元宝塚トップ・柚香光「コロナ禍はありがたい時間だった」 多数の公演中止でも「有意義」と言い切れるワケ

宝塚歌劇団元花組トップ・柚香光(ゆずか・れい)が退団後初のミュージカル『十二国記』(12月9日~29日、東京・日生劇場など)で、加藤梨里香とともに、“二人一役”に挑む。原作は、1991年刊行以来、シリーズ累計1300万部超、2002年にアニメ化もされた小野不由美氏作のファンタジー小説。今回は、シリーズ本編の第1作『月の影 影の海』をベースに舞台化される。柚香と加藤演じる平凡な女子高生・中嶋陽子が、連れ去られた異世界でいかに試練に立ち向かうかを描く。同作でグランドミュージカル初座長を務める柚香が今の思い、在団中、退団後のさまざまな挑戦を語った。

宝塚退団後、初のミュージカル出演を控える柚香光【写真:増田美咲】
宝塚退団後、初のミュージカル出演を控える柚香光【写真:増田美咲】

退団後初のミュージカル『十二国記』で“二人一役”

 宝塚歌劇団元花組トップ・柚香光(ゆずか・れい)が退団後初のミュージカル『十二国記』(12月9日~29日、東京・日生劇場など)で、加藤梨里香とともに、“二人一役”に挑む。原作は、1991年刊行以来、シリーズ累計1300万部超、2002年にアニメ化もされた小野不由美氏作のファンタジー小説。今回は、シリーズ本編の第1作『月の影 影の海』をベースに舞台化される。柚香と加藤演じる平凡な女子高生・中嶋陽子が、連れ去られた異世界でいかに試練に立ち向かうかを描く。同作でグランドミュージカル初座長を務める柚香が今の思い、在団中、退団後のさまざまな挑戦を語った。(Miki D’Angelo Yamashita)

『魔性の子』で始まった本シリーズは、現実世界とつながる異世界「十二国」で、天意を受けた霊獣“麒麟”が王を選び、国を治めてゆくというスケールの大きい物語だ。

「企画書をいただき原作を読んだ時は、1ページめくるごとに物語にぐいぐい引き込まれ、陽子の境遇や運命の向かい方からパワーやエネルギーを受け取りました。2人で1人の主人公を演じるという大きなチャレンジでもあり、オファーをありがたくお受けしました。原作ファンの方の熱い思いを傷つけることのないように、小野先生が描きたいことを追い求めて役づくりにつなげたいです」

 柚香が演じるヨウコは、現実世界の陽子(加藤)が異界へ行った後の姿。見知らぬ世界で生き伸びるために戦い、厳しい試練を乗り越えていく。稽古に入り、全体像がつかめてきたところで話を聞いた。

「歌は15曲ほどあり、リズムも音程も複雑で難易度の高い壮大な曲ばかりです。ソロも複雑な掛け合いもあるので、歌でも『生への執着と強い意志』を表現していきたいです。彼女の成長の過程には、胸に刺さる言葉がたくさんあります。中嶋陽子が抱えている葛藤、迷いを深く読み込んで伝えなければと模索中です」

 現実世界と異世界が交錯する壮大な時空の中、ヒロイン・中嶋陽子の「この世」と「異世界」での姿を2人の俳優が演じ分け、現実と心の内を表現する。このファンタジー性あふれる舞台が、演出の山田和也氏により、どのようにビジュアル化されるのだろうか。

「迫力ある映像や音楽も魅力ですが、舞台装置も見どころです。山田さんのプランの中には、“モップ”と呼ばれるものがあります。モップによって空間の感じ方が目まぐるしく変化します。お稽古場には、私(ヨウコ)が戦う獣たちが既に鎮座していますし(笑)、モップもお稽古場にはセットとして既に入っています。装置が縦横無尽に動く姿など、形が見えてきたところでワクワクしています」

 二人一役にしたのは、中嶋陽子の心の声や葛藤を別の登場人物のように具現化して2つの世界を対比し、「内面を可視化して中嶋陽子の気持ちを追体験してもらいたい」という山田氏の狙いだという。

「見た目が全く違う私と加藤さんの2人が舞台上にいて、1人の人物を演じるのですが、中嶋陽子の心のざわめきや葛藤を2人で自問自答する会話がたくさんあり、セリフ、歌の掛け合い、デュエットなどで表現されていきます。お客さまにも中嶋陽子の感情を共有していただけるように、加藤さんと丁寧に作り込んでいきたい場面です」

