吉高由里子「無意識の暴力がある」 初タッグの蓬莱竜太氏による舞台作は…描くSNS時代の光と闇【対談・前編】

吉高由里子主演、蓬莱竜太氏作・演出の舞台『シャイニングな女たち』が、12月に東京、来年1月に大阪、福岡、長野、愛知で上演される。大学時代の過去と社会人となった現在とを行き来しながら、人間関係のもつれ、SNS時代の光と闇を描く女性たちの群像劇。「蓬莱作品には心がえぐられる」と表現する吉高と「強さとしなやかさを吉高に感じる」と話す蓬莱氏が初タッグを組み、どんな物語が紡ぎ出されるのか。ENCOUNTは、2人が同作への思いを語り合った対談を2回に渡ってお届けする。今回は「前編」。

対談した吉高由里子(左)と蓬莱竜太氏【写真:増田美咲】
対談した吉高由里子(左)と蓬莱竜太氏【写真:増田美咲】

舞台『シャイニングな女たち』に主演

 吉高由里子主演、蓬莱竜太氏作・演出の舞台『シャイニングな女たち』が、12月に東京、来年1月に大阪、福岡、長野、愛知で上演される。大学時代の過去と社会人となった現在とを行き来しながら、人間関係のもつれ、SNS時代の光と闇を描く女性たちの群像劇。「蓬莱作品には心がえぐられる」と表現する吉高と「強さとしなやかさを吉高に感じる」と話す蓬莱氏が初タッグを組み、どんな物語が紡ぎ出されるのか。ENCOUNTは、2人が同作への思いを語り合った対談を2回に渡ってお届けする。今回は「前編」。(構成=Miki D’Angelo Yamashita)

吉高「蓬莱さんの作品、『悲しみよ、消えないでくれ』『死ンデ、イル』2作品を連続して拝見して、グワッと心が持っていかれたんです。自分の肉が硬くなる感覚というか、緊張が走るのかストレスなのか、ギュッとなる感じがあって、誰とも共有できない感覚なんですよ。いつも見終わった後、心のウズウズがうずまく言語化できない感覚に襲われます。いい意味で自分が傷つけられたというか、爪痕がつけられたというんですかね。そういう初めての感覚があって、観劇させていただくだけで満足でしたが、『一緒に作品を作ることができる時がくれば』と願ってしまいました」

蓬莱「吉高さんの演じた役の中で印象的だったのは、『赤毛のアン』の日本語翻訳者である村岡花子の半生を描いたNHK朝ドラ『花子とアン』の安東はな役でした。吉高さんの存在感は、どの作品の中でも『すっ』としてるんですよ。演じることをいい意味で高尚なものと捉えていない。そういう雰囲気がとても好きで、そのシンプルな姿から逆にいろいろな情報をもらえる。そんな俳優さんは珍しいですね」

吉高「出会う人と出会わない人の確率を考えると、出会えない軌道にいる2人の方がこの世には多いですよね。だから、あれほど圧倒的なインパクトを与えられた蓬莱作品に出演することに『なってしまった』という驚きがあるんです。ハングリー精神がある役者ではないので(笑)、願ったり叶ったりする経験が普段あまりないのですが、今回、『叶ってしまった』ということがうれしくもあり、恐ろしいことでもあります」

蓬莱「この作品では、日常がむしばまれて、焦燥感とか不安にさいなまれる状況にいる主人公にシンパシーを感じてもらえるように描きたいんです。『不幸ではないけれども、何もない』という状態の渇きを吉高さんに演じてもらいたい。吉高さんの素敵なところは、悲壮感があるような状況でも、どこかにちょっとユーモアの匂いがあるんですよね。吉高さんの芝居は、この作品を重たいものにさせすぎない。吉高さんとタッグを組めるのは光栄ですし、ワクワクします」

吉高「蓬莱さんの作品の魅力は、ちゃんと傷つくところです。自分の中で酸化していた感覚を呼び戻されるようで、苦しい時もありますけど、ハッとさせられるというか、気づかされる部分の方が多くて、私にとって魅力的な刺激になります」

蓬莱「吉高さんに演じていただく役は、大学時代、フットサル部のキャプテンとして輝く青春を過ごしていた。それが社会人になってから、知らない人のお別れの会に出席してビュッフェを食べることを繰り返す。いわば闇に落ちていく女性です。この設定を思いついたのは、知らない人のお別れの会でビュッフェを食べる人が実際にいるという話を聞いたことがあって、『そんな人がいるんだ』と驚いたのがきっかけです。ある日、お別れの会にビュッフェを食べに行ったら知人の式だったのに、自分は呼ばれてない。それを知ってがく然とする。そんな状況を吉高さんに演じてもらうと、『面白いのではないか』というイメージが湧きました」

