日本語力ゼロで来日→成田空港到着後に驚き…日本人の優しさに感動「ギニアでは絶対にありえない」

西アフリカからはるか遠く離れた日本で、早朝2時に起きて市場で働く――。言葉の壁、文化の違い、宗教の習慣。それでも「日本人の優しさ」が希望となり、異国での新生活を支えてきた。ギニア共和国出身の男性が語る、驚きと感動に満ちた日本での暮らしとは。

ターレを乗りこなすウスマンさん
ターレを乗りこなすウスマンさん

母国から丸1日、成田空港に到着すると…

 西アフリカからはるか遠く離れた日本で、早朝2時に起きて市場で働く――。言葉の壁、文化の違い、宗教の習慣。それでも「日本人の優しさ」が希望となり、異国での新生活を支えてきた。ギニア共和国出身の男性が語る、驚きと感動に満ちた日本での暮らしとは。

 大阪の水産物加工会社・株式会社三恒で働くギニア共和国出身のディアロ・ウスマンさんは、2019年に来日した。

「ギニアにいた頃、大学時代はコンピューターサイエンスを学んでいました。その勉強も兼ねて、中国系の携帯電話会社でアルバイトをしていました。そこで中国人の友人がたくさんできたんです。アジアっていいなぁ~と親近感を抱いていました」

 ウスマンさんは6人きょうだいの次男。ギニアでは国民の多くが、ヨーロッパかアジアへ就職する。兄はドイツへ就職したため、それならばとアジア圏に挑戦しようと思っていた。

「正直、当時の僕は、アジアの国々はどれも同じで、中国と日本の区別がついていなかったです(笑)。子どもの頃から日本のアニメ(ポケットモンスターやドラゴンボールなど)を見て育ちましたので、あのアニメの聖地に行ってみたいなと。最初はそんなきっかけで日本への就職を決めました」

 母国語のギニア語、英語、フランス語を習得していたが、日本語は奥が深く、世界一難しい語学だと直感した。

「その日本語に挑戦することで、新しい人生が拓けてくるように感じました」と、チャレンジを決めた。

 ギニアから日本までは、飛行機で20~25時間ほどかかる。首都コナクリから出発する場合、イスタンブールやドバイなどで乗り換えるのが一般的だ。

 成田空港に到着したウスマンさんは、想像とのギャップに驚いた。

「とにかく遠かったです!(笑)飛行機を乗り継いで、丸1日以上かかりますから。到着してまず驚いたのは、新幹線や電車がたくさん走っていることです。ギニアには、バスと車しかありませんでした。日本なら電車でほとんどの行きたい場所へ行くことができます。しかも速い。初めて走る新幹線を見たときは、その速さに驚きすぎて感動しました」

 すぐに言葉の壁が立ちはだかったが、思いもよらない出来事が空港で起きた。

「僕は日本語学力ゼロで来日したんです。ですので空港に到着したそのときから、言葉がしゃべれず困ってしまいました。電車の切符を買おうにも、初めて見る電車ですので、買い方が分からない。着いた瞬間から言葉の壁に押しつぶされそうになったとき、日本人が声をかけてくれたんですね。僕が行きたい地名を言うと、彼は親切にも切符を買ってくれたんです。こんなこと、母国のギニアでは絶対にありえないことなんですね(笑)。日本人ってなんて優しいんだ! と驚きました」

 初めて出会った日本人が優しかったのは、恵まれていた。そのあとも多くの日本人たちが助けてくれたという。

「『優しい』ことは、最高の思い出になり、最高の環境を作ってくれると思います。6年たった今も当時、心細かった僕を助けてくれたあの日本人への感謝を忘れたことがありません」

家族3人の民族衣装姿
家族3人の民族衣装姿

“ひとりご飯”に慣れない日々

 道に迷ったときに見知らぬ人がわざわざ一緒に行き先まで案内してくれたこともあった。また、重い荷物を持っていたときに駅で助けてくれた人もいた。日本人の気質は、街の清潔さにも表れていた。「日本はどこも清潔でキレイだということです。住む場所もキレイですし、特に病院はキレイですね。気持ちいいし安心できます」。日本という国がどんどん好きになっていった。

 一方で、母国とはさまざまな場面で“文化の違い”も実感した。

 最も違和感を覚えたのは、食事の習慣だ。

「日本では、食事をするとき、一人のことが多いということです。僕の国では、家族全員で、または職場でも職場の仲間たち全員で食事をします。時間も皆で合わせられるように決まった時間に取ります。ですが、今の職場では、時間ができた人から順に食事休憩を取っていますね。一人で取る食事は、なんとなく味気なく、寂しいと思うことが多いです」