 退団後初の舞台、劇団☆新感線の『紅鬼物語』でも、平安の世に生きる鬼を内包した女性、同時に貴族の妻であり母であるという複雑な役どころを演じた。鬼としての狂気と、人間らしさの狭間での葛藤が高く評価された。殺陣の第一人者である共演者、早乙女友貴とも立ち回りを見せ、圧倒的な存在感を発揮。今回も、異世界の獣と剣を交える場面が見どころの一つだ。

「最初は自己防御のため剣を持ったヨウコが、自らの意思で剣をふるうようになる過程で、剣に対する感情が変化していきます。男役を生かせる技術と、一から作らなければいけない部分があるので、試行錯誤しているところです」

 ダンスに定評のあるショースターでもあるが、舞台に立つだけで、自分の世界に観客を引き込むオーラは唯一無二。クラシックバレエを幼稚園の時に始め、中学生の時に観劇した宝塚の舞台に衝撃を受けると、すぐに入学願書を出した。

「音楽学校のカリキュラムを見て、自分が学んだことない芸事全般、歌や芝居、モダン、タップとジャンルもさまざまなダンス、さらに日本舞踊や茶道などもあり、未知の世界に憧れました」

心身ともにタフな柚香光【写真:増田美咲】
心身ともにタフな柚香光【写真:増田美咲】

『花男』の道明寺で得た財産

 入団してすぐ頭角を現し、10年の早さでトップに就任。柚香の代表作の中には、『ポーの一族』や『はいからさんが通る』など人気マンガを舞台化した作品も多い。いずれも「まるで原作のマンガから抜け出てきた」と評されるほど好評を博した。

「特に『花より男子』の道明寺司は私にとって大事な作品、転機になった役です。日本を舞台にした現代劇の男子高校生を演じることで、舞台上での楽な呼吸、力の抜け方の感覚を覚えることができ、芝居をする上で大きな財産になりました」

 トップ就任は2019年11月。だが、翌20年春からコロナ禍に入り、お披露目の『はいからさんが通る』を含め、多数の公演が中止になった。

「コロナ禍がなかったら、もっと役を極められたかもしれないし、幅広い経験もできただろうと思うと、悔しい気持ちもあります。ただ、コロナ禍があったからこその時間、有意義な学びの時間も持てました。ですので、『思いがけずにいただいたありがたい時間だった』と捉えています」

 舞台優先の日々はプレッシャーの連続でもあるが、好きなことが仕事。メンタルの不調を感じたことがないという。

「緊張はほぐさなくていいと思っています。むしろ、集中力を高めるポジティブな力に変えてくれます。自分の新たな可能性を引き出すためにも必要だと思っています。シンプルですが、よく寝て、よく食べることがエネルギーの源です。リラックスタイムは、愛犬の散歩。落ち込んだ時は部屋の片付けをします」

 在団中から「退団後も舞台に立ち続けたい」と俳優としての未来を思い描いていたという。舞台に懸ける思いは熱い。

「退団してからも、ありがたいことにお仕事で忙しくさせていただいています。1日1日が新しい挑戦の連続ですし、自分を磨いていきたいです。新しいお仕事に出合う度に課題がたくさん見つかるので、今は、自分を見つめ直すことが大切な時期だと感じています。好奇心や知識欲を大切にして前進していきたいですし、楽しみながら勉強して向上していきたいです」

「精神的にも体力的にもタフ」。そんな今回の大役を務めた後も、ジャンルレスの表現活動に幅を広げ、柚香ならではの才能を開花させていくことだろう。

□柚香光(ゆずか・れい) 1992年3月5日、東京都生まれ。2009年、宝塚歌劇団に入団。19年11月、花組トップスターに就任。24年5月、「『アルカンシェル』~パリに架かる虹~」をもって退団。ソロコンサート『TABLEAU』や宝塚OGが集結したエンターテインメントショー『RUNWAY』などに出演し、劇団☆新感線『紅鬼物語』が、退団後初の舞台作品となった。171センチ。

<ミュージカル『十二国記 -月の影 影の海-』日程>

12月9日~29日 東京・日生劇場
1月6日~11日 福岡・博多座
1月17日~20日 大阪・梅田芸術劇場メインホール
1月28日~2月1日 愛知・御園座

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