吉高「この設定は『リアル』だったんですね。プロットだけ見た時、昔、同級生が亡くなった経験を思い出しました。その同級生と話をしたのは3回あるかないかでしたが、お葬式には出席したんです。そうしたら、泣けてきたんです。目の前に魂が抜け落ち、肉体だけあるという現実と自分は生きているという実感。もうこの世にいない肉体と対峙している。そんな奇妙な感覚を経験したことを思い起こしました。こういう風に忘れていることをいきなり思い出させようとする。蓬莱作品には無意識の暴力があるんですよ」

蓬莱「吉高さんは非常に素直な演技をされる方という印象が常々ありました。その芝居が魅力的だと思っていたので、その魅力を人に迷惑をかけている役で発揮してもらいたい。それこそ、無意識の暴力みたいなもの。本人は気づかないまま『よかれ』と思って発露している。そこが吉高さんの持ち味と合致すると、新しい面白さがキャラクターとして出てくるのではないかという気がしています」

3年ぶりの舞台出演への思いを語った吉高由里子【写真:増田美咲】
3年ぶりの舞台出演への思いを語った吉高由里子【写真:増田美咲】

吉高が感じた面白さ「人には言えない部分」

吉高「人に迷惑かけそうな俳優代表ということなのか(笑)」

蓬莱「そうじゃないですよ(笑)。毎回ビュッフェを食べに行く行動の意味は、闇に落ちていくというより、そうせざるを得ないという気持ちが、ふっと差し込まれてしまった精神状態です。そこから物語を展開させていけないかと、ひらめいたんです。フットサルの女子チームという設定にしたのは、一丸となって一つのものを成し遂げるスポ根の隣にある現実の世界がかい離しているからでした。そういうギャップ。スポ根とすごく痛みのある精神状態がエンターテイメントとして混じらないか、この作品で挑戦してみたいという思いがありました」

吉高「フットサルをやってビュッフェを食べる役(笑)。人間って同じようなことをやっている人はいないじゃないですか。誰しも人が知らない部分があると思うし、人には言えない部分もあるとは思う。その多面的な感じが面白いですよね」

蓬莱「その対比みたいなものを『面白く書けたらいいな』と考えました。それと、フットサルの動きは、演劇的にインパクトがある気もしました。スポ根とその後に社会に出た人たちの現実と、演劇のフットサルの動きが入り混じりながら、エンターテイメントとして楽しんでもらうことができたらいい。そんな意図があって題材を選びました」

吉高「フットサルはやったことがないので、どうやって覚えていけばいいんだろう。ボールを実際に蹴るのか、プロジェクションマッピングなのか。もう、アラフォーなので、あまりキツイ動きはない方がありがたいです(笑)」

□吉高由里子(よしたか・ゆりこ) 1988年7月22日、東京都生まれ。2006年、映画『紀子の食卓』でスクリーンデビュー。08年には映画『蛇にピアス』で初主演を務め、日本アカデミー賞新人俳優賞に輝いた。NHK連続テレビ小説『花子とアン』、TBS系連続ドラマ『最愛』など多くの話題作で主演。24年には、NHK大河ドラマ『光る君へ』で主演。『シャイニングな女たち』は、22年10月の『クランク・イン!』以来3年ぶりの舞台出演となる。

ヘアメイク 中野明海
スタイリスト 申谷弘美

<パルコ・プロデュース2025『シャイニングな女たち』>

作・演出:蓬莱竜太
出演:吉高由里、さとうほなみ、桜井日奈子、小野寺ずる、羽瀬川なぎ、李そじん、名村辰、山口紗弥加 (敬称略)

<物語>
 金田海(吉高由里子)は、社会人として働く傍ら、他人のお別れの会に紛れ込み、ビュッフェを食べて帰るという行為を繰り返していた。

 ある日、入り込んだお別れの会の会場で金田は偶然見覚えのある顔たちに出会う。それはかつて自分がキャプテンを務めていた大学時代の女子フットサル部の仲間たち。親友の山形圭子(さとうほなみ)の姿。敵視していた顧問の川越瑞希(山口紗弥加)の姿まであった。

 遺影は同じピッチに立っていた後輩・白澤喜美(桜井日奈子)の姿だった。「私はなぜ、呼ばれていないのか」。お別れの会の会場と輝いていた大学時代が交錯していく。その輝きは本当の輝きだったのか。

<日程・会場>
12月7日~28日 東京・PARCO劇場
1月9日~13日 大阪・森ノ宮ピロティホール
1月16日~18日 福岡・福岡市民ホール 中ホール
1月24、25日 長野・サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホール
1月29日、30日 愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール

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