 ギニアでは、家族で食事を取ることをとても大切にしている。昼食も、田舎では家に帰って家族と食べることが多い。都市では仕事の関係で外で食べる人もいるが、夕食はほとんどの家庭で家族全員が集まって一緒に食べる。

 一人での食事に慣れないとき、寂しさをまぎらわすために工夫したこともある。

「家族や友達と電話で話したり、音楽を聞いたりして気持ちを落ち着かせました。ときどき、テレビを見ながら食べることで楽しい気分になりました。そうすることで、少しずつ一人の食事にも慣れていきました。ちなみに日本のテレビ番組では、NHKの相撲が好きです。西アフリカのセネガルに、日本の相撲ととてもよく似たゲームがあるからです」

 また、宗教の違いも、日本では新鮮に映った。

「僕は、イスラム教の信者で、ムスリムというのですが、ムスリムは1日に5回、お祈りします。日本に来た今も、お祈りの習慣は続けています。また、ラマダンといわれる期間は、晩御飯しか食べてはならない。小さい頃から守ってきたことなので日本にいる今も、ラマダンは続けています。そういった習慣が、日本にはほとんどなく、また何か特化した宗教があるわけでもない。皆さん自由なんですね。そういうところも、最初のうちは、違和感というか新鮮でした」

ギニアにて
ギニアにて

「魚を生で食べることは絶対ない」

 日本で大好きになった食べ物がある。それはすしとラーメンだ。

「ギニアでは魚を生で食べることは絶対ないし、魚は生でなんて食べられないものと思い込んでいました。ですので日本へ来て初めてすし屋に行ったときは、おおいに戸惑いました。でも、日本人の友達が、『おすしを食べると元気になるよ』って教えてくれたんです。食べたら本当に元気が出て!(笑)以来、おすしが大好きになりました。今でも外で食事するとなると、必ずといっていいほどすし屋に行っています」

 ラーメンは、最初、「パスタと同じ」と思っていたそう。

「ギニアでは、パスタは食べるのですが、ラーメンはないです。なので初めてラーメンを見たときパスタだと勘違いして注文して……『パスタとラーメンは違うよ!』と教えてもらって驚きました(笑)。でもどちらもおいしい。いまだに味の区別はついていませんが!」と付け加えた。

 一方、苦手な食べ物は納豆だ。

「臭いがダメ(笑)。妻と1歳8か月になる息子がいるのですが、妻も納豆は苦手だそうです。でも、息子は食べられるみたいです。息子に納豆の味を教えてくれた保育園の給食には感謝ですね」

 現在、ウスマンさんは大阪市中央卸売市場本場内で働いている。2年間のアルバイトを経て2025年9月から正社員になった。出勤は早朝2時。市場内で商品を買ってくれた小売業者へ、伝票と照らし合わせながら荷物をピッキングする業務を行っている。営業部員が販売した商品を顧客へ届けるアンカー的な役割のため、緊張感あふれる中、誤りのない慎重な仕事が求められている。覚えたての日本語で周囲のメンバーとコミュニケーションを取りながら、日本での生活と仕事、人との関わりを楽しんでいる。

同僚と笑顔「会社が大好きです」
同僚と笑顔「会社が大好きです」

発展途上のギニア…子どもに託す夢

 今後の目標について、ウスマンさんは目を輝かせた。

「僕は今勤務させていただいている、三恒という会社が大好きです。チームワークはよいし、皆、優しい。それに皆、仕事を一生懸命にやっている。おいしいお魚を全国の人たちに食べてもらえる。僕の夢は、三恒のような会社を、母国のギニアでも作ることです」

 単身赴任で、妻と子どもは東京で仕事をしながら暮らしているが、間もなく、大阪に引っ越してくる予定だ。

「家族3人で暮らせることは、本当に楽しみです。息子にも、僕と同じ、コンピューターサイエンスを学ばせて、将来は医者になってほしいです。ギニアの医療はまだまだ発展途上ですから、日本の最新の医療技術を学んでもらって、母国を豊かにしていってほしいと思っています」

 そのためにはまず、日本語をもっと上手になりたいという。

「親子3人で日本語をしっかりと話せるようになって、日本人の友達をたくさん作りたいです。夢に近づけるよう、日々頑張っていきたいと思っています」と、ウスマンさんは締めくくった。

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