“トー横”人間模様を舞台化 宮崎秋人らが語る若者の孤独や生きづらさ 歌舞伎町の住人から率直な質問

俳優・宮崎秋人が主演する舞台『Too Young』(日澤雄介氏演出、24日まで)が13日、東京・紀伊國屋ホールで開幕した。新宿歌舞伎町の“トー横”をテーマにした社会派作品で、14日夜公演後には、俳優、クリエーター、そして観客によるトークイベント「語り合い~Too Youngをきっかけに~」が開催された。トー横を切り口に、若者の孤独や生きづらさ、大人とのすれ違いを捉えたこの舞台を通じ、現代社会が抱える課題を身近な問題として向き合い、意見交換した。

トークイベント「語り合い~Too Youngをきっかけに~」を開催
トークイベント「語り合い~Too Youngをきっかけに~」を開催

宮崎秋人、佐々木チワワらが参加

 俳優・宮崎秋人が主演する舞台『Too Young』(日澤雄介氏演出、24日まで)が13日、東京・紀伊國屋ホールで開幕した。新宿歌舞伎町の“トー横”をテーマにした社会派作品で、14日夜公演後には、俳優、クリエーター、そして観客によるトークイベント「語り合い~Too Youngをきっかけに~」が開催された。トー横を切り口に、若者の孤独や生きづらさ、大人とのすれ違いを捉えたこの舞台を通じ、現代社会が抱える課題を身近な問題として向き合い、意見交換した。

 作品は、ワタナベエンターテインメントがさまざまなクリエーターやプロデューサーらとコラボレーションし、演劇の可能性を広げる実験的プロジェクト「Diverse Theater」の第2弾。興信所の調査員・本郷信也(宮崎)がトー横で起きたある少女(伊礼姫奈)の死を調査していくところから物語が始まる。共演はトー横界隈を仕切る顔役・ジャックを綱啓永、本郷に調査を依頼する少女の母・亀山裕子を朝海ひかるが演じる。作品では“歌舞伎町のリアル”が浮かび上がるのもポイントの一つで、10年にわたり歌舞伎町に足を運んできた文筆家・佐々木チワワ氏が構想段階から参加し、取材と脚本監修に携わったことで作品に深みが増している。

 14日のトークイベントには、その佐々木氏をはじめ、宮崎、綱、演出の日澤氏(劇団チョコレートケーキ)、本作プロデューサーで司会を務めたワタナベエンターテインメントの渡辺ミキ社長が登壇。本作を通じ、トー横など現代社会の課題を我が事として考えるきっかけの場として、観客も参加した。まずは作品の舞台裏からトークが始まった。

 日澤氏は「トー横というと僕らはどうしても色眼鏡で見てしまうが、チワワさんから『(トー横は)場所や集う人が違うだけで、部活や教室のようで、なかなか楽しいところ』という話を聞いて、最初は暗めに演出していたのを、子どもたちにキャッキャしてもらったり、大きな変更をしました」と稽古段階で演出プランを変えていったことなどを明かした。綱は「チワワさんが現実味のある話をしてくれたことで、より深くトー横や歌舞伎町を知ることができました」と語った。

舞台『Too Young』
舞台『Too Young』

「歌舞伎町の住人」からも舞台に質問

 イベントでは今まさに舞台を見た観客からの問いに答える場面もあった。「大人とキッズ、どちらに共感する?」という質問では、宮崎が「キッズたちの、痛みを分け合える関係がいいですね。この歳になると『自分を見てよ!』となかなか他者に向けては思わないので、そういう意味ではうらやましいところもあります」と回答。綱も「僕もキッズですね。この子たちの親や友だちとの関係を見ると、改めて自分は恵まれているんだなと」と共調した。

 さらに、「この作品で価値観が変わった?」という質問には、日澤氏が「もともと僕はすごく物事を決めつけがちで、『子どもはこうあるべきだ』とか『学校には行くべきだ』とか、そういうものがあった」と自己分析しつつ、「変われなかったり、生きづらさを隠さなきゃいけない大人たちの方に共感するんですが、トー横のリアルや若い俳優さんを見ていると変わらざるを得ないし、変わらなきゃいけないんだなと思いました」と、作り手としての気づきに言及した。

 すると佐々木氏が「普段トー横の子たちとも話しますし、娘が帰ってこないという親御さんからDMをもらうこともありますが、トー横のワードに縛られない距離感が大事だと思います。この作品で描かれた、人との距離感をどうしていったらいいんだろう?という舞台描写が象徴的でした」と親子の普遍的なテーマを本作に見出していた。

 また、歌舞伎町の元住人という観客からは「少しクサいセリフが多かったが、どんな気持ちで言っていたか?」との問いかけも。宮崎は「正直に言って最初は『これは言えない』と日澤さんに言いました」と苦笑いし、「でも、『やりましょう』となって、日澤さんには、どうやったら言えるようになるか、付き合ってもらいました」と明かした。

 ここに、歌舞伎町を見てきた佐々木さんも加わり、「歌舞伎町に来ている時点で、みんな恥も外聞もなくて。中二病をこじらせてポエムを吐きがちになる人が新宿に集まるような気がしていて、夜の新宿の魔力のような、クサさが舞台にもありましたね」と素直な感想を述べ、現実の新宿らしさを感じていた。

 トークのテーマは「トー横のような、センシティブな題材を演劇で扱う意味」とさらに深まり、本作の核心に迫る形へと移った。最初に日澤氏が、「一番大切にしたのは、この題材を消費しないことです。目を背けず、社会に実在する出来事として描き、お客様に観ていただく。それによって、この問題を『ないこと』にしないで共有することが、演劇で扱う意味だと考えています」と強調。

 続けて宮崎が「現実世界って救いがないこともあります。でも、エンターテインメントの世界だからこそ、きれい事だと言われても救いを描くことができます。光が当たりにくい部分にも光を当てて、救ってあげたい、という気持ちで演じています」と俳優としての思いを語った。

 最後は、改めて登壇者から観客へメッセージが送られた。宮崎は「段取りやセリフはガチガチに決まってなくて、本当にその場のやりとりが毎日起こっています。毎回何かしらが起きてスペシャルな公演になるので、何度でも足を運んでいただけたらなと思います」と熱くアピール。佐々木氏は「この舞台は期間限定ですが、600メールくらい先のトー横はずっとその場にあって、そこに誰かがいて、また会えていろいろなことが起きるのがトー横の良さかなと思いました。皆さんも今日ちょっとだけ遠回りしてさまざまなことを考えていただけるといいかなって。楽しみになると思いますし、気軽に舞台を見てみることにもつながるかなと思います」と話した。

 舞台と現実のトー横、双方の認識を深める機会になったトークイベント「語り合い」は、20日も実施。演劇ライターの徳永京子氏と脚本の古川健氏(劇団チョコレートケーキ)、宮崎と綱が参加して行われる。

※宮崎秋人の「崎」の正式表記は「たつさき」

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