「普通に仕事してられんよ、これ」 クマと鉢合わせ、命懸けの果樹園…本音吐露「一定数の駆除は仕方ない」

全国で最悪レベルのクマ被害が続く中、果樹園農家が食害だけでなく、収穫時などにクマに遭遇する危険にさらされている。山形・大江町で果樹園を経営する30代の男性は、リンゴの収穫作業を終えた帰り際にクマと鉢合わせした。「心臓がバクバクでした」。8月から食害が出始め、今年は緊急で電気柵を設置。費用負担も増大しており、頭を悩ませているという。「恐怖を感じる」中での収穫作業。命懸けの仕事が続いている。

収穫終わりにクマと遭遇した恐怖の場面【写真:本人提供】
収穫終わりにクマと遭遇した恐怖の場面【写真:本人提供】

8月に起きていた危険な兆候 「よっぽど山に餌がないんだろうな」

 全国で最悪レベルのクマ被害が続く中、果樹園農家が食害だけでなく、収穫時などにクマに遭遇する危険にさらされている。山形・大江町で果樹園を経営する30代の男性は、リンゴの収穫作業を終えた帰り際にクマと鉢合わせした。「心臓がバクバクでした」。8月から食害が出始め、今年は緊急で電気柵を設置。費用負担も増大しており、頭を悩ませているという。「恐怖を感じる」中での収穫作業。命懸けの仕事が続いている。

 10月29日の夕方。クマを警戒して日暮れ前に収穫を終え、農園から隣接する道路に出たところ、黒い影が目に入った。大きな個体のクマだった。

「近隣でも出没情報があったので、早めに帰ろうと思って電気柵の周りを点検して、農園脇の道路に出た時でした。ツキノワグマだと思います。30メートルくらいの距離でした。向こうが気付く前にこちらが気付けたので、急いで車まで退避して、動画を撮りました。見つけた瞬間は心臓がバクバクで、とにかく車まで退避しなきゃと、その一心でした。帰り際だったので丸腰でしたし、あの大きさだと、襲われたら実際は何もできないだろうなと。その怖さを感じました」。当日の生々しい状況を振り返る。

 学生時代に農業を志し、大学の農学部を卒業後、ドイツの果樹園に1年間留学。農業関連会社に勤務したのち、妻の実家がある大江町で新規就農。2.5ヘクタールの果樹園を経営し、夏はモモ、秋はリンゴとラ・フランスを育てて7年目になる。

 男性は今回、自身のSNSアカウント(@freude_kajuen)で、緊迫の様子を動画と共に報告。クマが両脇の農園を何度ものぞきながら、道路をのっそりと歩く様子が映し出されている。

「リンゴの玉回ししてて、そろそろ暗くなってきたから帰ろうと思ったら、30mくらいの距離にいてマジでビビった…ちょっと普通に仕事してられんよ、これ」。心の叫びをつづった。

 一歩間違えば命の危険が及んだ出来事。「気をつけて下さい 今は何処にでも熊います 命が大事!」「襲われなくてよかったです」「怖すぎますね。この距離でこっちに走って来られたらと思うと…」「コレは怖い ホントおちおち仕事も…ですが、生活かかってますものね…どうかご無事な毎日を過ごせます様にお祈りします」「他人事じゃないです。無事でよかった」など、心配の声が数多く寄せられた。

 実はこの日が初めてではなく、今年4回目の遭遇だった。過去3回は夜に車で見回っている中でクマを目撃した。男性は今年の“異常事態”について説明する。

「8月からモモの食害が出始めました。秋口からリンゴの木も5本が被害に遭いました。猟友会の方々から教えていただいたのですが、基本的にクマは手の届くところから実を取って食べて、それでも足りないと木に登ります。座って食べる習性があるので、木の上で枝をバキバキに折って『クマ棚』を作ります。そのために果樹を育てる枝がやられてしまうんです。2年前もクマは多く出て、うちの農園でもわなに1頭掛かりました。それでも、今年ほどではなかったです。明らかに違うのは、8月にスモモが食べられたこと。ベテランの農家さんたちは『今までになかった』とおっしゃっていて、地元では『よっぽど山に餌がないんだろうな』という話になっています。食害が広範囲になったため、今年はみんな急いで電気柵を買って設置するようになりました」

大事に育てたリンゴの食害被害も起きた【写真:本人提供】
大事に育てたリンゴの食害被害も起きた【写真:本人提供】

「人的被害がこれ以上出ないように、一定数を駆除することは仕方ない」

 食べられたモモは200キロ、リンゴも200キロの被害を受けた。生産量全体から見れば数パーセントだが、今年は例年になく、対策に苦慮しているという。

「急いで電気柵を導入しました。説明書を見ながら自分で設置しました。慣れればそれほど時間はかかりませんが、負担にはなっています」。電気柵の設置費用は現状、約20万円ほどになっている。さらに、電気柵が設置できない場所には、夜通しでバッテリー式のラジオを置いて音を流したり、エンジン式の草刈り機を一晩中動かしたりと、あの手この手でクマ対策を講じているとのことだ。

 それでも、収穫中の心配は絶えない。「ラジオを大きな音でつけて作業するようにしています。でもクマも学習していて、離れた場所ですが、ラジオをつけているところにもクマが来たという話を聞きました。電気柵を突破してきたクマもいるという報告も上がっています。作業中は周りをよく見るようにしています。恐怖心はあります」と心境を明かす。

 クマに襲われる死者が相次ぎ、社会問題になっているクマ被害。クマの駆除や対処法を巡って議論が起こっていることも確かだ。男性は「いろいろな意見があると思います。クマの多発にはさまざまな要因があると思いますが、やっぱり人が里山から離れていったことが大きいのではないかと考えています。私がここに移り住んできた7年前と今とで、状況が大きく変化しています。70代、80代の方が若い頃は、山に入って山菜や木の実を取るのが普通だったそうですが、今は人が山に入らなくなって、耕作放棄地も増えてきました。そうした積み重ねで、クマの行動範囲が人に近くなってきたことは確実だと思います。田舎で生きている身として、思うことがあります。むやみにクマを殺したいわけじゃないです。でも、人的被害がこれ以上出ないように、一定数を駆除することは仕方ないと考えています」。複雑な表情を浮かべながら、心の思いを語る。

 クマ出没地域の果樹園や農地では今も、恐怖と隣り合わせの収穫・栽培作業が続いている。そんな現実がある。男性の果樹園ではリンゴの収穫作業は11月いっぱいまで続く。

 男性は「長期的に見ると、山に人が入らなくなり、地方が過疎化しているから、こういうことになっているのではないでしょうか。例えば、(クマのエサとなる)ブナの実が凶作になれば、同じことがまた起こると思います。そこを根本的に考え直して、みんなでアイデアを出して解決策を考えていければ。そう願っています」。真剣なまなざしを送った。

次のページへ (2/2) 【動画】果樹園農家が巨大クマと鉢合わせした決定的瞬間
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