藤井対羽生の“天才対決”、4戦目にして羽生が初勝利、羽生を「本気にさせた」戦いだった
藤井2冠が羽生九段の手のひらの上で踊らされる内容に
果たしてここからは、羽生さんが強さを見せました。「好きに攻めてこい」と言わんばかりの指し口で、藤井2冠に自由にやらせながら、結局、一手遅かったはずの攻めを間に合わせて、いつの間にか羽生勝勢になっていました。我々プロが表現するところの「強い勝ち方」というやつです。
これを実践するためには、あらゆる攻め筋をいなせるという判断力と読みの力、そして度胸が必要で、1か所でも読みに穴が開いていれば即負けとなります。現実的には羽生さんとはいえ全ては読み切れないので、感性と判断力も総動員しての選択だったと思いますが、まさに羽生将棋ここにありというような、非常に強さを感じさせる指し回しでした。
藤井2冠はどう感じたでしょうか? このような、まるで手のひらの上で踊らされるような内容は、これまで経験したことがなかったはずです。この懐の深さというような、円熟の至芸を経験したことは、今後の大きな財産となるはずです。これまで3戦3勝で、羽生さんの「怖さ」を知らなかった分、勝ちっぱなしであるより良かったと言えると思います。将棋には怖いものがいくらでもある。そのことを「天才の先輩」が教えてくれたと言ってもいいでしょう。
遂に羽生さんが本気を出したか…!
ここだけの話、私は今回の内容と結果を見て、「遂に羽生さんが本気を出したか」と思いました。もちろん、羽生さんがこれまで手を抜いていたという意味ではなく、相手が相応の立場と実績になれば、それに合わせて強い将棋を指してみせるという超一流にしかできない対応力を砕いて表現した言葉で、棋士の世界では昔から内々で使われているものです。いずれにしても今回の対戦では、新旧天才対決でようやく先輩が初勝利。羽生健在を強烈に印象付けました。
敗れた藤井2冠は、全く失うものはないでしょう。王将リーグもまだ始まったばかり。挑戦の可能性は全く失われてませんし、何より「強い羽生さん」を体感したことはむしろ喜んでいるかも知れません。今後はまだいくらでも2人の対戦はあるでしょう。いずれ両者にとってはるかに重要な、共に負けられない状況での対局もあるかも知れません。まだまだ成長するであろう藤井2冠と、円熟期で凄みを増す羽生九段、2人の対戦は名局の期待しかありません。