藤井対羽生の“天才対決”、4戦目にして羽生が初勝利、羽生を「本気にさせた」戦いだった
将棋の藤井聡太2冠(18)が、22日に都内で行われた第70期王将戦挑戦者決定リーグの初戦で、羽生善治九段(49)に敗れました。今回は、注目を集めた一局を振り返りたいと思います。
第70期王将戦挑戦者決定リーグ開幕局を総括
将棋の藤井聡太2冠(18)が、22日に都内で行われた第70期王将戦挑戦者決定リーグの初戦で、羽生善治九段(49)に敗れました。今回は、注目を集めた一局を振り返りたいと思います。
まず、本局の背景ですが、王将戦の挑戦者を決めるリーグ戦が新たに始まるタイミングで、リーグ戦自体の開幕局という位置づけ。藤井2冠は2019年、この王将戦のリーグ最終局で挑戦者決定戦を行い、敗れてその時点での最年少タイトル挑戦者の記録達成ならず、という悔しい思いをした棋戦。「今年こそは」の思いも強いはず。ご存じの通り、この王将戦挑戦者決定戦の後、20年春から夏にかけてたて続けにタイトルを2つ取り、藤井「2冠王」となって今や押しも押されもせぬ超一流棋士に。
一方の羽生九段はどうか。最盛期を知る者としては、近年の成績は不思議としか言いようがないものですが、実は直近に竜王戦の挑戦を決めたばかり。羽生さんにとっての最大のモチベーションは、タイトル数100の記録。現状99なので、あと1つのタイトル獲得での達成なのです。そのためのタイトル挑戦者の権利を手に入れたばかり。羽生さんの調子も意欲も、上向いている状況です。
これまでは藤井2冠の3連勝だった
中学生棋士という天才を証明する経歴を持つ2人の対戦。ここまでの公式戦での戦績は藤井2冠の連勝。意外にも偏っていて、全ての対局で藤井快勝という内容。今回の対戦は藤井2冠として、羽生さん相手に対局時に「上座」に座るという状況。藤井2冠にとって、いやが上にも第一人者であることを認識する状況ですが、これは今後も続いていくので慣れるしかありません。
ちなみに対局時の上座と下座の関係は、年齢や棋士年数より実績が優先されるので、今や藤井2冠の上座に座れるのは基本的に同等のタイトル2冠以上の棋士だけなので、圧倒的に上座に座る機会が増えることになります。
好調同士の一戦は、リーグ戦という負けたら終わりのトーナメント戦ではない状況も合わせ、余計なプレッシャーを両者が感じなくて済む、内容に専念しやすい状況での対局で熱戦が期待できました。
藤井2冠が一方的に攻めまくる展開に
その肝心の対局は、後手の羽生九段が横歩取りという戦型に誘導する展開に。対する藤井2冠の構想は非常に攻撃的で、攻めの力が問われる組み立てとなりました。あらゆる展開を苦にしない藤井2冠ですが、一方的に攻めまくる展開でどのように指すのか、これもまた楽しみな内容となりました。
ひとつ、特徴的だったのが46手目後手の羽生さんが△5五歩と突いた局面。ここは藤井2冠の指し手が、プロの目から見ても3通りはある局面で、どの手を選ぶかで後の展開が全く変わってくるという、非常に重要な局面。結果、ここで藤井2冠が選んだのは一番穏やかな選択肢。逆に激しく攻め合う順がどちらに分があったのか、プロでも意見が分かれそうな難解な変化であったことは確かです。
藤井2冠が穏やかな変化を選んだ結果、羽生九段の「強気」を引き出すことになりました。自陣に手を入れず、攻め合いに活路を見いだす展開で勝負をかけました。と言っても、基本的に藤井2冠の攻めが一手早く見える展開で、かなりの対応力と勇気がなければ選べない順です。
それを可能にしたのが54手目△4八歩。突如藤井玉の真横に飛んだ手裏剣。この手を見て私は直感的に、羽生さんが勝ちやすくなったのではと思いました。いかにも羽生さんらしい、才能を感じさせる一手だったからです。