古舘伊知郎、71歳目前も「売れたい、モテたい、ウケたい」 老いと共に実感する“業の深さ”
12月7日、東京・EX THEATER ROPPONGIを皮切りに、3年ぶりのトークライブ『トーキングブルース2025』(2026年3月まで全国ツアーを予定)を開催するフリーアナウンサーの古舘伊知郎。70歳を迎えてなお、言葉は衰えを知らないが、ときに“出てこない”こともあるという。そんな彼が語る、老いとの向き合い方、そして人生の転機とは――。

「衰えるのは当たり前」独特な健康法も明かす
12月7日、東京・EX THEATER ROPPONGIを皮切りに、3年ぶりのトークライブ『トーキングブルース2025』(2026年3月まで全国ツアーを予定)を開催するフリーアナウンサーの古舘伊知郎。70歳を迎えてなお、言葉は衰えを知らないが、ときに“出てこない”こともあるという。そんな彼が語る、老いとの向き合い方、そして人生の転機とは――。(取材・文=平辻哲也)
「もうすぐ71になりますからね。衰えるのは当たり前ですよ。『あれ、なんだっけ』『誰だっけ』ってことは日常茶飯事です」
しゃべることを生業にしてきた古舘は、老いによる“言葉の鈍化”さえ観察対象にしている。
「僕は悲しいけど理屈で原因を探るタイプなんです。原因を突き止めたら、それをネタにして笑いに変えちゃう」
出てこない名前には“傾向”があるという。例に出すのはハリソン・フォードとキャメロン・ディアスだ。
「ハリソン・フォードが出てこなくてね。原因は“ジョージ・ハリスン”なんですよ。『ハリソン』が名前の最初に来る記憶が強すぎて、苗字としての“ハリソン”が出にくくなってた」。他にも「キャメロン・ディアス」が出てこなかった理由は「ジェームズ・キャメロン」だという。「混乱してたんですね。でも理屈で理解してからは寛解しました。努力です」。
古舘は「脳の倉庫の前には門番がいる」と言う。
ある日、歌舞伎俳優・中村芝翫に道端で出会い、あいさつをした。隣の友人が「三田佳子の旦那だろ」と口にした瞬間、古舘の脳は“誤情報”を採用した。「いや違う、『三田寛子』ですよ(笑)。でも間違った“寛子”が3日間出てこなかった」。
人間の脳は“間違いを喜んで覚える”のだという。「脳は“言葉の不倫”を楽しむんです。間違った記憶を恋してるみたいに大事に抱える。だから『寛子』が出てこなかった」。その経験から、古舘は「思い出せない時は我慢する」と決めている。「すぐググらない。3回のうち2回は我慢。寝かせておくと、3日目ぐらいにポンと出てくる。脳が喜んでるのが分かるんです」。

姉の死が導いた仏教の視点「思い通りにならないことこそが人生」
健康法も独特だ。
「ジムに行くとかじゃないですね。筋肉をつけるより、減っていく角度を緩やかにする。お酒は飲みます。ただタバコはやめました。週2でビーガンもやってます」
ただ本人いわく「修行ごっこのビーガン」だ。「ビーガンは思想だから、週2なんて意味ない」と笑う。もうひとつが「おいしいものリバウンド」だ。「前日においしいものを食べたら、翌日はまずいものを食べるんです。嫌いなものをあえて選ぶ。おいしいものって、“まずいもの”が下支えしてる。人生もそう。波です。善悪の彼岸過ぎですよ」と笑う。
時折、仏教の言葉も織り交ぜるが、仏教は生きる指針になっている。きっかけは1991年、30代後半、6歳年上の姉をがんで亡くしたことだった。
「姉が病気で亡くなって、両親の悲しみを見ました。そこから“生きるとは何か”“死ぬとは何か”を考えるようになりました。釈迦は“人生は思い通りにならない”と説いた。息を吸っても、いずれ吐かなきゃいけない。それすら苦しみ。思い通りにならないことこそが人生なんです。花も同じ。蕾が咲いた瞬間、もう散り始めている。生きることは、死ぬことと同義なんです」
ただ、理屈で分かっていても、欲望は消えないと笑う。「売れたい」「モテたい」「ウケたい」という気持ちは今も強い。
「それを“業の深さ”と呼ぶんです。僕は、悟れないまま死んでいくと悟った。それが僕の仏教なんです。そして、それこそが僕のブルース。仏教的な“悟れなさ”と、しゃべり手としての欲望。その矛盾こそが僕のトーキングブルースなんです」。言葉に生かされ、言葉に苦しみ、そしてまた言葉へ戻っていく――。古舘伊知郎の“トーキングブルース”は、終わらない。
□古舘伊知郎(ふるたち・いちろう) 1954年12月7日生まれ、東京都出身。立教大を卒業後、77年、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。「古舘節」と形容されたプロレス実況は絶大な人気を誇り、84年にフリーとなった後、F1などでもムーブメントを巻き起こし「実況=古舘」のイメージを確立する。一方、3年連続で『NHK紅白歌合戦』の司会を務めるなど、司会者としても異彩を放ち、NHK+民放全局でレギュラー番組の看板を担った。その後、テレビ朝日系『報道ステーション』で12年間キャスターを務め、現在、再び自由なしゃべり手となる。
□『トーキングブルース2025』公演概要
12月7日(日)東京・EX THEATER ROPPONGI(開場15:00/開演16:00)
2026年
1月18日(日)福岡・Zepp Fukuoka
2月12日(木)愛知・Zepp Nagoya
3月7日(土)大阪・Zepp Namba
3月20日(金・祝)神奈川・KT Zepp Yokohama
主催/古舘プロジェクト
制作/テレビ朝日ミュージック
協力/MBSテレビ(大阪公演)
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