古舘伊知郎、『報ステ』で言葉が出なかった瞬間 20秒の生き地獄「5分くらいに感じた」

フリーアナウンサーの古舘伊知郎が12月7日、東京・EX THEATER ROPPONGIを皮切りに3年ぶりのトークライブ『トーキングブルース2025』(2026年3月まで全国ツアーを予定)を開催する。同イベントは1988年から始まったライフワークで、台本なし、約2時間しゃべりっぱなしのトークライブだ。古舘が今、語りたいこととは?

インタビューに応じた古舘伊知郎【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた古舘伊知郎【写真:ENCOUNT編集部】

3年ぶり『トーキングブルース』開催へ

 フリーアナウンサーの古舘伊知郎が12月7日、東京・EX THEATER ROPPONGIを皮切りに3年ぶりのトークライブ『トーキングブルース2025』(2026年3月まで全国ツアーを予定)を開催する。同イベントは1988年から始まったライフワークで、台本なし、約2時間しゃべりっぱなしのトークライブだ。古舘が今、語りたいこととは?(取材・文=平辻哲也)

 トーキングブルースの始まりは約39年前。現在の事務所会長から提案された。その時に感じた思いを今もはっきりと覚えている。

「当時は『楽しくなければフジテレビじゃない』という時代です。僕は逆に、『いい時だけのフジテレビ』だと思ったんです。これはフジテレビだけでなく、NHKも含めて、テレビっていうのは何も変わってない。いい時だけを映すテレビ局だと思うんですよ。だから局に所属している時は仕方ないけど、フリーになったからには軸がないといけない。それが“トーキングブルース”になると思ったんです」

 1988年にスタートし、2004年の『報道ステーション』MC就任まで16回にわたり開催。その後10年の沈黙を破り、14年に一夜限りの復活を遂げ、20年、無観客での再始動を経て、21年には全国ツアーへと発展させた。その中で一貫しているテーマがあるという。

「昔『水曜スペシャル』でフィリピン奥地の首狩り族を取材したことがあるんです。赤痢に侵されながら、フィリピンの奥地で実況しました(笑)。その時、通訳を通して、『あなた方は幸せですか?』と聞いたんです。そしたら、『その質問には答えられない』と言われた。なぜかというと、『私たちには“幸福”の反対の“不幸”という言葉がない』からだと。その時、『言葉があるから苦しみも生まれるんだ』と思った。だから“言葉を持った人間の哀しみ”というのは、ずっと続くテーマなんです」

 25年は、まさに“言葉の価値”が試された1年だった。

「今年の大きなテーマはまず政局ですよね。大転換期だと思う。多党制の時代に入ったんだと思います。今、オールドメディアと呼ばれる新聞やテレビも、自分が長くいたからこそ分かるんですけど、どうしても“自民を軸にどこが連立するか”っていう話ばかりしている。でも、それっておかしい。なぜ自民を軸に考えるのか。右に振れたり左に振れたりしてるけど、今は液状化の時代だと思う。誰が正しいか分からない。軸がない」

自分を成長させた『報道ステーション』時代の出来事とは【写真:ENCOUNT編集部】
自分を成長させた『報道ステーション』時代の出来事とは【写真:ENCOUNT編集部】

小川彩佳アナへの“課題”「僕が意地悪でやったと思ってるかも(笑)」

 今はAIが言葉を操る時代にもなっているが、人間の傲慢が剥がれ落ちるのを感じている。

「これまでは、『人間が一番賢い』と思っていた。でも、もうそうじゃない。AIの方が速いし、正確。人類史上初めて、“自分より頭のいい存在”と出会ったんですよ。これ、すごいことです。だから、『トップでいなきゃいけない』っていう幻想を手放す時代なんです。僕らは“2番であること”を受け入れなきゃいけない。そういう意味で、蓮舫さんの『2番じゃダメなんですか?』って言葉は、今になってすごく深いかもしれない」

 取材でも、淀みなく話す古舘だが、50代後半だった『報道ステーション』(テレビ朝日系)時代、言葉が出なかった瞬間があった。それは、政治に関する古舘の発言について自民党から抗議を受けて、訂正・陳謝するというものだった。その原稿は政治部を交えて、作り上げたものだったが、番組のプロデューサーでもあった事務所の会長から、わざと放送寸前に手渡された。

「謝るべきところはもっときちんと謝り、譲れないところは、はっきりと譲れないと言わないとダメだ、ということだったわけですが、原稿は赤字だらけで読めない。大意はつかんでいるから、自分の言葉で話せると思っていたのに、言葉が出ない。こんなことは初めて。何もネタがなくても話せると調子づいていたのですが、絶句してしまった。実際には20秒くらいだったけれども、体感では5分くらい。本当に生き地獄でしたが、これは自分を成長させる出来事になりました」

 実は当時、『報道ステーション』でサブキャスターを務めていた小川彩佳アナ(現『NEWS23』メインキャスター)に良かれと思い、同じようなことをやったことがある。

「彼女ももっと自分の言葉で話したい、というものだから、それをやるには本番が一番いいと思って、CM明けに赤字だらけの原稿を読んでもらった。やっぱり、彼女も5秒くらい黙ってしまって、反省会では『全然話せなかった』と言っていましたが、僕は『あれがいいんだよ』と言いました。でも、僕が意地悪でやったと思っているかも(笑)。今度会ったら、ちゃんと謝りたい」

 トーキングブルースでは、思いの丈をすべて吐き出すつもりだ。

「僕の心にはまだ青年がいる。何に対しても欲深。女性にモテたいとか、もっとアナウンサーとして名前を売りたいとか。もっと面白いしゃべりでウケを狙いたい。まだ思い残しがあるんです。肉体はよぼよぼ。70を超えると体の不調がいっぱい出て、1時間もしゃべると手が痺れますし、軽い酸欠にもなります。20代のプロレス実況、F1実況の頃の体は冬場の寒い時でもアイドリングもしないでエンジンかけた瞬間に急発進してもちゃんと燃費よく走った新車だったんですけど、今はガタガタの中古車です。でも気持ちはオラオラでいたいんですよね。しゃべりながら死ぬぐらいが理想ですね」

 そう笑った古舘の言葉には、今なお燃え続ける現役の情熱が宿っている。

□古舘伊知郎(ふるたち・いちろう) 1954年12月7日生まれ、東京都出身。立教大を卒業後、77年、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。「古舘節」と形容されたプロレス実況は絶大な人気を誇り、84年にフリーとなった後、F1などでもムーブメントを巻き起こし「実況=古舘」のイメージを確立する。一方、3年連続で『NHK紅白歌合戦』の司会を務めるなど、司会者としても異彩を放ち、NHK+民放全局でレギュラー番組の看板を担った。その後、テレビ朝日系『報道ステーション』で12年間キャスターを務め、現在、再び自由なしゃべり手となる。

□『トーキングブルース2025』公演概要
12月7日(日)東京・EX THEATER ROPPONGI(開場15:00/開演16:00)
2026年
1月18日(日)福岡・Zepp Fukuoka
2月12日(木)愛知・Zepp Nagoya
3月7日(土)大阪・Zepp Namba
3月20日(金・祝)神奈川・KT Zepp Yokohama

主催/古舘プロジェクト
制作/テレビ朝日ミュージック
協力/MBSテレビ(大阪公演)

公式サイト:https://talkingblues.jp/

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