞伎座『壽 初春大歌舞伎』夜の部『女殺油地獄』」の取材会に出席した。2人はダブルキャストで主人公の河内屋与兵衛を演じる。
『女殺油地獄』は、江戸・元禄時代に活躍した近松門左衛門の名作。大阪の油屋の放蕩息子・与兵衛が、借金返済のためになじみの人妻・お吉を惨殺し金品を奪う物語。実際に起きた事件をもとに描いたとされる。クライマックスの殺しの場面は油にまみれながらの立ち廻りで大きな見どころとなっている。今回はAプロとBプロに分け、幸四郎がAプロで、隼人がBプロで与兵衛を勤める。
幸四郎は放浪癖があり殺人まで犯してしまう与兵衛という人物について、「病気とかではなく、人間だと思っています。『本能のまま生きられる男』という風に僕は解釈していて。ある意味、舞台の上でしか、フィクションの中でしか生きられない人物。でもどこかには憧れもあるというか、踏み込んではいけない世界に踏み込んでいる男だと思っています」と分析。「何をやるにも本気なんですよね。100パーセント。嘘つくのも本気。遊ぶ時も本気。それが与兵衛だと思ったんですね。有名な殺し(の場面)に至るまでの人間ドラマを、大事に作り上げていきたいなと思っています」と意気込んだ。
2024年3月に京都・南座で初めて与兵衛を勤めた隼人は、「(片岡)仁左衛門のおじ様に教えていただいて勤めてから、こんなに早く再演をさせていただけるとは思ってもみませんでした」と喜んだ。「この『女殺油地獄』は現代にも通ずるものがある作品。近松門左衛門が作った時にはかなり前の作品ですけども、現代でもこういう突発的な事件があり、若者の心の葛藤や苦悩みたいなものは、通ずるものがあると思います」と共感。「だからこそ、現代っぽくもできてしまう作品ですが、義太夫が入っている狂言なので、しっかりと義太夫節も意識しながらやりたい」と語った。また「わたくしは東京の役者ですので、意識することがたくさんある。イントネーションから何から何まで、当たり前ですけど関西弁や“関西の匂い”でなきゃいけない」と難しさも明かした。
与兵衛といえば片岡仁左衛門の当たり役。2人ともこれまで仁左衛門から与兵衛役を学んできた。隼人は「おじ様は、『お吉と与兵衛は恋仲ではない』『昔は近所に、世話焼きのお姉さんやおばちゃんがいっぱいいたんだよ』とよく言っていて、『俺に習うからには、“恋人”っぽく見えないようにやってほしい』と伝えられました」とアドバイスを明かした。「初めて見るお客さまは、『お吉と与兵衛のどちらかが気があるんじゃないか』と見てしまうかもしれませんが、そうではない。与兵衛は非常に薄っぺらい人物で、その時その時で発してしまう言葉は全て本気。そこに矛盾があるからこそ面白いというか、魅力的な男なのかなと思っています」と与兵衛の魅力を語った。
有名な殺しの場面の心境について幸四郎は、「最初はもうブルブル震えながら、なかなか相手(お吉)を見られず、離れよう離れようって思っているのに、それがだんだんだんだん、(殺しに)快楽というのを感じていく」と与兵衛が狂っていくさまを明かした。「(仁左衛門から)形(かた)の美しさを教えていただいた。お吉を切ろうとする時や、パッと振り向く時のシルエットや形もキレイに見えるようにと言われたので、すごくち密にあの与兵衛を作り上げたあの方(仁左衛門)なりの美学がある」と語った。
12月も近づき、1年の振り返りを問われた幸四郎は、「今年は1月の歌舞伎座が『大富豪同心』で、新作歌舞伎から始まって、本当にたくさん新作歌舞伎を経験した年です。すごく出会いと刺激を受けた年だったなと思います」と思い返した。隼人は意欲的な幸四郎に、「後輩としてはね、こういうパワフルな方がいると困るんですよね(笑)。もうちょっと落ち着いてほしいなと。(こちらの)ハードルが上がり続けるんですよ(笑)」と報道陣を笑わせた。
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